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アルフレッド・ダグラス(Lord Alfred Bruce Douglas 1870-1945)
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”流布本獄中記の主人公はオスカア・ワイルドその人であつたが、見やうによつては手品の種明かしのやうに興褪めなこの完本獄中記の主人公は、無頼の美少年アルフレッド・ダグラスである。芸術家が生活人に敗北する経過をかくもまざまざと描き出した作品は、類を見ない。ダグラスの生き方に比して、作品と生活との間を少しでも器用に渡り歩かうとするワイルドの生き方はなんとせせつこましいことか! 芸術家の生活はそれ自身生活の戯画であることを、いかにワイルドが壮大な身振で隠さうとしてゐることか! たしか「一粒の麦」でジイドが、ワイルドよりダグラスのはうが遙かに旗幟鮮明な性格をもつてゐたといふ意味のことを書いてゐるが、事実性格といふものはワイルド好みの「想像力」を掣肘するものであり、生活と行動に、一定の論理的基準を提供するものである。
ダグラスはいかに彼自身の論理に則つて行動し、ワイルドはいかに論理を喪つて生きることか! 作品といふものはみんな言訳であり、行動のあとから辻褄をあはせた論理の織物に他ならないことを、完本獄中記は実に象徴的に実証してゐる。要するに芸術家は論理を犠牲に供して生きるほかに活路がないのだ。
ワイルドが夜の目も寝ずに看病した流感をワイルドにうつすと、病人をほつたらかしにしてロンドンへ遊びに行つてしまふダグラスは、さればこそ燦然と光りを放つて、ワイルドの作品それ自体に化身してゐる。”
(三島由紀夫「完本獄中記 ワイルド作」)
”この間(アルフレッド・ダグラスが書いた)Oscar Wilde and Myselfというのを読んだんだけど面白いですね。実に言いたい放題で。ダグラスは写真で見てもやっぱり美青年ですね。ちょっと病的なところがあるが。ワイルドはのちには肥満してみるかげもないですね。性格的にはアルフレッド・ダグラスの方が強いですね、非常に強烈な性格で、ワイルドの方が弱い。でも、あれだけ問題を起こしたにもかかわらず、ダグラスはひどく生きのびちゃって威張っていますね・・・貴族は威張っていいんでしょうね。貴族はあまり傷を負わないんでしょうね・・・・”
(「座談『サロメ』と三島由紀夫その舞台」より)
第九代クインズベリー侯爵ジョン・ダグラスの三男。
見る者を困惑させる美貌と、性格が才能であることの典型例・・・傲慢、怠惰、不遜。狡知に長け、無限軌道を無道徳に駆け回る。
ドリアン・グレイ(セバスチャン・メルモス?)の肖像画から抜け出てきた黒薔薇。言い違うなら、影ばかり濃い目な聖者。
ダグラス卿は、ワイルドの戯曲『サロメ』の不出来な英訳者であるが、その詩作は賛美者を勝ち得ており、作家のバーナード・ショーは、ダグラス卿の腕前をパーシー・シェリーと比較し、フランク・ハリスFrank Harris(1856-1931)はその詩興にシェイクスピア級の霊感をみとめている。アーサー・キラークーチSir Arthur Quiller-Couch(1863-1944)は同時代のもっともすばらしい詩人としてダグラス卿を挙げている。ワイルド裁判でも衆道礼賛として取り沙汰された「二つの愛(Two Loves 1894)」が有名である。
コルヴォー男爵の生涯と業績の、最も早い共感者のひとりであった。
”二十一歳のボジィ(「坊や」。ダグラス)は、怠惰ではあったが知的で、どんな堅い心をもとろかすような美貌の持ち主だった。優雅でしなやかで、すらりとしており、その金髪はこめかみのところでカールしていた。ほとんど完璧すぎる顔のなかでも、最も印象的なのは明るい碧い眼であった。鼻はくっきりと繊細で、少し受け口になった下唇は湿っていた。その容貌のすべてが率直、無私、純潔を物語っていたのである。表情には、子供のような無垢がうかがわれた。それはまさに、美を情熱的に讃えるワイルド夫妻の想像力を虜にするような美貌であった。
しかし残念なことに、その完璧な外貌とはうらはらに、彼は率直でも無垢でもなかったし、子供っぽくもなかった。年齢は若かったが、放蕩や悪徳の経験にかけてはじつに老練であった。甘やかされ、わがままで、途方もない浪費家で、最悪のたぐいの怠け者だったのである。これほど誉めるべきところの少なく、非難すべきところの多い気質は、めったにない。”
(アン・クラーク・アモール『オスカー・ワイルドの妻』より 角田信恵訳、彩流社)
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