ログインしてさらにmixiを楽しもう

コメントを投稿して情報交換!
更新通知を受け取って、最新情報をゲット!

蝮☆千夜一夜コミュの週刊『機動戦士ガンダム ガイスト〜鬼の啼く宇宙(そら)編〜』第36話〜熱情〜(パート2)

  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
〜パート1からの続き〜


 メーガのモビルスーツデッキでは、ジョンが叫んでいる。
「プロペラントタンクを装備しろ!それから、銃器とバズーカは積めるだけ積んでくれ!!」
 整備兵に命じる。長期戦をジョンは意識していた。長い後退戦の経験があるだけに、今後のメーガの戦いを予想するジョン。一度出撃すれば、なかなか帰還できなくなるだろう。だから、被弾に弱くとも、長期戦に向くプロペラントタンクを装備し、積めるだけの武器を持つ。
「食らえば火達磨。切り抜ければ・・・そこに何があるかは・・・行ってみないとわからん・・・か」
 独り言を呟いて、ジョンは愛機リックドム?を見あげた。
 かたや、マザ・Eのムレノもハンガーにいた。
「プロペラントタンクか・・・大変だな、そっちは」
 ジョンに話しかける。
「仕方ないさ、ムレノさん。こっちは独立戦争末期の機体だからな。マザ・Eのようにはいかねえさ」
 ジョンが腕を組んで答えた。
「ま、よろしく頼む」
 そう言ってムレノはジョンに手を差し出した。
「ああ、こっちこそ」
 ジョンがその手を握る。
「発進準備完了!搭乗せよ!」
 アナウンスが木霊する。
「じゃあ、行くか。たかが4機でとは、舐められたもんだが」
 ムレノがぼやく。ジョンも苦笑いしながら
「そうだな」
と言った。4機が現前の敵でしかないことは、ムレノにもジョンにもわかっていること。しかし、それ以上のことを言うことにたいした意味はない。
 二人の男がめいめいの愛機に乗り込んでゆく。
「カシラッス・ムレノ、マザ・E出るぞ!」
 ムレノのマザ・Eが発進する。続いて、
「ジョン・キャメル、リックドム?、出撃する!」
重装備のリックドム?が発進した。2機の明滅する光がメーガから遠ざかっていく。


 不気味な距離感を保っていた、スカーヴァティーと連邦軍の追跡艦であるが、その背後から接近する無数の熱源をスカーヴァティーも探知した。
「いよいよか」
 大佐が呟く。ブリッジにも緊張が走った。
「ハンガーに行く。ティドウィル、後を頼む。世話になったな」
 ティドウィルのほうを見ながら大佐は言った。ティドウィルは敬礼してそれに応える。ブリッジのクルーもそれを見て、全員、大佐に敬礼した。そして静かに、大佐はブリッジを後にした。
 ハンガーでは、すでにウェイヴェルが控えていた。
「大佐、行きましょうか」
 ウェイヴェルが話しかける。それを聴いて大佐は、フッと笑って、親指を立てた。
 白い機体が2機、ハンガーで二人を待っている。白く塗られたザク?αと、ゲルザクである。
「ん?」
 大佐はゲルザクを見て、
「・・・部長か」
と言った。ウェイヴェルが、
「ええ、そうなんです。今回の作戦は機動力が命で、ザク?にゲルザクが着いていけるか・・・というのが鍵じゃろうからって。ゲルザクのバックパックを、ゲルググBのものに変えたそうです」
かすかに笑いながら大佐に語った。
「相変わらず、無茶な扱いを受ける機体だな」
 大佐も笑った。
「しかし、これで大佐に着いていけるでしょう」
 ウェイヴェルはそういって、大佐に敬礼した。
「ザク?とはかなり違うから、扱いは難しいかもしれんぞ」
 大佐はウェイヴェルに警告する。
「ここまで来たら、クソ食らえってなもんですよ」
 大佐にウインクして、ウェイヴェルは笑った。
 二人はそれぞれのモビルスーツに乗り込んでいく。するとモニターのところに何かある。
「これは・・・?」
 大佐が手にとって見た。
「花か?いや・・・造花か」
 いろんな材料から作ったのであろう。それが一輪置いてあった。
「自分のところにもありましたよ。大佐、これは、ターニャですよ」
 ウェイヴェルが通信で大佐に伝える。
「何?」
「以前、セガールが昏睡状態のときに、ターニャがセガールのために作ったものですよ。自分、見たことがあります。これを持っていった日にセガールが目覚めたんです」
 大佐がじっと花を見つめる。
「・・・・そうか。奇跡を信じて、手向けの花ということだな・・・」
 大佐はそう呟きながら、その花を胸に飾った。ウェイヴェルもそうしている。
「ブリッジ!俺達が出撃したら、そのまま立ち止まらず行け!いいな」
 大佐がブリッジに伝える。
「では、ウェイヴェル、俺達のラストライブに行こうか」
 大佐がウェイヴェルに呼びかける。
「なに、大佐。全国を回って追加公演が決定しますから、まだまだやりますよ!」
 ウェイヴェルがとぼける。大佐はそれを聴いて笑った。
「ザク?α、マツナガだ。出撃する」
 大佐がコールして出て行く。
「ウェイヴェル、ゲルザクだ。行って来るぜ!」
 ウェイヴェルが続く。離れていく二つの光芒を、ほんの少数の整備兵が見送る。ブリッジでも誰も言葉を発しないまま、二人の出撃を見送った。


 マザ・Eとリックドム?が敵4機を迎え撃つ。相手はジム改。
「ジョン、俺が前衛をやる。あんたは援護を頼むぜ」
 ムレノはそれだけ言うと、マザ・Eの速度を上げた。
「ちょ、ムレノさん!」
 こちらの返事を待つまでも無く行動するムレノにジョンは舌打ちしたが、戦術的に間違ってはいない。鈍重な装備のリックドム?を考えると懸命な作戦だ。
「遅れるなよ、元親衛隊!」
 ムレノはそれだけいうと、相手に仕掛けていった。
 連邦のジム改は2機編成のようで、前後に2機並び、併進してくる。その間に割ってはいるかのように、直進していくマザ・E。
「ムレノさん、無茶だ!」
 ジョンが叫んで、後を追う。後方からバズーカを放ち、ともかく相手を威嚇する。敵もマザ・Eに向かって射撃を始めた。
「ふん、マシンガンかよ」
 ムレノはぼやいた。直撃で無い限り、マザ・Eなら大丈夫だ。
「行くぞ、秋水!」
 ムレノはそのまま回避しながら直進し、ビームライフルを撃つ。相手の真ん中に割って入るその瞬間、マザ・Eの腕を胸で交差させた。そして、回転したかと思うと、ビームライフルの二筋のビームが回転してジム改3機を捉えた。爆発していく3機のジム改。マザ・Eの両腕には、それぞれビームライフルが握られていた。残った一機がうろたえる。そこをすかさずリックドム?がバズーカを直撃させ葬った。
「イズ部長、あんた、やっぱり天才だよ」
 ムレノが言った。
「ムレノさん、今のは?」
 ジョンが追いついてきて聞いた。
「マザ・Eで左腕でも照準がちゃんとできるようにしてもらったのさ。もっとも、ロックオンして両手で狙えるのはジェネレータの関係上、時間は数十秒だけだがな。それ以上は、他の機器がやられちまうとかなんだとからしい」
 ムレノが事情を説明した。たしかに両手で別々に射撃するのはメリットがあるが、実際に照準して相手を狙うのはパイロットだ。人間は単一目標しか正確には捉えられないので、結局のところ、こんな戦い方になる。それでも、片腕をやられて戦闘不能になるよりはずっとマシだと、ムレノは先の戦闘から思っている。
「さて、あとはしつこく追ってくるサラミスを片付けよう」
「そうだな。ここからはこのリックドム?の出番だ」
 2機はそのまま、追跡してくる連邦軍のサラミスに向かおうとすると、
「ジョン、ムレノ、12時の方向から敵艦3隻!そちらを片付けたら急いで戻ってきてくれ!」
とオペレーターから連絡が入る。
「ち!なんでこんなとこに敵艦がいるんだよ」
 ムレノが吐き捨てるように言った。
「今まで追跡だけで攻撃してこなかったあの2隻から、モビルスーツが発進してきた時点で、怪しいとは思ったが・・・ムレノさん、メーガは包囲されつつあるかもしれんぞ!」
 ジョンが思うことを述べた。この辺りの空域は、それほどの警戒空域ではないはずだ。そこに敵艦がいるということが何を意味するのかはわからない。だが・・・・
「どっちにしても、包囲なら突破。ただの挟み撃ちでも突破あるのみ!」
 ムレノが吼えた。ジョンも同感だ。
「ムレノさん、行くぞ!」
 2機がサラミス2隻に向かって行った。


 白い2機がスカーヴァティーからどんどん離れていく。その先にあるものは連邦軍の艦隊。モビルスーツだけでも、こちらの10倍はいると思われる艦隊である。
「くっ!なかなかのじゃじゃ馬だぜ、コイツ」
 ウェイヴェルはゲルザクを操縦しながら呟く。加速度の桁が違う上に、アンバランスなゲルザクの構造上、とてもではないが、素直な機体とは到底呼べない。ただ、大佐のザク?αに着いていけることだけは救いである。
「大丈夫か、ウェイヴェル。機体が安定しにくいようだが」
「なんてことないですよ、乗りこなしてみせます、大佐!」
 ウェイヴェルを心配する大佐ではあったが、大佐自身も、ザク?αの機体性能になじめていない。スペックダウンさせているとはいえ、パイロットに負荷のかかる機体であることには間違いはなく、体力の限界まで戦闘を行ったセガールがあのような状態になるのも、無理も無いことと思われる。だが今は、この2機のみが、スカーヴァティーを守りうる戦力なのである。やるしかない。
 やがて前方に、追跡してきた一隻のサラミス改が現れる。向こうも慌てて2機のモビルスーツを発進させていた。
「たかだか2機!」
 ウェイヴェルが叫ぶ。大佐もウェイヴェルもその2機をあっという間に撃墜した。サラミス改は対空砲火で応戦するが、裸の船がモビルスーツに勝てない事は、先の戦争で証明されてしまっている。瞬くうちに沈められた。
「慣熟訓練にはちょうどよい相手だったな」
 大佐が冗談めかして言う。ウェイヴェルも、
「そうですね。少し歯ごたえは無かったですが」
と答えたが、さすがに高機動ブースターを取り付けたゲルザクの衝撃は大きく、うかつな操縦はできないことを思い知ったウェイヴェルであった。
「さて、先ほどの船から俺達が仕掛けた事は筒抜けのはず・・・そろそろ敵さん、本腰を入れてくるだろうな。船の残骸に身を隠して待ち伏せするか」
 大佐がゆっくりと言った。まだ目視できぬ敵であるが、すぐに現れるはずだ。


 連邦軍艦隊では、スカーヴァティーを追跡していた艦が撃沈された事を知り、モビルスーツ隊を発進させた。総数は22機。唯一、カーツーンだけがモビルスーツ隊を発進させていない。
 ケンダ司令はそれを見ても何も言わない。いや、むしろ好都合といった趣である。
「連邦軍艦に通達!我々の力を見せ付けろ、とな」
 ケンダ司令は勝ち誇ったように命令した。
 カーツーンでは、スタービレ艦長がモビルスーツ隊に待機の命令を下し、じっと成り行きを見守っている。例の赤いザク・・・奴が出てくる。ならば、連邦軍艦隊で消耗させ、最後にティターンズでとどめを刺す・・・それが狙いであった。
「さっきも言ったように、ゴッドフレイ機、ブルナイト機は現状のまま待機せよ。」
 スタービレ艦長は命令をくり返す。この艦隊を被うように飛び交う連邦軍のモビルスーツ隊。先の戦闘でも、同じぐらいの数のティターンズ隊がいたのだが・・・数だけで簡単に押し切れる相手ではない。おそらく、今度も、今度は連邦軍が手痛い目に合う可能性は高いとスタービレ艦長は考えている。
「鐘鬼のモビルスーツは2機だという報告らしいが・・・」
 スタービレ艦長が呟いた。
「は?」
 副官が聞き返す。
「いや、たった2機で我々に挑んでくるというのは、連中のこれまでの戦い振りからすると、おそらくは生還を期さない足止めだろう」
 顎を触りながらスタービレ艦長が副官に説明する。鐘鬼の命がけの足止め部隊と、そもそも勝ちに奢り、そこまでの情熱のない連邦軍艦隊との戦いを考えると、手ひどい目にあわされないとも限らない。とはいえ、最後に勝つのは自分たちであるという確信には揺るぎはない。しょせんは『窮鼠、猫を噛む』の類である。したがって、美味しいところだけ我々が貰えばよい・・・・スタービレ艦長はそう考えていた。


 十数隻の艦隊を、20機ほどのモビルスーツが囲む。その光景を残骸の陰から見つめる二つの機影。
「大佐・・・わかっちゃいましたが、今さらにして、あの姿をみると・・・」
 ウェイヴェルが大佐に言う。通信を傍受されないために、機体同士を近づけて、通信ケーブルをつないでいた。
「そうだな。そういえば昔、旧世紀の世界大戦で、史上最大の作戦と呼ばれた戦いがあってな。連合軍の上陸作戦なんだが。連合国の数百隻に及ぶ艦船が群がる上陸地点に、たった2機のドイツ戦闘機が攻撃を仕掛けて、しかも生還している。話だけ聴くと勇敢な英雄話にしか聴こえないが、実際のところ、今の俺達の気分だったろうな」
 大佐はそういって、かすかに笑った。たしかに正気の沙汰ではない。
「だが、俺達の役目は、スカーヴァティーを逃がす事。だからこそ、ウェイヴェル、限界まで戦うぞ」
 大佐が穏やかに続ける。
「わかっています、大佐。こんなパイロット冥利に尽きる舞台は二度とないでしょう。自分のすべてをぶつけて、任務を遂行しますよ」
 ウェイヴェルはそういって、ターニャの作った造花を指で触った。自分たちの戦い如何で、仲間の命、人生すべてが決まる・・・ウェイヴェルの背中を、言い様のない感覚が襲う。
「なんだ?ウェイヴェル。レシーバーから歯のぶつかる音が聞こえるぞ」
 大佐がウェイヴェルをからかうように言う。わかってはいても、覚悟はしていても、怖くないものなどいないだろう。
「ザク?αの通信機がポンコツなんでしょう」
 ウェイヴェルは精一杯とぼけた。大佐も、
「そうかもしれんな」
といって笑った。
「ウェイヴェル、これも昔話だがな。思い出したよ」
「またですか?」
「まあ、これが最後だ。さっきのドイツという国の爆撃機のパイロットに、ルーデルという人物がいてな。2500回以上出撃して、戦車や車両500台以上破壊、32回負傷し、5回撃墜されて、右足を失いながらも最後まで戦いつづけて生き残った男だ。もう、鈍足で旧式化した爆撃機で戦いつづけてな。撃墜された味方機のパイロットを救出するために、敵中に不時着したり、いろいろと逸話の多い人物だが、そいつが自伝でこう言っている」
 大佐の話を聴きながら、ウェイヴェルは、そのルーデルという男にとって、そこまで戦いつづけた理由はなんなのだろうと少し思った。圧倒的に不利な戦況の中、片足になっても飛びつづけ、戦い続ける。敗北を感じても、何故に戦うのか。
 レシーバーから、大佐の声が、その答えを伝えた。
「・・・・敗者とは、自らを諦めた者である・・・とな」



 彼方で刻を告げる鐘が聴こえる
 俺達はもう
 自らの舞台を持たない
 ただ
 人々の記憶の中に
 永遠にその姿を刻むのみ
 
 自らの命を投げ打ってまで
 何かに人が賭けるとき
 他人がなんと言おうとも
 そこに価値は生まれる
 その命の輝きこそが
 本当の意味での「人生」
 なのだと
 
 今日も暗闇で
 あの星が語っている



〜つづく〜

コメント(0)

mixiユーザー
ログインしてコメントしよう!

蝮☆千夜一夜 更新情報

蝮☆千夜一夜のメンバーはこんなコミュニティにも参加しています

星印の数は、共通して参加しているメンバーが多いほど増えます。

人気コミュニティランキング