「七人の侍」 作品データ
白黒 スタンダード 206分 5,669メートル
製作費 2億1千万円
出動人員 3万3千名（のべ）
馬頭数 3,300頭（のべ）
使用フィルム 13万フィート
昭和28年（1953）5月27日 撮影開始
昭和29年（1954）3月18日 撮影終了
昭和29年（1954）4月20日 完成
昭和29年（1954）4月26日 公開
昭和29年（1954）9月 ヴェネチア国際映画祭・銀獅子賞受賞
昭和29年（1954）9月12日 海外版公開
昭和50年（1975）9月20日 完全オリジナル版再上映
平成3年（1991）11月2日 完全オリジナル版再上映
黒澤明監督の行動を中心に、「七人の侍」の製作過程を関係者の回想、手記や研究書などの記述をもとに再現しようとするものです。文中、敬称は省略させていただきます。
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【2023.7.7記】
このトピックの目的である「七人の侍」のメイキングを記述することが、諸事情で難しくなりました。このままトピックが沈むのを防ぐためにも、再開するまで「七人の侍」をテーマにした動画などを紹介しようと思います。もちろん、これまで通り、書き込みは自由です。
白黒 スタンダード 206分 5,669メートル
製作費 2億1千万円
出動人員 3万3千名（のべ）
馬頭数 3,300頭（のべ）
使用フィルム 13万フィート
昭和28年（1953）5月27日 撮影開始
昭和29年（1954）3月18日 撮影終了
昭和29年（1954）4月20日 完成
昭和29年（1954）4月26日 公開
昭和29年（1954）9月 ヴェネチア国際映画祭・銀獅子賞受賞
昭和29年（1954）9月12日 海外版公開
昭和50年（1975）9月20日 完全オリジナル版再上映
平成3年（1991）11月2日 完全オリジナル版再上映
黒澤明監督の行動を中心に、「七人の侍」の製作過程を関係者の回想、手記や研究書などの記述をもとに再現しようとするものです。文中、敬称は省略させていただきます。
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【2023.7.7記】
このトピックの目的である「七人の侍」のメイキングを記述することが、諸事情で難しくなりました。このままトピックが沈むのを防ぐためにも、再開するまで「七人の侍」をテーマにした動画などを紹介しようと思います。もちろん、これまで通り、書き込みは自由です。
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黒澤映画というと、大雨が降ったり、猛烈な突風が吹いたり、濃い霧が立ちこめたり、雪が降ったり、という天変地異が映画のいろいろな場面にはめ込まれているのも特長のひとつだが、この天候のうち、雨と風の責任者は特機師である。
もっとも雨が特機の責任になっていったのは、「七人の侍」の頃よりもう少し後のことで、この頃は小道具係の担当だった。風は、扇風機を使うことから、三輪野が仕事を始めた頃から特機の担当であった。
「・・百姓と侍たちの旗が風に吹かれてバタバタとはためくシーンがあったでしょ。あれなんかも苦労したんだけれども、あの風も扇風機なんですよ。
当時の扇風機というのは、本当に小さくて、５馬力なんですよ、一番大きいのが。
５馬力っていうのは、そうですね、直径１メートルくらいかな、プロペラの大きさが。それを東宝は２台くらいしか持っていなかったのかな。それで大映から借りたり、いろいろと工面してやってた。ところが、それが古ぼけた扇風機でね、撮影の途中でヒューズが飛んだり、やたらに手こずらされて、本当に参りましたよ。機械類だけはどうにもならないからね。
機械の故障では、随分黒澤さんにやられたけれど、こればっかりは怒ってもどうにもならないからね。
最後には、特機の苦労が分ってくれた。いろんな意味で分ってきてくれて、機械は人間よりどうしようもないって考えてくれるようになりましたけれど。とにかく、機械類だけは参りましたよ。
たとえば『椿三十郎』の時、屋敷伝いに水を流したでしょう。椿を流すためのきれいな水ね。あの水の流れは、大蔵団地からね、水道から取った水をためて、それをポンプで送って流したんですよ。本当は、大道具の仕事なんだけれども、現場に行っちゃうとそういうことは関係ない。大体、特機があてにされるんです。
それで、たまたま特機にポンプがある、ということで、それを持っていって、撮影に使ったんです。ところが、いざ、本番ていう時に、ポンプが止まっちゃった。回らなくなっちゃったのね。
監督は僕らを見て、
『バカヤロー、何やってんるんだ』
って、大変な剣幕でしょ。
そういう時、僕はいつも、監督より先に、スタッフを
『お前たち、ダメじゃないか』
と怒るようにしていた。そうすると、若いのが、
『さっきまで回ってたんです』
なんて、言い訳してね。僕が、大声で、
『バカヤロー、さっき回っていたって、いま、回っていなきゃしょうがないだろう』
なんて大声を張り上げる。だいたいそういうふうにしていたの。
それで、俺はみんなから、口が悪いって言われるようになっちゃたんだけれど、僕から怒られてる分にはまだいいけれど、監督に怒鳴られて、怒られるのはけっこう、みんな、気にしますからね、スタッフとして。だから、その前に僕がスタッフを怒鳴ってさ、黒澤さんの怒りもしずめる、というふうにしていた。
・・本当に、機械類だけは、人間の言うことも聞かないし、動かなかったら、ニッチもサッチもいかないからね。
機械だけは、いい機械を使わなくちゃダメだよね」（三輪野勇）
もっとも雨が特機の責任になっていったのは、「七人の侍」の頃よりもう少し後のことで、この頃は小道具係の担当だった。風は、扇風機を使うことから、三輪野が仕事を始めた頃から特機の担当であった。
「・・百姓と侍たちの旗が風に吹かれてバタバタとはためくシーンがあったでしょ。あれなんかも苦労したんだけれども、あの風も扇風機なんですよ。
当時の扇風機というのは、本当に小さくて、５馬力なんですよ、一番大きいのが。
５馬力っていうのは、そうですね、直径１メートルくらいかな、プロペラの大きさが。それを東宝は２台くらいしか持っていなかったのかな。それで大映から借りたり、いろいろと工面してやってた。ところが、それが古ぼけた扇風機でね、撮影の途中でヒューズが飛んだり、やたらに手こずらされて、本当に参りましたよ。機械類だけはどうにもならないからね。
機械の故障では、随分黒澤さんにやられたけれど、こればっかりは怒ってもどうにもならないからね。
最後には、特機の苦労が分ってくれた。いろんな意味で分ってきてくれて、機械は人間よりどうしようもないって考えてくれるようになりましたけれど。とにかく、機械類だけは参りましたよ。
たとえば『椿三十郎』の時、屋敷伝いに水を流したでしょう。椿を流すためのきれいな水ね。あの水の流れは、大蔵団地からね、水道から取った水をためて、それをポンプで送って流したんですよ。本当は、大道具の仕事なんだけれども、現場に行っちゃうとそういうことは関係ない。大体、特機があてにされるんです。
それで、たまたま特機にポンプがある、ということで、それを持っていって、撮影に使ったんです。ところが、いざ、本番ていう時に、ポンプが止まっちゃった。回らなくなっちゃったのね。
監督は僕らを見て、
『バカヤロー、何やってんるんだ』
って、大変な剣幕でしょ。
そういう時、僕はいつも、監督より先に、スタッフを
『お前たち、ダメじゃないか』
と怒るようにしていた。そうすると、若いのが、
『さっきまで回ってたんです』
なんて、言い訳してね。僕が、大声で、
『バカヤロー、さっき回っていたって、いま、回っていなきゃしょうがないだろう』
なんて大声を張り上げる。だいたいそういうふうにしていたの。
それで、俺はみんなから、口が悪いって言われるようになっちゃたんだけれど、僕から怒られてる分にはまだいいけれど、監督に怒鳴られて、怒られるのはけっこう、みんな、気にしますからね、スタッフとして。だから、その前に僕がスタッフを怒鳴ってさ、黒澤さんの怒りもしずめる、というふうにしていた。
・・本当に、機械類だけは、人間の言うことも聞かないし、動かなかったら、ニッチもサッチもいかないからね。
機械だけは、いい機械を使わなくちゃダメだよね」（三輪野勇）
ここでもう一度、「七人の侍」の撮影現場について、三輪野の回想を引用する。
後年、黒澤組の常連となったスタッフの中には、「七人の侍」が初めてという人が少なくない。黒澤もすでに名の知れた監督だったが、まだ、現在のような「伝説的巨匠」というわけではなかった。
わけもわからず黒澤組についた若者が、黒澤と黒澤組の仕事ぶりをどう感じたかをうかがうこと材料となるし、黒澤が新しく入ったスタッフにどう対応したかも知ることが出来る。
「なにしろ、何も知らずに始めたからね。黒澤明そのものだって、そんなに知ってるわけじゃないしね。どんな監督かなんていうのも、知らない。それは『生きる』とか、そういうのは見てましたよ。・・それがいきなり、『七人の侍』の撮影現場だからね。
それまで、黒澤組の特機は銀ちゃん（大隅銀造）がほとんどひとりでやってたんじゃないかな。それで、黒澤さんは新しく組に加わった人の名前をほとんど呼ばない人でね、本当に名前を言わない人だった。
特機は『七人の侍』だって、２人しかいないわけですから。たまたま、最後の頃だったと思うんですが、忙しくてね。その忙しい最中に、銀チャンが風邪引いたかなんかで休んだんですよ。
それで、スリーキャメラかなんかで撮影している最中に、特機が私ひとりになってね。雨のシーンの撮影の時じゃあなかったと思うんですけどね。
ひとりでもう、『イントレ、こっち！』とかなんとか言われながら、忙しくて死ぬ思いでかけずり回っていたんですよ。そしたら、黒澤さんがそれまでまともに僕の顔なんか見たこともなかったのが、みんなに向かって、
『三輪野くんだって、ひとりで大変なんだから、みんなで運べ！』
って言うわけね。
その時、ああ、名前、おぼえててくれたんだなあって、なんだかうれしくなっちゃってね。やっぱり見る人は見てるんだってね。
僕の方は、ただもう無我夢中だったから、何も分からずにただ駆けずり回っているだけだから。それでも見てる人は見てるなと思って。こんな世界なのかって、別に認められようと思ってやっていたわけじゃないんだけれどね。そのことは本当にはっきりと憶えている」（三輪野勇）
後年、黒澤組の常連となったスタッフの中には、「七人の侍」が初めてという人が少なくない。黒澤もすでに名の知れた監督だったが、まだ、現在のような「伝説的巨匠」というわけではなかった。
わけもわからず黒澤組についた若者が、黒澤と黒澤組の仕事ぶりをどう感じたかをうかがうこと材料となるし、黒澤が新しく入ったスタッフにどう対応したかも知ることが出来る。
「なにしろ、何も知らずに始めたからね。黒澤明そのものだって、そんなに知ってるわけじゃないしね。どんな監督かなんていうのも、知らない。それは『生きる』とか、そういうのは見てましたよ。・・それがいきなり、『七人の侍』の撮影現場だからね。
それまで、黒澤組の特機は銀ちゃん（大隅銀造）がほとんどひとりでやってたんじゃないかな。それで、黒澤さんは新しく組に加わった人の名前をほとんど呼ばない人でね、本当に名前を言わない人だった。
特機は『七人の侍』だって、２人しかいないわけですから。たまたま、最後の頃だったと思うんですが、忙しくてね。その忙しい最中に、銀チャンが風邪引いたかなんかで休んだんですよ。
それで、スリーキャメラかなんかで撮影している最中に、特機が私ひとりになってね。雨のシーンの撮影の時じゃあなかったと思うんですけどね。
ひとりでもう、『イントレ、こっち！』とかなんとか言われながら、忙しくて死ぬ思いでかけずり回っていたんですよ。そしたら、黒澤さんがそれまでまともに僕の顔なんか見たこともなかったのが、みんなに向かって、
『三輪野くんだって、ひとりで大変なんだから、みんなで運べ！』
って言うわけね。
その時、ああ、名前、おぼえててくれたんだなあって、なんだかうれしくなっちゃってね。やっぱり見る人は見てるんだってね。
僕の方は、ただもう無我夢中だったから、何も分からずにただ駆けずり回っているだけだから。それでも見てる人は見てるなと思って。こんな世界なのかって、別に認められようと思ってやっていたわけじゃないんだけれどね。そのことは本当にはっきりと憶えている」（三輪野勇）
「七人の侍」は当初、８月１８日クランクアップ（撮影終了）、９月１７日完成、封切は芸術祭の秋の大作として１０月上旬公開の予定だった。
ところが、クランクインから３ヶ月余りが過ぎ、９月に入っても、全体の三分の一も撮影されていなかった。さらに、当初の７０００万円の製作費も使い果たしてしまった。
当時、東宝の製作担当の重役だった森岩雄は、自著「私の藝界遍歴」にこう記している。
「・・この作品は昭和２８年のはじめ頃から黒澤さんが思いついて書き始めたもので、大体、真夏の天気が良く能率が上がる７月８月９月の間にロケーション撮影をまとめて、その後セット撮影して完成するという計画であった。当時、普通の作品は３０００万円から４０００万円であったが、「七人の侍」はその倍額の予算を組んだ。
東宝再建のためには、どうしても大作を提供する必要があったからである。大げさに言えば、苦しい会社の台所から見ると社運をかけた作品であった」（森岩雄）
昭和２８年ころの映画製作の実情は定かでないが、参考例として、邦画５社の撮影所システムのなかで作られていた一般的な作品、つまり、プログラム・ピクチャーをあげると、９０分ほどの上映時間の作品の場合、どんなに長くても１ヶ月、うっかりすると２、３週間で撮りあげていた。手際よく、何十カットを１日で撮りあげ、１週間で１本の映画を作り上げてしまう早撮りの名人といわれた渡辺邦男のような監督もいた。
したがって、撮影３ヶ月、予算７０００万円という当初の製作規模は、東宝としては一応、大作として十分な配慮をしたはずだった。
映画製作におけるスケジュールの作成とその管理はチーフ助監督の仕事であった。
チーフ助監督の堀川弘通は次のように回想する。
「最初、７０日から９０日ぐらいで撮りあげる予定だった。大体、普通の映画の３本分ぐらいの予算で考えていたんだから。当時、僕らが監督になると１本作るのに予算を３０００万円もらえた。それが、最終的に７倍、２億１千万ぐらいかかっているからね。
予算の立て方も杜撰だったし、スケジュールなんかも僕が作ったんですよね。まさかねえ、あんなに長期にわたるとは思いもよらなかったですよ。
一応秋の公開にあわせてということで、できあがりまでのスケジュールを組んだんだけど、お天気のことまで考えなかったのね。撮影に入ってすぐ、ぼくの作ったスケジュールでは、無理と判った。というのも、天候に左右されないセットは３杯しかないんですよ。後は全部、外ですからね。
それとねえ、１カ所で撮れなかったんですよね。全部バラバラに撮ったわけですよ。こっちは熱海だ、こっちは別の場所だって、何ヶ所にもわかれてましてね。
一番最終的には戦闘場面が問題になるんだけれど、これの全部が、つまり、村で撮ったのと、村以外の場所で撮ったのとお天気がつながらないとまずいんですよ。だから、全部それにあわせるためには、今度は待ちができちゃうんですよね。その上、馬の出番とか、モブシーンが多いから、中々監督の思う通りには行かない。そういういろんな条件が重なったから、やっぱり、完全に１年、かかっちゃうんですよね
黒さんも了解済みで、戦闘シーンは意識的に最後に廻してあったが、途中で２人とも、これはもうアカンと・・」（堀川弘通）
ところが、クランクインから３ヶ月余りが過ぎ、９月に入っても、全体の三分の一も撮影されていなかった。さらに、当初の７０００万円の製作費も使い果たしてしまった。
当時、東宝の製作担当の重役だった森岩雄は、自著「私の藝界遍歴」にこう記している。
「・・この作品は昭和２８年のはじめ頃から黒澤さんが思いついて書き始めたもので、大体、真夏の天気が良く能率が上がる７月８月９月の間にロケーション撮影をまとめて、その後セット撮影して完成するという計画であった。当時、普通の作品は３０００万円から４０００万円であったが、「七人の侍」はその倍額の予算を組んだ。
東宝再建のためには、どうしても大作を提供する必要があったからである。大げさに言えば、苦しい会社の台所から見ると社運をかけた作品であった」（森岩雄）
昭和２８年ころの映画製作の実情は定かでないが、参考例として、邦画５社の撮影所システムのなかで作られていた一般的な作品、つまり、プログラム・ピクチャーをあげると、９０分ほどの上映時間の作品の場合、どんなに長くても１ヶ月、うっかりすると２、３週間で撮りあげていた。手際よく、何十カットを１日で撮りあげ、１週間で１本の映画を作り上げてしまう早撮りの名人といわれた渡辺邦男のような監督もいた。
したがって、撮影３ヶ月、予算７０００万円という当初の製作規模は、東宝としては一応、大作として十分な配慮をしたはずだった。
映画製作におけるスケジュールの作成とその管理はチーフ助監督の仕事であった。
チーフ助監督の堀川弘通は次のように回想する。
「最初、７０日から９０日ぐらいで撮りあげる予定だった。大体、普通の映画の３本分ぐらいの予算で考えていたんだから。当時、僕らが監督になると１本作るのに予算を３０００万円もらえた。それが、最終的に７倍、２億１千万ぐらいかかっているからね。
予算の立て方も杜撰だったし、スケジュールなんかも僕が作ったんですよね。まさかねえ、あんなに長期にわたるとは思いもよらなかったですよ。
一応秋の公開にあわせてということで、できあがりまでのスケジュールを組んだんだけど、お天気のことまで考えなかったのね。撮影に入ってすぐ、ぼくの作ったスケジュールでは、無理と判った。というのも、天候に左右されないセットは３杯しかないんですよ。後は全部、外ですからね。
それとねえ、１カ所で撮れなかったんですよね。全部バラバラに撮ったわけですよ。こっちは熱海だ、こっちは別の場所だって、何ヶ所にもわかれてましてね。
一番最終的には戦闘場面が問題になるんだけれど、これの全部が、つまり、村で撮ったのと、村以外の場所で撮ったのとお天気がつながらないとまずいんですよ。だから、全部それにあわせるためには、今度は待ちができちゃうんですよね。その上、馬の出番とか、モブシーンが多いから、中々監督の思う通りには行かない。そういういろんな条件が重なったから、やっぱり、完全に１年、かかっちゃうんですよね
黒さんも了解済みで、戦闘シーンは意識的に最後に廻してあったが、途中で２人とも、これはもうアカンと・・」（堀川弘通）
森岩雄は次のような回想もしている。
「撮影は予定のごとく始まったが、その年の夏の天候は全く不順で雨が多く・・９月の終わり頃と思うが、黒澤さんが私の所に来てどうにもならない。今までに予定の三分の一も出来ていない。これからどうなるか見当もつかないし、会社の再建に悪影響を与えてはすまないから、製作を中止してもいいし、今まで撮ったところを生かして、あとは渡辺邦男さんでも処理のうまい人に任せてもよい。とにかく途方にくれてしまった、と言うのである」（森岩雄「私の藝界遍歴」）
堀川は、この森の回想を真っ向から否定する。
「・・・そんなこと、クロさんがいうわけないじゃない。確かに、状況的にはそんなふうにいわないとまずいし、あるいは一つのテクニックとしてそういったかも知れない。・・相当深刻には考えていたと思うけれど、最終的には自信があった、と思うよ。それを渡辺邦男さんにやってくれなんて、考えられないよ」（堀川弘通）
黒澤は１０月封切りなど「間に合いっこない」と腹をくくっていたというが、切羽詰まった状況であったのは事実であった。このころの黒澤の心理をうかがわせるエピソードを堀川は記している。撮影の裏話としても面白いので少し長めに引用する。
時期としては、撮影中断前後の９月から１０月ころのことのようである。
「・・スタッフは水車小屋と木賃宿の２つのセットを撮り終え、農場オープンで侍探し、決闘、木賃宿の内外を一応こなし、伊豆長岡に移動した（※１０月５日ころか？）。
伊豆では村の全景など予定分を４０日間で撮影し終わった。伊豆のロケーションで騎馬の野武士が落馬して、鎖骨を折るという事故があった。私はこれから撮る村のオープンセットでは農民と戦闘場面が中心になるので、悪い予感がした。
伊豆ロケはまあまあこの程度で済んだので良かった。皆も疲れているだろうから、いったん東京に引き上げることを考えていた。ところが『帰京することはまかりならぬ、そのまま箱根へ直行せよ』というプロデューサー命令が出た。私はスケジュールが延びていることは重々承知していたが、まさか製作予算が逼迫しているとは思わなかった。
箱根へ移動するの当たって私は、クロさんのことだから箱根でいい場所を見つけた時、急に予定にないシーンを撮影する、と言い出しかねないので、それに備えて馬５頭を予備に残し、森の中に隠しておいた。
箱根へ移動する途中で運悪く、クロさんはこの馬を見つけたのである。
『馬は全部御殿場へ帰したはずなのに、なぜこんなところに馬がいるんだ？』
私は仕方ないから理由を説明した。それから箱根「仙郷楼」（※ロケ先の宿泊場所）に着くまでの延々３０分、クロさんは私を非難するのである。
『こんなに予算が超過しているのに、何という無駄なことをするんだ。俺は何も無駄なものは撮っていない。また予定以外のものを撮るつもりもない』
予定外の処置をとっているのだから、私は反論のしようがない。しかし、クロさんがこんなにネチネチと私を非難することは、かつてなかったことだった。
クロさんにしてみたら、『こんなに俺が苦労しているのに、会社は撮影が遅い、早く撮れと、ヤイヤイ言ってきているし、予算ももう使い果たしそうで先の見通しも立たない、そんな時に何ということをしてくれたんだ』との気持ちだったのだろう。
私にしてみれば、『クロさんは何を言い出すか分からない人だから、チーフ助監督としてもそれくらいの配慮をするのは当然だろう。こちらはちょっとでもいい映画を撮らしたいから頑張ってるんで、馬の５頭ぐらい何だッ！』と反抗的な感情をグッとのみ込んだ・・」（堀川弘通）
「撮影は予定のごとく始まったが、その年の夏の天候は全く不順で雨が多く・・９月の終わり頃と思うが、黒澤さんが私の所に来てどうにもならない。今までに予定の三分の一も出来ていない。これからどうなるか見当もつかないし、会社の再建に悪影響を与えてはすまないから、製作を中止してもいいし、今まで撮ったところを生かして、あとは渡辺邦男さんでも処理のうまい人に任せてもよい。とにかく途方にくれてしまった、と言うのである」（森岩雄「私の藝界遍歴」）
堀川は、この森の回想を真っ向から否定する。
「・・・そんなこと、クロさんがいうわけないじゃない。確かに、状況的にはそんなふうにいわないとまずいし、あるいは一つのテクニックとしてそういったかも知れない。・・相当深刻には考えていたと思うけれど、最終的には自信があった、と思うよ。それを渡辺邦男さんにやってくれなんて、考えられないよ」（堀川弘通）
黒澤は１０月封切りなど「間に合いっこない」と腹をくくっていたというが、切羽詰まった状況であったのは事実であった。このころの黒澤の心理をうかがわせるエピソードを堀川は記している。撮影の裏話としても面白いので少し長めに引用する。
時期としては、撮影中断前後の９月から１０月ころのことのようである。
「・・スタッフは水車小屋と木賃宿の２つのセットを撮り終え、農場オープンで侍探し、決闘、木賃宿の内外を一応こなし、伊豆長岡に移動した（※１０月５日ころか？）。
伊豆では村の全景など予定分を４０日間で撮影し終わった。伊豆のロケーションで騎馬の野武士が落馬して、鎖骨を折るという事故があった。私はこれから撮る村のオープンセットでは農民と戦闘場面が中心になるので、悪い予感がした。
伊豆ロケはまあまあこの程度で済んだので良かった。皆も疲れているだろうから、いったん東京に引き上げることを考えていた。ところが『帰京することはまかりならぬ、そのまま箱根へ直行せよ』というプロデューサー命令が出た。私はスケジュールが延びていることは重々承知していたが、まさか製作予算が逼迫しているとは思わなかった。
箱根へ移動するの当たって私は、クロさんのことだから箱根でいい場所を見つけた時、急に予定にないシーンを撮影する、と言い出しかねないので、それに備えて馬５頭を予備に残し、森の中に隠しておいた。
箱根へ移動する途中で運悪く、クロさんはこの馬を見つけたのである。
『馬は全部御殿場へ帰したはずなのに、なぜこんなところに馬がいるんだ？』
私は仕方ないから理由を説明した。それから箱根「仙郷楼」（※ロケ先の宿泊場所）に着くまでの延々３０分、クロさんは私を非難するのである。
『こんなに予算が超過しているのに、何という無駄なことをするんだ。俺は何も無駄なものは撮っていない。また予定以外のものを撮るつもりもない』
予定外の処置をとっているのだから、私は反論のしようがない。しかし、クロさんがこんなにネチネチと私を非難することは、かつてなかったことだった。
クロさんにしてみたら、『こんなに俺が苦労しているのに、会社は撮影が遅い、早く撮れと、ヤイヤイ言ってきているし、予算ももう使い果たしそうで先の見通しも立たない、そんな時に何ということをしてくれたんだ』との気持ちだったのだろう。
私にしてみれば、『クロさんは何を言い出すか分からない人だから、チーフ助監督としてもそれくらいの配慮をするのは当然だろう。こちらはちょっとでもいい映画を撮らしたいから頑張ってるんで、馬の５頭ぐらい何だッ！』と反抗的な感情をグッとのみ込んだ・・」（堀川弘通）
続いても、上記後半の堀川の証言の続きである。
「・・また４０日間も地方ロケをやっていると、神経の高ぶる時もある。
メインスタッフは長岡温泉の「さかなや」という旅館に滞在していた。クロさんは末っ子で甘やかされて育てられたのか、一人部屋が嫌いな人で、常に誰かと一緒でないと嫌なのだ。この作品では撮影の中井朝一と一緒で、夜は必ず三船敏郎、千秋実など七人の侍と酒盛りになる。
クロさんが悪酔いしたのを見たことは、いまだかつてなかったが、ある日、酔っぱらって怒鳴り出した。
『女将を呼べ、けしからんッ！』
・・（※戦前、「さかなや」に）しばしば長逗留していたのが宇垣一成大将で、「さかなや」の主人は宇垣大将を尊敬するあまり、旅館の大浴場の縁に大砲の砲弾をかたどった彫像を据えていた。
戦後、平和になって砲弾はいかがなものか、ということで、砲弾を小便小僧に替えた。これが『けしからん』の原因で、
『あの小便小僧の像は醜悪で、見るに耐えない。すぐとってしまえ』
女将は大いに恐縮して、『どうぞ、これでご勘弁を』と「ジョニ黒」を持ってきて、平謝りに謝って勘弁してもらったという一幕もあった。
というわけでクロさんは、この時期、撮影が順調に進まずイラ立っていた上に、馬５頭の無駄使い（？）で頭にきたのであろう・・・」（堀川弘通）
「・・また４０日間も地方ロケをやっていると、神経の高ぶる時もある。
メインスタッフは長岡温泉の「さかなや」という旅館に滞在していた。クロさんは末っ子で甘やかされて育てられたのか、一人部屋が嫌いな人で、常に誰かと一緒でないと嫌なのだ。この作品では撮影の中井朝一と一緒で、夜は必ず三船敏郎、千秋実など七人の侍と酒盛りになる。
クロさんが悪酔いしたのを見たことは、いまだかつてなかったが、ある日、酔っぱらって怒鳴り出した。
『女将を呼べ、けしからんッ！』
・・（※戦前、「さかなや」に）しばしば長逗留していたのが宇垣一成大将で、「さかなや」の主人は宇垣大将を尊敬するあまり、旅館の大浴場の縁に大砲の砲弾をかたどった彫像を据えていた。
戦後、平和になって砲弾はいかがなものか、ということで、砲弾を小便小僧に替えた。これが『けしからん』の原因で、
『あの小便小僧の像は醜悪で、見るに耐えない。すぐとってしまえ』
女将は大いに恐縮して、『どうぞ、これでご勘弁を』と「ジョニ黒」を持ってきて、平謝りに謝って勘弁してもらったという一幕もあった。
というわけでクロさんは、この時期、撮影が順調に進まずイラ立っていた上に、馬５頭の無駄使い（？）で頭にきたのであろう・・・」（堀川弘通）
いずれにせよ、予算を使い果たしたため、撮影は一時中止された。
新たに予算措置をしてこのまま続行か、あるいは別の監督と交代するか、あるいは全面的に企画を降ろすか、会社の判断を仰ぐことになった。
当の黒澤はその間、多摩川で釣り糸を垂れていた。黒澤はもともと仕事がない時は、釣りか酒かというほど釣りが大好きで、「頭と体を休めるのに、僕にとっちゃ釣りぐらい完全なものはないね」と語っているほどである。
昭和４８年（１９７３）１月７日の黒澤明研究会で、志村喬と千秋実が、この頃の黒澤の様子を証言している。以下は黒澤明研究会編「黒澤明を語る人々」よりの抜粋である。
志村「・・巨匠というのは多少そういうことがあるんですよ。随分オーバーするとかね、予算オーバー。プロデューサーはそれを抑えようとする。そこに駆け引きがある（笑）」
千秋「どうしたって資本家相手の仕事ですからね。だから、そこにいろんな駆け引きがどうしてもね」
志村「だからそれをうまく資本家と監督との間を円満にうまくもっていく、そういうことがプロデューサーの大変な仕事になってきますね」
千秋「・・大体麦刈り、麦が終わる頃から始まりましてね。とにかく７月８月までにほとんど全予算を使い果たして、それまでまだ三分の一も出来てなかった。それで会社の重役がもめるわけですね。それで僕らは１カ月遊ばされるとね、心配なわけですよ。どうなるんか、これで中止になるんかとか何とか言って。
で黒澤さんとこ行って「どうなるんですか」と聞くと、「資本家というのは、いったん出した金は必ず回収する」「まあまあ釣りでもしてろ」と、その頃は釣りが好きでしてね。多摩川行っては監督といっしょに釣りしとるわけです。
案の定ごたごたもめて追加予算・・」
新たに予算措置をしてこのまま続行か、あるいは別の監督と交代するか、あるいは全面的に企画を降ろすか、会社の判断を仰ぐことになった。
当の黒澤はその間、多摩川で釣り糸を垂れていた。黒澤はもともと仕事がない時は、釣りか酒かというほど釣りが大好きで、「頭と体を休めるのに、僕にとっちゃ釣りぐらい完全なものはないね」と語っているほどである。
昭和４８年（１９７３）１月７日の黒澤明研究会で、志村喬と千秋実が、この頃の黒澤の様子を証言している。以下は黒澤明研究会編「黒澤明を語る人々」よりの抜粋である。
志村「・・巨匠というのは多少そういうことがあるんですよ。随分オーバーするとかね、予算オーバー。プロデューサーはそれを抑えようとする。そこに駆け引きがある（笑）」
千秋「どうしたって資本家相手の仕事ですからね。だから、そこにいろんな駆け引きがどうしてもね」
志村「だからそれをうまく資本家と監督との間を円満にうまくもっていく、そういうことがプロデューサーの大変な仕事になってきますね」
千秋「・・大体麦刈り、麦が終わる頃から始まりましてね。とにかく７月８月までにほとんど全予算を使い果たして、それまでまだ三分の一も出来てなかった。それで会社の重役がもめるわけですね。それで僕らは１カ月遊ばされるとね、心配なわけですよ。どうなるんか、これで中止になるんかとか何とか言って。
で黒澤さんとこ行って「どうなるんですか」と聞くと、「資本家というのは、いったん出した金は必ず回収する」「まあまあ釣りでもしてろ」と、その頃は釣りが好きでしてね。多摩川行っては監督といっしょに釣りしとるわけです。
案の定ごたごたもめて追加予算・・」
黒澤は千秋に、「資本家というのは、いったん出した金は必ず回収する」と言ったが、別の場所では、「今まで使った金を捨てるようなことはしやしないさ会社は。僕の映画が当たってる間は無理は通るよ」という言い方もしている。
自信にあふれた言葉であるが、これは、黒澤に、自分は重役の森岩雄の支持を受けているという自信があったからかもしれない。森は自著にこう記している。
「それまでに、撮影済みの場面は全部見て、私は感動していたので即座に黒澤さんに、どんな困難があっても、それを克服して立派な作品を作って下さい。・・黒澤さんはそれで腹を決め、撮影の続行に踏み切った」（森岩雄「私の藝界遍歴」）
ただ仮に、森の話が作り話だとしても、黒澤としては泰然としているところを周囲に見せなければならなかった。
監督にとってスタッフを始め俳優、そして１００名近い村人の作品への緊張感をいかに高めておくか、その緊張の持続こそが大きな課題である。撮影中止が、彼らの意欲を損ねてはならない。
そのためにも黒澤は指揮官として意欲満々でなければならなかった。黒澤は、この作品に賭ける燃えるような闘志の炎を、心の中で絶やしてはならなかった。少しでもグラついたり、ひるんだりしてる姿を見せるわけにはいかなかったのである。
森の回顧とはうらはらに重役会は大揉めに揉めたと思われるが、結局、追加予算が認められ、１０月３日より撮影再開となった。そして当初の初秋公開は、正月映画として封切することになった。
「もう何としてでも作り上げなくちゃいけないんだ。山登りと同じでね。一歩一歩は苦しんだ。だけどいつかは頂上に着く。頂上に着くことを信じて、ともかく一歩ずつ前へ進んで行かなければいけないのだよ。もうそれ以外に道はないんだ。
今僕が考えていること、それはここで焦っちゃいけない、興奮しちゃいけない、このまま頂上に向って一歩一歩進んで行くこと、ただそれだけなのです」（黒澤明）
自信にあふれた言葉であるが、これは、黒澤に、自分は重役の森岩雄の支持を受けているという自信があったからかもしれない。森は自著にこう記している。
「それまでに、撮影済みの場面は全部見て、私は感動していたので即座に黒澤さんに、どんな困難があっても、それを克服して立派な作品を作って下さい。・・黒澤さんはそれで腹を決め、撮影の続行に踏み切った」（森岩雄「私の藝界遍歴」）
ただ仮に、森の話が作り話だとしても、黒澤としては泰然としているところを周囲に見せなければならなかった。
監督にとってスタッフを始め俳優、そして１００名近い村人の作品への緊張感をいかに高めておくか、その緊張の持続こそが大きな課題である。撮影中止が、彼らの意欲を損ねてはならない。
そのためにも黒澤は指揮官として意欲満々でなければならなかった。黒澤は、この作品に賭ける燃えるような闘志の炎を、心の中で絶やしてはならなかった。少しでもグラついたり、ひるんだりしてる姿を見せるわけにはいかなかったのである。
森の回顧とはうらはらに重役会は大揉めに揉めたと思われるが、結局、追加予算が認められ、１０月３日より撮影再開となった。そして当初の初秋公開は、正月映画として封切することになった。
「もう何としてでも作り上げなくちゃいけないんだ。山登りと同じでね。一歩一歩は苦しんだ。だけどいつかは頂上に着く。頂上に着くことを信じて、ともかく一歩ずつ前へ進んで行かなければいけないのだよ。もうそれ以外に道はないんだ。
今僕が考えていること、それはここで焦っちゃいけない、興奮しちゃいけない、このまま頂上に向って一歩一歩進んで行くこと、ただそれだけなのです」（黒澤明）
映画の醍醐味の１つは、大活劇にあることは言うまでもない。活劇の面白さに人間の葛藤と対立、それぞれ登場する人物の生まれ育ちと人間性を描き込めば、これに勝るものはない。こういう大野心のもとに作られたのが「七人の侍」である。
しかし、撮影に入ると、黒澤自身が「僕は自分の野心があまりにも大きすぎたことに気づいて、全く青くなった」と語らざるを得ない事態となった。また「今度という今度は日本映画の作れる限界を思い知らされた」とも言っているが、黒澤にそう言わしめた理由の１つは、スタッフ側が、この大活劇に不慣れなことであった。いろんな意味で初めてぶつかる問題が多かったことである。
例えば馬の調達や撮影が困難を極めた。チーフ助監督の堀川弘通は言う。
「僕はやっぱり、馬ですね。馬でやっぱり苦労しました」
黒澤は助監督時代の昭和１２年（１９３７）、東宝の前身ＰＣＬと前進座の第１回提携作品として製作された「戦国群盗伝」（滝澤英輔監督）にサード助監督として参加し、御殿場でのロケで、騎馬合戦シーンの撮影を経験していた。
そのため、ロケ場所がなかなか決まらなかった頃、馬の調達と撮影は、御殿場なら出来るんじゃないかと考えたようである。
「・・（ロケハンの時）とにかく馬の調達のできるところで探そうという話になって、結局、御殿場まで戻ってくれば、下丹那も近いし、伊豆ならだいたい、色々撮れるところも知っているからという話で。
御殿場にいる馬はもちろん、農耕馬なんだけれども、戦争中、軍馬に使われていた馬の末裔がいたんじゃないかな。それで、クロさんとしては御殿場での馬の撮影にはひそかな目算があったと思う。・・長田孫作さんとかもいたから、なんとかいけるんじゃないかっていう目算みたいのがあったんだと思う」（堀川弘通）
しかし、撮影に入ると、黒澤自身が「僕は自分の野心があまりにも大きすぎたことに気づいて、全く青くなった」と語らざるを得ない事態となった。また「今度という今度は日本映画の作れる限界を思い知らされた」とも言っているが、黒澤にそう言わしめた理由の１つは、スタッフ側が、この大活劇に不慣れなことであった。いろんな意味で初めてぶつかる問題が多かったことである。
例えば馬の調達や撮影が困難を極めた。チーフ助監督の堀川弘通は言う。
「僕はやっぱり、馬ですね。馬でやっぱり苦労しました」
黒澤は助監督時代の昭和１２年（１９３７）、東宝の前身ＰＣＬと前進座の第１回提携作品として製作された「戦国群盗伝」（滝澤英輔監督）にサード助監督として参加し、御殿場でのロケで、騎馬合戦シーンの撮影を経験していた。
そのため、ロケ場所がなかなか決まらなかった頃、馬の調達と撮影は、御殿場なら出来るんじゃないかと考えたようである。
「・・（ロケハンの時）とにかく馬の調達のできるところで探そうという話になって、結局、御殿場まで戻ってくれば、下丹那も近いし、伊豆ならだいたい、色々撮れるところも知っているからという話で。
御殿場にいる馬はもちろん、農耕馬なんだけれども、戦争中、軍馬に使われていた馬の末裔がいたんじゃないかな。それで、クロさんとしては御殿場での馬の撮影にはひそかな目算があったと思う。・・長田孫作さんとかもいたから、なんとかいけるんじゃないかっていう目算みたいのがあったんだと思う」（堀川弘通）
東宝のシステムでは、馬は小道具係の担当だった。
以下は、小道具担当だった浜村幸一の回想である。
・・俳優と建物以外は全部、小道具係の担当だからね。生活雑貨や身の回りの物から馬まで。当時は雨も小道具の担当事項だったんだから。それで、馬のことではちょっと苦労したのも忘れられないね。
どうして馬まで小道具の担当なのか、僕もわからないんだけれど、とにかく東宝の場合はそうなの。
「七人の侍」の撮影のスケジュールが出て、監督がどういう人なのか、その頃はよくわからないからさ、準備の打ち合わせの時に、台本を読んでね、これはかなりの数の馬が必要だなと思って、あれは何頭概算で出したのかな、のべにして細かい数字まで忘れたけど、計算してね、それで予算を出したら、馬にこんなに金がかかったんじゃしょうがない、っていうんだ。会議室で、監督と担当の重役かなんかも入れて打ち合わせをやったの。
それで、監督がまだ、僕の名前を覚えていなくてね、「小道具さん、馬はこんなにいらないよ」っていうんだよ。何頭だったか、３００頭くらいの数字を書いたような気がする。監督が多すぎるよ、っていうから「どのくらいにしましょう」っていう話でね。２００頭にしたのかな。それが結局、最終的には全部合わせると３０００いくらになっちゃったんだけれどサ。
・・打ち合わせの場所で、はっきりと数字を出してやっちゃうからね、嫌だともいえない。なんで、馬のことまで俺がやんなきゃなんないんだ、って思ったけれどね。だけど、そういうことだから、馬の出演料の交渉とかでも全部自分でやったんだもの。
それで、馬の手配でおぼえているのは、ちょうど伊豆の大仁で撮影をしていてね、野武士が出てくるところ、初めて馬が出るところなんだよ、それで、撮影の前にロケハンにいくでしょう、根津さん（根津博：製作主任）だとか、村木さん、堀川さんだとか。それで俺は、根津さんに「農繁期だから、馬の数が少なくなるから、くれぐれも頼んできてくれよ」っていったら、「よしきた、まかしとけ」っていう話だったわけ。
・・向うに花村っていうのがいたんですよ。伊豆の長岡に。活動屋専門にいろいろ下準備なんかを手伝っていた。まあ、御殿場のマゴさん（長田孫作）みたいなもんだよね・・・・・
（浜村幸一）
以下は、小道具担当だった浜村幸一の回想である。
・・俳優と建物以外は全部、小道具係の担当だからね。生活雑貨や身の回りの物から馬まで。当時は雨も小道具の担当事項だったんだから。それで、馬のことではちょっと苦労したのも忘れられないね。
どうして馬まで小道具の担当なのか、僕もわからないんだけれど、とにかく東宝の場合はそうなの。
「七人の侍」の撮影のスケジュールが出て、監督がどういう人なのか、その頃はよくわからないからさ、準備の打ち合わせの時に、台本を読んでね、これはかなりの数の馬が必要だなと思って、あれは何頭概算で出したのかな、のべにして細かい数字まで忘れたけど、計算してね、それで予算を出したら、馬にこんなに金がかかったんじゃしょうがない、っていうんだ。会議室で、監督と担当の重役かなんかも入れて打ち合わせをやったの。
それで、監督がまだ、僕の名前を覚えていなくてね、「小道具さん、馬はこんなにいらないよ」っていうんだよ。何頭だったか、３００頭くらいの数字を書いたような気がする。監督が多すぎるよ、っていうから「どのくらいにしましょう」っていう話でね。２００頭にしたのかな。それが結局、最終的には全部合わせると３０００いくらになっちゃったんだけれどサ。
・・打ち合わせの場所で、はっきりと数字を出してやっちゃうからね、嫌だともいえない。なんで、馬のことまで俺がやんなきゃなんないんだ、って思ったけれどね。だけど、そういうことだから、馬の出演料の交渉とかでも全部自分でやったんだもの。
それで、馬の手配でおぼえているのは、ちょうど伊豆の大仁で撮影をしていてね、野武士が出てくるところ、初めて馬が出るところなんだよ、それで、撮影の前にロケハンにいくでしょう、根津さん（根津博：製作主任）だとか、村木さん、堀川さんだとか。それで俺は、根津さんに「農繁期だから、馬の数が少なくなるから、くれぐれも頼んできてくれよ」っていったら、「よしきた、まかしとけ」っていう話だったわけ。
・・向うに花村っていうのがいたんですよ。伊豆の長岡に。活動屋専門にいろいろ下準備なんかを手伝っていた。まあ、御殿場のマゴさん（長田孫作）みたいなもんだよね・・・・・
（浜村幸一）
164の浜村の回想の続き・・
「・・・それでいよいよ、撮影が進んでいって、明日は馬の出番だっていうんで、根津さんのところにいって、馬は誰に頼めば良いんですかって聞いたのね。
そしたら、花村だ。あいつに言ってある、っていう話だから、花村の家はどこなの？って聞いたら、いま、来て、みんなと麻雀やってるから、っていうことで、麻雀やってるところにいったんだよ。
そこで、俺は「花村さん、明日は水車小屋の方の撮影だから、馬１３頭かな、大丈夫ね」って、訊いたんだよ。
そしたら「聞いてねえよ、そんな話」っていうんだよね。
俺はその時、怒ってカッとなってね、・・「バカいってら、聞いてないって、いま更なにいってるんだ。冗談じゃない、どうするつもりだ」って本気で怒って、麻雀卓をひっくり返しちゃったことがあるの。
そして、根津さんに「根津さん、どうなってるの。花村がなにも聞いてないっていってるよ」っていったの。そしたら、根津さんが「お前、花村、言ったじゃないか」っていう話ね。言った言わないなんだよ。
それで困っちゃって、前に「決闘鍵屋の辻」の撮影で知り合いになった馬喰がいたんですよ。伊豆の農家の萩原さんていう人なんだけれどもね。しょうがないから、その人に「なんとか明日だけ、頼むよ」って無理矢理頼み込んだの。・・「じゃあ、なんとかして一時的にでも頭数を揃えるよ」って話でね。
ところが、次の日、集まった馬を見たら、どの馬も田んぼを耕す農耕馬でね、駆けないんだよ。だけど、しょうがないからね、頭を揃えないことには。こんな馬じゃいらない、とかいって断ったら、おかしなことになっちゃうし。
それから、撮影が始まったんだけど、全然こっちの言うことも聞かない。
それでとうとう、監督が怒っちゃったの。俺が呼びつけられて、大仁の撮影現場で。
俺はその時、正直に「これこれこういうわけで、こうなんだ」っていうことを、全部話しちゃったんだよ。
そしたら、監督のところで、「根津ちゃん、なにしてるんだよ」「いや、それが実は・・・」なんてことになっちゃってね。
そんなところで良い訳聞いてても話にならない。明日の撮影に間に合わないから。それで、その時、監督に名前を覚えてもらってね。監督に「浜ちゃん、こんなことしてても間にあわないから、いまから車だして、御殿場の孫さんのところに行って、馬をおろしてもらってくれないか」って言われて、それで、すぐに御殿場に飛んだの。
ところが、御殿場は御殿場で、「馬はこっちでおろすから」なんて言ったから、孫さんがヘソを曲げちゃったの。ウンて言わないんだよ、孫さんが。
それで仕方なくて、東京から山本係長（山本久蔵：小道具係長）に来てもらって話をつけてもらったの。
それで、次の日の撮影にやっとこ、間に合った」（浜村幸一）
「・・・それでいよいよ、撮影が進んでいって、明日は馬の出番だっていうんで、根津さんのところにいって、馬は誰に頼めば良いんですかって聞いたのね。
そしたら、花村だ。あいつに言ってある、っていう話だから、花村の家はどこなの？って聞いたら、いま、来て、みんなと麻雀やってるから、っていうことで、麻雀やってるところにいったんだよ。
そこで、俺は「花村さん、明日は水車小屋の方の撮影だから、馬１３頭かな、大丈夫ね」って、訊いたんだよ。
そしたら「聞いてねえよ、そんな話」っていうんだよね。
俺はその時、怒ってカッとなってね、・・「バカいってら、聞いてないって、いま更なにいってるんだ。冗談じゃない、どうするつもりだ」って本気で怒って、麻雀卓をひっくり返しちゃったことがあるの。
そして、根津さんに「根津さん、どうなってるの。花村がなにも聞いてないっていってるよ」っていったの。そしたら、根津さんが「お前、花村、言ったじゃないか」っていう話ね。言った言わないなんだよ。
それで困っちゃって、前に「決闘鍵屋の辻」の撮影で知り合いになった馬喰がいたんですよ。伊豆の農家の萩原さんていう人なんだけれどもね。しょうがないから、その人に「なんとか明日だけ、頼むよ」って無理矢理頼み込んだの。・・「じゃあ、なんとかして一時的にでも頭数を揃えるよ」って話でね。
ところが、次の日、集まった馬を見たら、どの馬も田んぼを耕す農耕馬でね、駆けないんだよ。だけど、しょうがないからね、頭を揃えないことには。こんな馬じゃいらない、とかいって断ったら、おかしなことになっちゃうし。
それから、撮影が始まったんだけど、全然こっちの言うことも聞かない。
それでとうとう、監督が怒っちゃったの。俺が呼びつけられて、大仁の撮影現場で。
俺はその時、正直に「これこれこういうわけで、こうなんだ」っていうことを、全部話しちゃったんだよ。
そしたら、監督のところで、「根津ちゃん、なにしてるんだよ」「いや、それが実は・・・」なんてことになっちゃってね。
そんなところで良い訳聞いてても話にならない。明日の撮影に間に合わないから。それで、その時、監督に名前を覚えてもらってね。監督に「浜ちゃん、こんなことしてても間にあわないから、いまから車だして、御殿場の孫さんのところに行って、馬をおろしてもらってくれないか」って言われて、それで、すぐに御殿場に飛んだの。
ところが、御殿場は御殿場で、「馬はこっちでおろすから」なんて言ったから、孫さんがヘソを曲げちゃったの。ウンて言わないんだよ、孫さんが。
それで仕方なくて、東京から山本係長（山本久蔵：小道具係長）に来てもらって話をつけてもらったの。
それで、次の日の撮影にやっとこ、間に合った」（浜村幸一）
こうして苦労の末、馬を集めたが、御殿場から連れてきた馬も農耕馬だった。
日中戦争から太平洋戦争にかけて、全国の農家から挑発された軍馬は３００万頭をはるかに超えるといわれている。戦地に送られた３００万頭の馬は１頭も日本に帰ってこなかった。
軍馬の末裔がいたとしても、食料難の中、農耕馬として育てられていた。
御殿場の長田孫作のところの馬も撮影に慣れていない。ハリウッドのように撮影用に訓練された馬ではないのからだ。
黒澤は、彼の敬愛する西部劇の巨匠ジョン・フォードの作品より爽快なスピード感を出したいと願っていたが、いかに黒澤がフォードの向こうを張っても、集められた馬は黒澤の思い通りに走りはしなかった。
日中戦争から太平洋戦争にかけて、全国の農家から挑発された軍馬は３００万頭をはるかに超えるといわれている。戦地に送られた３００万頭の馬は１頭も日本に帰ってこなかった。
軍馬の末裔がいたとしても、食料難の中、農耕馬として育てられていた。
御殿場の長田孫作のところの馬も撮影に慣れていない。ハリウッドのように撮影用に訓練された馬ではないのからだ。
黒澤は、彼の敬愛する西部劇の巨匠ジョン・フォードの作品より爽快なスピード感を出したいと願っていたが、いかに黒澤がフォードの向こうを張っても、集められた馬は黒澤の思い通りに走りはしなかった。
コラム１
＞２
＞当初の構想は「七人の侍」ならぬ「一人の侍」で、ある１人の侍の１日を通して侍とは何かを描こうというものだった。
＞「生きる」の撮影で多忙だった黒澤に代わって、脚本を共同執筆することになった橋本忍が、シナリオ執筆の準備にとりかかることになった。
＞「最初ね、『生きる』が終わったら今度は時代劇やろう、時代劇だってどういう事やったら面白いだろうと一生懸命話し合って、ある１人の侍の話を大変リアルにやろうと。
ある侍が、ある日起きて寝巻きに着替えて、顔洗って月代そって、飯食って城へ上がって、昼過ぎにささいなへまをして、家へ帰って切腹して死んだ。こういう映画をやろうとしたわけです。」（橋本忍）
---------------------------------------------------------------------
コメント３、４にもあるように、この時の橋本シナリオは日の目を見なかった。
しかし、この経験は橋本忍にとって無駄にはならなかった。昭和３７年（１９６２）、橋本忍脚本・小林正樹監督の松竹映画「切腹」が公開。映画の評価もさることながら、橋本の回想シーン挿入の巧妙さにより、このシナリオは「古典」として、今もなお、シナリオ執筆の教科書でお手本として取り上げられている。
橋本シナリオの特徴として回想シーンの巧妙さがあげられるが、「一人の侍」のシナリオ作業で悪戦苦闘する中で、それを習得したのではないだろうか。
「一人の侍」のシナリオは現存してないだろうし、どのような形で黒澤の目に触れたのかは定かでないが、橋本のアイデアや草稿の中で回想シーンがあったことは間違いないであろう。シナリオ技法的には、あって当然のものであるからである。
しかし、それは黒澤の認めるものではなかった。技法としてまだ未熟だったかもしれないし、スタイルとして黒澤の好みではなかったのかもしれない。考えて見れば、黒澤が「切腹」の監督と想像できない。黒澤作品で回想シーンが重要な意味を持つ映画はない。もし、橋本の草稿を小林正樹や今井正、木下恵介などが読んだら、そのまま映画化されたかもしれない。これは良い悪いではなく、監督の個性の問題である。
もう一つ、映画「切腹」の成立過程の要素もある。映画の原作となったのは滝口康彦の「浪人異聞記」であるが、これは江戸の幕臣・真田増誉という人物の口述を筆記した「明良洪範」全４０巻のうちの１２巻の記述による。そこには、井伊藩邸に切腹志願の浪人が訪れたという記述がある。
橋本が「浪人異聞記」をシナリオ化する際、参考にしたのが「武士道全書」だった。この第１０巻は「切腹のためのマニュアル」と言っていい内容で、多くのイラストや図解が施されている。「武士道全書」は「七人の侍」執筆時、橋本が苦しんでいた頃に読んでいた文献だった。逆にいえば、「七人の侍」の頃、「武士道全書」を読んでいたからこそ、映画「切腹」のシナリオが出来たともいえる。
参考文献：「脚本家・橋本忍の世界」（集英社新書 村井淳志著）
＞２
＞当初の構想は「七人の侍」ならぬ「一人の侍」で、ある１人の侍の１日を通して侍とは何かを描こうというものだった。
＞「生きる」の撮影で多忙だった黒澤に代わって、脚本を共同執筆することになった橋本忍が、シナリオ執筆の準備にとりかかることになった。
＞「最初ね、『生きる』が終わったら今度は時代劇やろう、時代劇だってどういう事やったら面白いだろうと一生懸命話し合って、ある１人の侍の話を大変リアルにやろうと。
ある侍が、ある日起きて寝巻きに着替えて、顔洗って月代そって、飯食って城へ上がって、昼過ぎにささいなへまをして、家へ帰って切腹して死んだ。こういう映画をやろうとしたわけです。」（橋本忍）
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コメント３、４にもあるように、この時の橋本シナリオは日の目を見なかった。
しかし、この経験は橋本忍にとって無駄にはならなかった。昭和３７年（１９６２）、橋本忍脚本・小林正樹監督の松竹映画「切腹」が公開。映画の評価もさることながら、橋本の回想シーン挿入の巧妙さにより、このシナリオは「古典」として、今もなお、シナリオ執筆の教科書でお手本として取り上げられている。
橋本シナリオの特徴として回想シーンの巧妙さがあげられるが、「一人の侍」のシナリオ作業で悪戦苦闘する中で、それを習得したのではないだろうか。
「一人の侍」のシナリオは現存してないだろうし、どのような形で黒澤の目に触れたのかは定かでないが、橋本のアイデアや草稿の中で回想シーンがあったことは間違いないであろう。シナリオ技法的には、あって当然のものであるからである。
しかし、それは黒澤の認めるものではなかった。技法としてまだ未熟だったかもしれないし、スタイルとして黒澤の好みではなかったのかもしれない。考えて見れば、黒澤が「切腹」の監督と想像できない。黒澤作品で回想シーンが重要な意味を持つ映画はない。もし、橋本の草稿を小林正樹や今井正、木下恵介などが読んだら、そのまま映画化されたかもしれない。これは良い悪いではなく、監督の個性の問題である。
もう一つ、映画「切腹」の成立過程の要素もある。映画の原作となったのは滝口康彦の「浪人異聞記」であるが、これは江戸の幕臣・真田増誉という人物の口述を筆記した「明良洪範」全４０巻のうちの１２巻の記述による。そこには、井伊藩邸に切腹志願の浪人が訪れたという記述がある。
橋本が「浪人異聞記」をシナリオ化する際、参考にしたのが「武士道全書」だった。この第１０巻は「切腹のためのマニュアル」と言っていい内容で、多くのイラストや図解が施されている。「武士道全書」は「七人の侍」執筆時、橋本が苦しんでいた頃に読んでいた文献だった。逆にいえば、「七人の侍」の頃、「武士道全書」を読んでいたからこそ、映画「切腹」のシナリオが出来たともいえる。
参考文献：「脚本家・橋本忍の世界」（集英社新書 村井淳志著）
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