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小説、短編をつくってみたコミュの信じる者は3

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 外はすっかり冷え込んでいて、吐く息が白く立ち上った。空気が澄んでいるのだろう、とても星が綺麗に見えた。
早くコンビニで弁当を買って帰ろう。と思いながら坂道を下ると、前方に先程の男性が見えた。僕と同じように空を眺め、男性は何か物思いに耽っている様に思えた。
「あの・・・」
 思わず声を掛けていた。
「ああ、さっきの店の」
 男性は、少し疲れたような表情でそう言った。
「さっきの・・・」
 そう言い掛けて、僕は言葉を引っ込めた。美香さんの度重なる忠告が頭を過ぎったからだ。
男性は不思議そうに僕を見ているが、少し間を置いて口を開いた。
「少し・・話でもしようか」



 僕らは、道端に設置されている自販機でコーヒーを買った後、そのまま自販機に体を預けコーヒーを一口啜る。男性も同じように一口だけつけて、ポツリと語りだした。
「・・僕はね、婚約者が居るんだ」
「はい」
「でも、その婚約者はちょっと重い病気でね、家族の話ではもう長くは無いそうなんだ・・」
「・・・」
「もともと体の弱い人だったみたいなんだけど、僕と婚約して半年くらいかな?寝たきりになったのは」
「・・・はい」
「それでね・・・僕は家族の人に聞いたんだけど、余命宣告を受けたらしいんだ・・本人にも伝えられたらしく、僕が彼女の所に行った時には泣いていたよ。それからは目に見えるくらいに、日に日に弱って行くのが分かったよ」
 男性は何の感情も無いかの様に淡々と話を続けていたが、その心中はどれほどの物か想像に難くない。
「ある時、僕がお見舞いに行ったら、もう彼女は話すこともままならない様子でね、声なんか出て無かったよ。それでも僕に、家族には言えなかったんだろうね、口だけ動かして、何度も『死にたい』って何度も言うんだ・・」
「・・・」
「辛かったんだろうね・・」
 男性は遥か遠くの空を眺めながら呟く様に言った。僕は俯き、ただ黙っている事しか出来なかった。
 愛する人の為に、婚約者を呪い、殺そうとしているこの人の前では、どんな言葉も意味が無い様に思えたからだ。『殺すなんて間違ってる』なんて否定的な言葉や、『あなたも辛かったでしょう』とか慰める様な言葉を掛けるのは容易い、しかしどんな言葉を掛けたとしてもこの人を哀れんでいる様にしか僕には思えない。僕が同じ立場だとして、初対面の人にそんな言葉を掛けられたら、「人の気も知らないで、知ったような事を言うな!」と激怒するだろう。


 その後、二言三言会話の様な物を交わした後、男性は「それじゃあ」と駅の方に歩いていった。僕も駅の方に行きたかったのだが、すぐ男性の後を付いて行く気にもなれず自販機に背を預けたまま、冷えたコーヒーが空になるまで満天の星空を眺めていた。

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