史跡コミュの萬福寺境内

　京都府宇治市五ヶ荘三番割34

　1992年04月14日、京都府が史跡に指定。

　黄檗(ｵｳﾊﾞｸ)山萬福寺は、黄檗宗大本山。
　黄檗宗は禅宗の一派。唐の僧黄檗希運(ｵｳﾊﾞｸｷｳﾝ)が、その名の由来で、宋代には一派を成していたが、その後、臨済宗の一派のような扱いを受ける事になった。総本山は福建省の黄檗山萬福寺。
　福建の萬福寺の住職を務めていた高僧隠元隆琦(ｲﾝｹﾞﾝﾘｭｳｷ；1592～1673)が、承応３(1654)年に来日して黄檗宗を日本に伝えた。当時の中国は満洲人の建国した清帝国が北京を首都として天下の大半を支配下に収めていたが、福建省は明帝国の残党が建国した南明帝国の支配下にあり、隠元隆琦は南明帝国海軍の総帥鄭成功が仕立てた船に乗り、多くの弟子を率いて来日した。満洲人の支配を受ける事を嫌った亡命と見る事も出来るが、隠元隆琦自身は３年で帰国するつもりだったと言われている。
　隠元隆琦は、長崎の崇福寺を経て摂津の普門寺に入るが、元妙心寺住持の龍渓性潜(ﾘｭｳｹｲｼｮｳｾﾝ)等の奔走で、万治３(1660)年、４代将軍徳川家綱から山城国宇治郡大和田に寺地を賜り、翌年、新寺を開創、旧を忘れないという意味を込め、故郷の寺院と同名の黄檗山萬福寺と名付けた。
　なお、隠元隆琦は、隠元豆・西瓜(ｽｲｶ)・蓮根・孟宗竹等を日本に伝えた人物でもあるが、帰国の夢が適わぬまま日本で客死した。
　隠元隆琦の死後も、萬福寺の住職は元文５(1740)年に第14代龍統が就任するまでは伝統的に中国から招聘する伝統が続き、純中国風の禅の伝統を守り続けた。
　また、鉄眼道光(1630～82)は隠元隆琦の齎した大蔵経を底本とした『鉄眼版一切経』といわれる大蔵経を開刻・刊行し、これによって日本の仏教研究は飛躍的に進んだばかりか、出版技術も大きく進歩発展した。なお、現在、活字の基本形となっている明朝体とは、この『鉄眼版一切経』で用いられた字体の事である。
　一方、了翁道覚(1630～1707)は錦袋円という漢方薬の販売により、収益金で鉄眼の一切経の開刻事業を援助する一方、完成本を誰もが見られるようにする勧学院を各地に建て、日本の図書館の先駆けとなるなど、社会事業にも力を注いだため、宗派の勢力は徐々に拡大した。
　そして、明治９(1876)年に正式に臨済宗から独立して現在に至る。
　萬福寺16棟（総門、三門、天王殿、大雄宝殿、法堂、鐘楼、鼓楼、伽藍堂、祖師堂、斎堂、禅堂、東方丈、西方丈、祠堂、大庫裏、威徳殿　附:廊8棟、鎮守社、廊棟札、伽藍絵図5点、作事関係文書7冊）と萬福寺松隠堂７棟（通玄門、開山堂、舎利殿、寿蔵、客殿、庫裏、侍真寮　附:裏門、宝蔵、鐘楼、廊2棟、石碑亭）が重要文化財に指定され、紙本淡彩西湖図４幅・西湖図４幅・虎渓三笑図８幅・五百羅漢図８幅・瀑布図４枚・波涛図１面・紙本著色隠元和尚像・絖本淡彩観音図１帖・黄檗山木額・柱聯(ﾁｭｳﾚﾝ)・榜牌(ﾎﾞｳﾊｲ)等の重要文化財を所蔵する。
　また、鉄眼道光の開いた塔頭(ﾀｯﾁｭｳ)宝蔵院では、現在も『鉄眼版一切経』〔重要文化財〕版木」を用いた出版が続けられている。