競馬千夜一夜コミュのコロネーション

「“禁断の魔術”が生み出した載冠」コロネーション（コロナティオンＣｏｒｏｎａｔｉｏｎ）
牝・鹿毛・仏産１９４６生　没年不明
父：Ｄｊｅｂｅｌ　母：Ｅｓｍｅｒａｌｄａ（Ｔｏｕｒｂｉｌｌｏｎ）
競走成績：仏・英・愛で１３戦６勝（２着４回）
主な勝ち鞍：凱旋門賞、ヴェルムー賞、プール・デッセ・デ・プーリシェ賞
凱旋門賞、仏１０００ギニー、クイン・メアリーＳ、ローベル・パパン賞

１９４９年のロンシャンに舞った華麗なお姫様。載冠を意味するコロネーションと名付けられたその馬は本当に世界一の強い走りを披露してくれました。
フランスの誇る天才馬産家マルセル・ブサックが生産した究極の最強馬。彼の理念とプライドを懸けた一世一代の配合理論から誕生した名馬です。父母はともにブサックの生産馬で、彼らもまたブサックの緻密な考えから生を受けました。父ジェベルは凱旋門賞を勝った豪傑。彼の父、トウルビヨンもブサックの生産馬。母エスメラルダは素晴らしい才能を持った馬で、並外れたスピードと決め脚を有していました。彼女の父も同じくブサック生産のトウルビヨン、つまりコロネーションは父母の父以前を共有するという強烈なインブリード。しかも、母系にはテディの４×４のインブリードまで入っています。極めて危険な配合、常軌を逸脱した異常とも言える超近親交配なのです。ブサックは、ジェベルの傑出した能力とエスメラルダが内包しているスピードが融合すれば理想の競走馬が誕生すると血統をデザインし、彼の馬産理念の最終形態がコロネーションだったのです。この配合の裏にはブサックの確固たる信念が宿っています。そして容姿、能力、十全十美を備えた名馬が生誕しました。
１９４８年６月に地元フランスのシャトー賞（1000ｍ）でデビューしたコロネーションは、レース前から落ち着きがなく暴れまくり、レース中もほとんど真面目に走ろうとはせず、よろけたりよそ見をしながらも勝ってしまいました。２戦目も同様の勝利で、これだけの気性の悪さを披露しても勝てるというのは能力の違いと言えました。２戦全勝で渡英、イギリスでの初戦となったロベール・パパン賞（1200ｍ）では珍しく落ち着いており、直線で楽に後続を振り切るとフォンテネー以下を全く寄せ付けず、１９３３年にブラントームが樹立した記録を２秒４も更新する大レコードで優勝しました。生涯１３戦で能力を出しきったレースが殆どなかったと言われる彼女ですが、落ち着いてる時の強さは際立っており、立ち向かえるものなどいないと思わせるほどでした。しかし、２歳時に「普通に走った」のはこのレースだけで、その後の２戦は全く勝負心や闘争心が見られず３着と４着に負けて５戦３勝でシーズンを終えました。３歳緒戦の仏１０００ギニー(芝1600m)は馬群にもまれやる気をなくしてしまい、直線でうまく抜け出せたもののゴール前でガルガラに追いつかれ誰もが負けを認めたところから驚異的な粘りを見せて何とか一着同着に持ち込みました。不安を残したまま臨んだ英オークス(芝2400m)では、馬群にもまれるのを嫌いスタートから勢いよく飛び出し先行争いには勝ったものの、今度は騎手の制御を無視して大暴走、他馬を大きく離して独走状態に入った時は誰もが力尽きるものと思いました。しかし、彼女の脚色は直線に入っても衰えず観客が総立ちの大声援を送る中で優勝まであと一歩となったその時、強烈な脚で追い込んできたムシドラに捕まり頭差惜敗しました。あと少しのところで「載冠」を逃したコロネーションは、続く愛オークス(芝2400m)でも過密なスケジュールと相次ぐ長距離輸送、そして風邪を患っていたこともありサーカスレディーの２着に敗れてしまいました。敗戦後、積もる疲労を長期休養でリフレッシュしたコロネーションはぶっつけで、この年から賞金が５倍となり世界最高賞金レースとして世界中からスーパーホース達の集まる世界一決定戦となった凱旋門賞に臨みます。長期休養の効果なのか暴れたりイレ込むのが、この日はまるで別馬のようにリラックスしてお落ち着き払っていたコロネーションは、中段よりそれほどもまれない形でレースを進め、４角手前で人気のアムールドレークが上がって行くのを見るとポワンセル騎手は彼女に軽く合図を送り追走させました。先頭を走っていたダブルローズに直線でアムールドレークが並びかけ一騎討ちになったとところに、３番手の位置で静かに待機していたコロネーションが騎手のゴーサインに驚くべき瞬発力を発揮、馬群の中から何かに弾かれたように鋭く抜け出すと、そこから恐ろしいほどの加速力でグングン後続を離し、追い比べをしていた前の２頭をあっという間に置き去りにしたのでした。凄まじい瞬発力とスピードは他馬がまるで静止しているかのようでした。凱旋門賞という大舞台で名立たる一流馬を赤子の如く退けたコロネーションの強さは全く違う次元のものでした。ダブルローズを４馬身差突き放して勝利が確定してもなお、全力疾走し続ける姿に、“禁断の魔法”が叶えた「載冠」がありました。
コロネーションは４歳になっても現役生活を続け３戦して１勝を追加、不安定な気性は治らず秘めた能力が発揮されることは２度とありませんでした。そして２年目の凱旋門賞に挑んだコロネーションはタンティエームの１０着に大敗すると現役生活に幕を下ろしました。あれだけ激しい気性と破天荒なレースをみせたにも関わらず、生涯において着外はたったの２回だけだったのです。
天才馬産家マルセル・ブサックによって生み出された牝馬は、「ファリス以来の名馬」と彼自身が絶賛したように驚異的な強さを誇りました。彼女は堂々とした美しい馬体の持主でしたが、極端に神経質で興奮しやすく、破天荒なレースで負けも多い馬でした。しかし、勝敗に関わらずレベルの高い走りは多くの人々に感銘を与えました。生涯において満足な状態で走れたレースは凱旋門賞だけだろうと言われています。

コメント(5)

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[1] mixiユーザー 07月08日 20:47

コロネーションって確か一頭も産駒を残せなかったんですよね。あまりにきついインブリードのせいだとか。

[2] mixiユーザー 07月08日 22:11

引退後は繁殖馬としてフレズネルファール牧場に戻ったコロネーションでしたが、華やかな現役時とは異なり厳しい現実がありました。はじめの４年間を大種牡馬ファリスＰｈａｒｉｓ、次の３年間をオリバンＡｕｒｉｂａｎ、そしてオウエンテューダーＯｗｅｎＴｕｄｏｒ、マーシャスＭａｒｓｙａｓ、日本に導入されストロングエイトなどの父となったアイアンブリージＩｒｏｎＬｉｅｇｅが交配されましたが結果は不受胎の繰り返しでした。１９５１年から１９６１年に渡る１０年間の繁殖生活において、度重なる試みにも遂にコロネーションの産駒は生まれませんでした。コロネーションの不妊の原因が近親交配の弊害によるものなのかは定かではありません。コロネーションの全妹にはジェラルダとオルマラがいますが、オルマラからはジャンプラ賞のロクリスが出ており、ロクリスはブラジルで種牡馬として成功しました。子供ができなかったコロネーションは、ブサックから手放され牧場から姿を消すことになりました。以降、彼女の足取りはわかっていません。
日本では英語読みでコロネーションと呼ばれていましたが、仏語ではコロナティオンが正しく、近年の表記にも両方使われるようになりました。１８４１年のエプソムダービー馬を含めてコロネーションは過去に４頭の同名馬がイギリスで登録されていたことからコロネーション?（Ｃｏｒｏｎａｔｉｏｎ?）となっています。なお、イギリスで行われているＧＩコロネーションカップやコロネーションステークスは、コロネーション登場以前に創設されており全く関係はありません。

[3] mixiユーザー 07月08日 22:27

＞イギリスで行われているＧＩコロネーションカップやコロネーションステークスは、コロネーション登場以前に創設されており全く関係はありません。
初めて知りました^^;
今までシンザン記念やセントライト記念のように考えてました(苦笑)。

[5] mixiユーザー 07月09日 07:08

聖母戴冠（ＣｏｒｏｎａｔｉｏｎｏｆｔｈｅＶｉｒｇｉｎ）から好まれて複数の馬名になったのだと思います。
ブサックはアパレル業界で巨万の富を得た木綿王としても知られており、クリスチャン・ディオールのスポンサーとして彼を世に出しました。人格は別として、トップの実業家で資産家としても名高かったブサックは、英国で「載冠」が叶わなかったので「チャンスがなくなったのなら、自分でチャンスを作ればいい」と権威と実力を駆使して、当時はまだパリ大賞典の次のランクであった凱旋門賞の賞金を５倍に増やし、世界最高賞金レースに発展させました。世界最高峰のレースと化した凱旋門賞を勝ち取った者こそ真の王者として「載冠」を与えられるべきだと。ブサックの思惑どおり、この作戦は大成功し、世界中から超一流馬の参戦が申し込まれることになりました。事前の盛大なセレモニーや豪華な晩餐会、多額の費用をかけた宣伝も効果を上げ、内馬場まで満員の観客がつめかけました。レースの１番人気はアムールドレークとヴァルドレーク(欧米では同じオーナー、同厩舎は１つに括られます)、それに次ぐのがバゲーラでしたが、ブサックはトップブリーダーとして「載冠」に意地をかけ、コロネーション、ジェダー、ノルヴァルの３頭を出したものの４番人気止まりでした。これは多頭数という条件がコロネーションの不安定な気性に合わないと判断されたこと、好走を見せるものの２４００ｍは過去全敗だったことも敬遠されたのかもしれません。
アーサー・フィッツジェラルドの『凱旋門賞の歴史』でコロネーションの話にはランエダニューブというファリス産駒の牡馬が登場してきます。血統的な弊害なのか、いつもイライラして気性の落ち着かないコロネーションが、この馬と一緒にいる時だけはリラックスして大人しくなったそうです。大レースの前やパッドックでは必ずこの馬が一緒にいました。

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