競馬千夜一夜コミュのキンツェム（Ｋｉｎｃｚｅｍ）

新設されたビクトリアマイルの前哨戦も始まります。「奇跡の牝馬」の物語です。

「ハンガリーが生んだ伝説の不敗牝馬」キンツェム（Ｋｉｎｃｚｅｍ）
牝　栗毛　ハンガリー産　１８７４年生　１８８７死亡
父Ｃａｍｂｕｓｃａｎ　母Ｗａｔｅｒｎｙｍｐｈ（Ｃｏｔｓｗｏｌｄ）
独、オーストリア・ハンガリー帝国、英、仏で５４戦５４勝
主な勝ち鞍：バーデン大賞（３回）、オーストリア・ダービー、グッドウッドＣ、ドーヴィル大賞、国家賞、皇帝賞

サラブレッドの長い歴史においてアウトサイダー的な国が脚光を浴びることは少なくありませんでした。東欧のハンガリーもそういった国の一つであり、オーストリア・ハンガリー帝国を象った騎馬民族としてのノウハウを活かした馬産活動で１９世紀後半から２０世紀初頭にかけて欧州競馬を席巻しました。１９１４年に始まった第一次世界大戦によってオーストリア・ハンガリー帝国が終焉に向かい、ハンガリー競馬の栄光時代もあっけなく終わってしままいましたが、その栄光時代の象徴ともいえるべき存在、それが５４戦して負けることを知らなかった名牝キンツェムでした。
キンツェムの母ウォーターニンフはハンガリー１０００ギニーなどを勝った活躍馬、５歳の時にブラスコヴィッチ氏に購入されました。氏は彼女を乗馬にするために購入したのですが、周囲に人々に説得されて繁殖牝馬としてハンガリーの国立牧場であるキシュベル牧場に入れました。ウォーターニンフの繁殖牝馬としての活躍は目覚ましいもので、初産駒からハンガリーオークスに勝ったハナトを輩出しました。２年目には当時の大種牡馬バッカニーアを配合する予定だったのが、牧場のミスによって二流種牡馬であったカンバスカンが配合されてしまいました。このカンバスカンは受精率が低く、ハンガリーにおける８年の供用でわずか９８頭の産駒しか残せなかった種牡馬が、この時に限っては一度で受胎してしまいました。この結果誕生したのがキンツェムなのです。まさに偶然が生んだ名馬だったのです。
キンツェムは非常に聡明で、タフな馬でした。３歳（現２歳）の６月にベルリンでデビュー戦を飾ると、４ヶ月の間にドイツ、ハンガリー、オーストリア、チェコスロヴァキアの１０競馬場で走り、その全てを楽勝（１０戦１０勝）しました。現在からすれば牝馬としては考えられない酷使ですが、キンツェムは汽車の旅が大好きで、レースを終えて自分の汽車を見つけると、嬉しそうに嘶いていそいそと汽車に駆け上がっていったといいます。彼女は猫と非常に仲が良く、いつも猫と一緒に転戦したという有名なエピソードがありますが、猫だけでなく厩務員のフランキーにも深い愛情を示し、ある寒い夜に彼が毛布なしで寝ていると、キンツェムは自分の馬衣を口先でくわえてフランキーに掛けてあげたといわれています。フランキーもキンツェムを深く愛し、書類に署名をするときも「フランキー・キンツェム」という名前を用い、その名で兵役に就き、その名で墓標に刻まれたため本当の名前がわかっていません。このように、キンツェムは深い愛に包まれながら快進撃を続けていきました。キンツェムは４歳時（現３歳）も猫とフランキーと共に転戦、ハンガリーで２０００ギニー、１０００ギニーに相当するレース(両方とも芝１６００ｍ)に勝ち、ウィーンの大レースオーストリア・ダービー(芝２４００ｍ)を楽勝した後、ドイツへ移動してハノーヴァー大賞(芝３０００ｍ)で古馬達を一掃。バーデン大賞(芝２５００ｍ)にも勝ち１７戦して負け知らずでした。バーデン大賞は３～５歳まで３連覇を達成しています。５歳（現４歳）になったキンツェムは３６連勝の記録を引っさげて英仏への遠征を敢行します。２年前にキンツェムと同じ牧場で生まれたキシュベールがエプソムダービーに勝っていたこともあり、彼女の名前はイギリスの競馬界でも知られていて、当時人気のあったブラームスの「ハンガリー舞曲」をもじり「ハンガリーの奇跡」と呼ばれました。英国グッドウッドＣ(芝４０００ｍ)に登録したところ、人気のハンプトンやアスコットＧＣの勝ち馬ヴェルヌイユといった地元の有力馬が出走を回避したために３頭立ての寂しいレースを楽勝した後、フランスに立ち寄って本命の地元馬フォンテンブローを破りドーヴィル大賞(芝２４００ｍ)を快勝。キンツェムは翌年までレースを続け、一度１着同着を経験したものの再戦では楽勝し、５４戦５４勝という不滅のレコードを残して現役を去りました。
繁殖入りしたキンツェムは僅か５頭の産駒を残して１３歳の誕生日（３月１７日）に急死しました。そのニュースは直ぐに国中に広がり、教会は鐘を打ち鳴らしました。産駒はいずれも素晴らしい戦績を残し、彼女の繁殖牝馬としての優秀さを証明しました。キンツェムはこのうち牝馬を３頭輩出しており、この３頭から広がった牝系は今でもハンガリーの名門血統として大切にされており、彼女を祖とするファミリーは東ヨーロッパだけでなく、今もイタリア、ドイツ、フランス、そしてイギリスでも活躍馬を輩出しています。

コメント(6)

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[1] mixiユーザー 03月20日 15:35

彼女を祖とする馬で一番有名なのって誰ですか？
私に取ってはキンツェムの父親も謎でした。
エクリプスの直系だったような気がしますが、自身の活躍とか産駒の成績とかわかりますか？

[2] mixiユーザー 03月21日 22:38

産駒はBudagyongyeが１８８５年の独ダービーを勝ってます。
自分が分かるのはこのぐらいです。あとは良く分かりません。
どうも失礼しました。

[3] mixiユーザー 03月22日 06:48

直子では、１８９２年に生まれた初子のブダジオンジエ（父バッカニア）が独ダービーに勝ち、クラシック馬２頭の母になりました。この全妹になる次子のオリアンニンクスもハンガリーセントレジャーの勝馬で、１８８５年に生まれた初めての牡駒タルプラマジャールも同じ父で、クラシックには縁がなかったものの多くの大レースに勝ち種牡馬としても大成しました。第四子の牡駒キンクスオール（父ドンカスター）はオーストリアダービー２着の後、独ダービーで本命となっていたところ、レース当日の朝に馬房で急死しているのが発見されました。最後の子キンクス（父ドンカスター）は出走歴こそなかったものの、２頭のクラシック馬を生んでいます。
キンツェムのファミリーからは、１９６７年のソ連ダービー馬バシュカバドや１９７４年の英国オークスに勝ったポリガミーなどがおります。日本にはオリアンニンクスのラインでワイルドファング（父ファビュラスダンサー）とヴェリニスカ（父ニニスキ）が入っていますが、競争成績に見るべきものはありません。
キンツェムの父ＣａｍｂｕｓｃａｎはＮｅｗｍｉｎｓｔｅｒで、Ｔｏｕｃｈｓｔｏｎｅ、Ｃａｍｅｌ、Ｗｈａｌｅｂｏｎｅ、Ｗａｘｙからこのコミュの最初にご紹介したＰｏｔｏｏｏｏｏｏｏｏを経てエクリプスに遡ります。

[4] mixiユーザー 03月23日 00:02

＞ユーゼさん、町人学者さん
ありがとうございます。
キンチェムはエクリプスの直系ではなくWaxyの直系だったんですね。

[5] mixiユーザー 10月15日 12:41

場違いかも知れませんが、彼女は『ギャロップレーサー』シリーズで、反則的強さを誇っています。笑

本当に、距離、芝ダート海外不問で一番人気になり、常に最後の直線で突っ込んできます。

でも、あまりの戦績に最初、ハンガリーや、ドイツの地方競馬の話だろ…と思ったんですが、当時のバーテン大賞って、日本で言うと有馬記念（それ以上）らしく驚かされたものです。

それ以前から彼女の事は知っていましたが、
ゲーム内で最初にライバルとして彼女に会った時、
『こんなのもだすんかい！』って感じでした。
シーバード、リボーらを抑えて一番人気になる、馬鹿丸出しの強さに、爆笑したものです。

[6] mixiユーザー 01月25日 11:05

彼女は猫と非常に仲が良く、いつも猫と一緒に転戦したという有名なエピソードがありますが、猫だけでなく厩務員のフランキーにも深い愛情を示し、ある寒い夜に彼が毛布なしで寝ていると、キンツェムは自分の馬衣を口先でくわえてフランキーに掛けてあげたといわれています。

↑この逸話が大好きです。
素晴らしい名牝です。
シンちゃんさんがおっしゃるように、ギャロップレーサーシリーズで圧倒的な能力を誇っているのもわかります（笑）。

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