競馬千夜一夜コミュのスイテン物語

「海外で最初に勝った日本の馬」スイテン
牡　芦毛　軽半血種（アラブ血量１２．５０％）　１９０２年生
父サラ系スプーネーSpooney　母中半第四エリース（アア第四ブラドレー）
【生産】　北海道　靜内　新冠御料牧場　　【馬主】　安田伊左衞門
【戦績】　５３戰３０勝　２著１７回　３著６回

ハクチカラ(トビサクラ1953-1979)がラウンドテーブル（プリンスキロ1954-1986）を負かしたはるか昔に海外の地で勝った日本馬がいます。彼はサラブレッドではありませんでしたが、海外の５戦全勝を含め生涯において４着以下がない素晴らしい競争成績を残しました。その名をスイテンといいます。
日本競馬会理事長、日本中央競馬会理事長を務め「日本競馬の父」「日本ダービーの生みの親」と呼ばれ、安田記念として名を残す安田伊左衛門も競走馬を所有していました。彼が初めて馬を持ったのは明治３９年。初雪という馬でした。この時代の最強馬にはトロッター種の花園が君臨していて、安田はこの花園を遥かに凌ぐ優駿を求めていました。強い馬を持ちたいという願望はいつの時代も同じです。「北海道へ行き、花園以上の馬を見つけてきてくれ」と安田からの命を受けたのは彼のお抱え騎手である佐竹武士。十勝に見込みのある馬がいるとの情報を得て佐竹は北海道に渡りました。生産は新冠御料牧場、父は英国産のスプーネー。しかし、決定的な欠点が一つだけありました。それは、芦毛だったということです。当時は日清戦争や日露戦争で日本産馬の貧弱さは完全に露呈しており、日本における馬産は軍馬育成を大義名分に掲げ、改良が進められました。そのため、夜戦において目立つ芦毛馬は敬遠される存在でした。佐竹はこの馬に２５００円という、当時としてはかなりの大金を払い購入します。そして明治４０年２月２１日、安田の前にこの芦毛馬は連れてこられました。すると安田は人が変わったかのように興奮し狂喜しました。この馬の骨格から筋肉のつき方まで、安田の理想とする馬だったようです。
しかし、いかに安田が絶賛しようと、世間は芦毛馬など認めようとはしませんでした。「安田がミズテンを買ってきたぞ」、「あんな馬車馬のような馬に大金を払うなんて、頭がおかしいんじゃないのか」、安田は周囲から罵詈・罵倒の言葉を浴びせられ、嘲笑の的にされてしまいます。これに憤慨し、安田は愛馬に『ミズテン』と名付けました。

コメント(4)

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[1] mixiユーザー 12月30日 09:51

明治４０年５月１０日に芦毛馬が横浜競馬場でデビューの日を迎えます。観衆の懐疑的視線を尻目に見事デビューを飾り資質の高さをアピール。ところが、デビュー戦でミズテンは脚を痛め、能力を全開できなくなってしまいます。２戦目は東京に見参、池上競馬場のレース（芝２４００m）に出走しました。このレースには花園も出走していて、最強場の後塵を拝して２着となります。以後も好走はするものの１０戦を終えて２勝・２着５回・３着３回の成績、安田は脚へのダメージの原因をミズテンの体形の不均衡さにあると考え、減食や下剤を使用して減量させながらの調教にあたりました。しかし、ミズテンはいっこうに良くならず、むしろ体調は下降線を辿っていきました。獣医に観察治療を頼むものの、いっこうに原因は不明のまま。そんな中、安田はようやく不調の主因が自らの課した減量と、それにより引き起こされた睡眠不足にあったことを知ります。安田はすぐさま方針を転換し、千草も燕麦も十分に与え、寝わらも十分に敷き詰め、さらには運動もしっかりと行わせました。するとミズテンはみるみるうちに馬体を回復さ、健康体に戻り、脚部も完治しました。完調に戻ったことにより、ミズテンは眠らせていたポテンシャルを徐々に開花させていきます。
５ヶ月の休養から明治４１年４月１３日の目黒競馬場で本領発揮したミズテンは凄まじく強く、最強馬だった花園に快勝します。ゴールの瞬間、安田は感激のあまり歓喜の声を張り上げて愛馬の下へと駆け寄って首を抱きミズテンの健闘を讃えたといわれています。６日後のレースでも花園を退け、その１週間後に川崎競馬場で行われたジャパンダービーも勝ち、５月２５日の帝室御賞典まで５連勝を飾ります。ミズテンは北国の雪に育まれた馬体を銀色に輝かせ本格化を示していました。

[2] mixiユーザー 12月30日 10:08

ぐんぐん強くなり、レコードを連発するミズテンを見て周囲の人々は安田に改名を提案します。「『ミズテン』は感心しない。『スイテン』にしてはどうだろうか？」これには安田も納得。「水天彷彿」の「水天」ならよかろうとし、馬名を『スイテン』と改めましたた。
手につけられない強さを見せ、快進撃を続けるスイテンは海外遠征を敢行、ウラジオストックへと渡ります。ウラジオストックでは各日本産馬及びシベリア産馬混合競争の５戦に出走。明治４２年９月５・８・１２・１５･１９日に二本柳省三騎手を鞍上に全勝します。ウラジオストックから凱旋。その後も日本最強馬として明治４５年まで君臨し続けました。
スイテンは生まれてからすぐには競走馬とならず十勝地方で種牡馬生活を送っていたところを見出され、６歳（旧）にしてデビュー、１１歳まで走りました。

[3] mixiユーザー 12月30日 13:47

昔の写真とか色々見れて勉強になりました。
種牡馬生活からレースに行くなんて、１００年前は現在とはまったく違ったんですね。

[4] mixiユーザー 12月31日 09:01

スイテンはアラブ血量１２．５０％を有する軽半種です。父のスプーネーを３代遡れば１８４９年生まれのストックウェルＳｔｏｃｋｗｅｌｌ(エクリプス系)に至ります。ストックウェルは未勝利の身で挑戦した２０００ギニーに勝ち、セントレジャーなど２０戦１２勝、種牡馬としてもリーディング７回、クラシック勝ち数１７という驚異的な成功を収め、「種牡馬の帝王」と呼ばれました。スプーネーの父ＦｏｒｌｏｎＨｏｐｅの母系に血統不詳がありサラ系となっています。
母父第四ブラドレーの母は高砂で、慶応３年(１８６７年)にフランス皇帝ナポレオン３世から第１４代将軍徳川家茂に贈られq２６頭のアラブ馬の１頭で、日本競馬史上に高名をとどめる芦毛の基礎牝馬です。明治３年に吾妻を産み、その遠い子孫には鳴尾記念を３連覇したセカイオーや名ハンデキャップホースとして知られたイナボレスがいます。彼らは準サラと呼ばれました。スイテンの芦毛は高砂からのものです。
祖母は中間種トロッターのエリースＥｌｉｓｅで、その父はスタンダードブレッド(別名アメリカントロッター・主に繋駕速歩競走に使用)のエコーＥｃｈｏなので母の第四エリースは中半種になります。
ロシアの地で５連勝した二本柳省三騎手はスイテンに１４回騎乗して１２勝、２･３着が各１回あります。調教師としても名門の二本柳系を確立しました。現在のＪＲＡで若手として活躍する二本柳壮騎手は、父が二本柳俊一調教師で祖父が二本柳俊夫元調教師、曽祖父が二本柳省三という父系は名門二本柳系。そして母系の母父には「ミスター競馬」野平祐二がいるというこれ以上はない「超良血」。おまけに所属はこれまた名門の鈴木康弘厩舎(調教師会会長・父は鈴木勝太郎)です。二本柳俊夫(シリウスシンボリ)と野平祐二(シンボリルドルフ)に鈴木勝太郎(ハイセイコー)という素晴らしい競馬環境です。もう少し頑張って欲しいかな。

スイテンのデビュー前にこの馬の秘めた素質を見抜き、安田の手に入れた倍の５，０００円で譲ってほしいという者もいたそうですが躊躇なく断ったということです。

最初に海外のレースに勝った日本の競争馬はワシントンバースデイＨのハクチカラではなくスイテンだったのです。
黄金の世代と呼ばれるアメリカの１頭で６６戦４３勝、当時の世界記録となる賞金を稼ぎ出し、芝ダートも問わず計１６度のレコードを叩きだした１９５８年米年度代表馬ラウンドテーブル。ハンデ戦とはいえ破ったハクチカラも凄いものです。
因みにサンタアニタでワシントンバースデイＨが行われたのは１９５９年２月２３日、これは私の誕生日でもあります。

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