北京波の新世紀映画水路コミュの「グラインドハウス」評

面白かったなぁ！これは二本続けて観たほうがいいですね！

まず嘘だらけの予告編が２本。それからロバート・ロドリゲスによるゾンビもの『テラー・プラネット』が始まる。

この映画がすこぶる楽しいのは、バリバリの新作でありながら、あたかも７０年代に名画座にかかりまくって雨降りだらけになったフィルムの状態に仕上げてしまったことで、その徹底振りも、その雨降りとノイズだらけに仕上げられたこだわりに相好を崩しているうちに終わってしまうのだ。

巻が飛んだりなくなったこともギャグに成立させており、こういう遊びにこれだけカネと時間を惜しみなくかけられる彼らに呆れるが、最後には賞賛してしまうのよ。

ジョージ・Ａ・ロメロへの限りない敬意と、マニアならではのはしゃぎ方が見事だ。何百人のゾンビを殺したのかは数え切れない。

それだけでなく、たとえばヘリコプターのプロペラでロメロの「ゾンビ」では長頭のゾンビの頭の天辺をすぱりと削ぎきったカットが一つあっただけでも衝撃的だったが、さすがは現代のヴィジュアルである。逃げ惑う何十人というゾンビをプロペラが切り刻んでいく。

『ゾンビ』においてショッピング・モールに襲来した暴走族のヘッドを演じていたメーキャップ・アーティストのトム・サヴィーニも保安官助手で出演しているし、ファンならではのオマージュもたっぷり！

撃つ、斬る,　切る、ぶっ飛ばす、爆発させる、ありとあらゆる殺戮の儀式が徹底的に繰り広げられるのだが、この雨降るノイズだらけの旧作を見ていると錯覚させるスタイルが、極めて巧緻な企みなのであり、中途半端な良識に縛られがちなボクのようなホラー初心者も、むかしこんなどうにもならないハチャメチャ映画があったんだなぁ・・・という気分に良識を忘れさせる知的操作が効果を発揮する。

したがってホラーのマニアも、初心者も、ホラーに嫌悪感を持っている門外漢にも、ロドリゲスの目論見は非常に効果的に発揮されたわけである。素晴らしい！！

途中にまたまた２本のフェイク予告編（これもお下劣で面白い）を挟んで、タランティーノの『デス・プルーフ』が始まる。

だが、この作品の内容を詳しく書くのは控えさせて戴こう。ただ、まぁいいだろうというところまでを書くと、「デス・プルーフ」とはスタント･カーなどの耐死仕様のことで、カート・ラッセル演じるスタント・マンがそのデス・プルーフ車を使って命がけで交通事故を起こしていく。

このカート・ラッセルがタランティーノの趣味を色濃く反映しているのか６０年代のテレビ西部劇から出ている老練なスタント･マンであり、そのために「バージニアン」だの「ハイ・シャパラル」（もう誰も分からないと思っているのか字幕では「シャパラル高原」という名前で出てくる。キャメロン・ミッチェルやジェレミー・スレートがかっこよかったんだ！）などのウンチクが語られたりする。

もう前半はぬるいぱっとしないドラマだと思わせて、後半がすごいことになってくる。ただ、これだけは言っておきたいのだが、タランティーノに心底感心した。

もう、作品のなかで一番感心した。

ものすごいアクションなのだが、この７０年代を再現したかのアナログ・アクションの手間暇のかけ方！！

終わったときに拍手が起きた！それは当然で、あたかも文芸座ｵｰﾙ･ﾅｲﾄで『ワイルドバンチ』の橋の落ちるシーンに真夜中の拍手喝采が湧き上がるのに似ている。肉体を中心とした叡智の発現に対しての惜しみない賛辞である。

この２本の映画は９月に『デス・プルーフ』『プラネット・テラー』の順にディレクターズ・カット版が連続公開されるのだが、必ず順番は逆のほうがいい！

それは観た人間にしか分からないことだし、「グラインドハウス」１８０分版ＵＳＡヴァージョンに駆けつけてこられた幸福なファンにのみ与えられるささやかな幸福なのである。（★★★☆☆☆）