ログインしてさらにmixiを楽しもう

コメントを投稿して情報交換!
更新通知を受け取って、最新情報をゲット!

中井英夫コミュの「中井英夫全集」完結!

  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
「中井英夫全集」第12巻『月蝕領映画館』(http://www.tsogen.co.jp/np/detail.do?goods_id=3629)が、いよいよ今月11日に刊行される。すでに初刷分の製本は終わっており、これ以上遅れる心配はなさそうだ(笑)。
第1回配本の第3巻『とらんぷ譚』より10年の時をかけてなった創元ライブラリ版「中井英夫全集」(全12巻)の完結を、同じ中井英夫ファンのみなさまと喜び合いたい。

以下にご紹介するのは、中井英夫最晩年の助手で、本全集編集の中心者でもあった本多正一による、全集完結にあたってのエッセイである。

--------------------------------------------------------------


 『中井英夫全集』完結にあたって。



                               本多正一


 創元ライブラリ版『中井英夫全集』全十二巻がようやく完結した。第一回配本『とらんぷ譚』が一九九六年五月のことだから、ちょうど十年を費やしたことになる。思えば東京創元社の看板文庫たる『日本探偵小説全集』もそのぐらい長丁場での刊行ペースだった。良書を丁寧に市場へ供給する良心的出版社の面目躍如といったところであろう。
 本全集発刊までの経緯は戸川安宣元編集長も私も幾度か書いている。たしか最初の話は一九九一年のことで、当初は『とらんぷ譚』全一冊本の創元推理文庫収録というプランニングだった。ちょうどその時期、講談社文庫の『幻想博物館』『悪夢の骨牌』『人外境通信』『真珠母の匣』が絶版となりかかっており、また創元推理文庫で出た紀田順一郎さんの『古本屋探偵の事件簿』が好調とのことで、そんな厚い文庫本で一冊、と戸川さんはお考えになっていたと記憶している。
 ところが、そのころから中井英夫の体調が急速に悪化し、入退院を繰り返すようになり、また引越しも余儀無くされ、次第に経済状態が悪化することになる。当時は戸川さん、講談社の宇山秀雄さん、『幻想文学』の東雅夫さんと、今後の中井英夫の生活をどうしたらよいか、幾度も会合を重ねた暗鬱な日々だった。そんなある日、戸川さんが中目黒の私の家の近くの喫茶店までいらしてくださり、「いっそのこと『全集』ということにして、これまで出たもの、これから出すもの、全部収録するってことにしたらどうでしょう」と申し出てくださったのである。
 十九世紀中葉のフランスの作家、ブルターニュ地方の名門貴族の出自を持つヴィリエ・ド・リラダンは、精神の孤高を持しながら、生涯赤貧洗うが如き生活を送ったという。その自尊心を傷つけぬよう援助の手を差し伸べるのに腐心したというエピソードが残されているが、戸川さんのお話はその逸話が再現されたかのような感慨を抱いたものだった。思えば、東京創元社の齋藤磯雄訳『ヴィリエ・ド・リラダン全集』を担当していたのは若き日の戸川安宣氏だったのである。
 それに文筆に生涯を賭けた中井英夫にとっても、最晩年に全作品が文庫本という入手しやすい形で出版されることが決定していたのは、うれしい知らせだったに違いない。私などがいうのも僭越だが、改めて戸川さんと東京創元社のお力添えに心から感謝申し上げたい。

                 *

 中井英夫が“全集”というタイトルに警戒的になっていたのは知られた話だろう。かつて『新思潮』編集時代に太宰治を訪ね、「いったい、まだ生きている作家が“全集”を出すぐらい滑稽なことがあるだろうか」と詰め寄ったというのである。戸川さんとは『コレクシオン中井英夫』とか『中井英夫集成』というネーミングを考えたが、発刊は没後のこととなりお蔵入りとなった。
 十年という刊行期間には幽冥境を異にする執筆者、関係者も多かった。ご高齢だった埴谷雄高氏、椿實氏、また『薔薇幻視』の写真家佐藤明氏。生涯ただ一度だけ三一書房版『中井英夫作品集』一巻本の装幀に手を染められた作曲家の武満徹氏。今回の私の全集装幀原案にサジェスチョンをいただいた装幀家の小倉敏夫氏。また一昨年にはまだお若かった小笠原賢二氏、さらにこの夏には宇山秀雄氏の急逝が相次いだ。改めて御冥福をお祈り申し上げたい。中井英夫の作品は決してベストセラーになるようなものではなく、少数の読者によって静かに読み継がれていく性質のものだと思うが、そこにはこういった多くの方々の力強いお仕事があったのである。うれしいことに創元ライブラリ版『中井英夫全集』は少しずつながら大半の巻が版を重ねている。
 今回の“全集”は中井英夫生前の刊本を集成するというスタイルを採り、決して本来的な意味での全集とはいえない。多くの単行本未収録作品、草稿、異稿、日記、書簡類を残しているが、他日を期すことにした。例外的に執ったのが第十巻『黒衣の短歌史』所収の「中井英夫中城ふみ子往復書簡」で、これは一九九三年の九月、小樽文学館の玉川薫さんが病床の中井英夫を訪ね、生前に了承をいただいたことで収録することにした。中井英夫の死の三ヵ月前のことだった。この往復書簡のことで中城ふみ子の忘れ形見である愛娘、厚美雪子さんに、生前一度だけお会いする機会を得たのも忘れられない。
 編集実務には戸川さんの社長就任前後より、代わって伊藤詩穂子さんが担当してくださった。往復書簡の解読や『薔薇幻視』編集での熱心な作業など思い出も多い。記して感謝申し上げたい。


--------------------------------------------------------------

なお、誠に蛇足ながら、『月蝕領映画館』の月報に拙文を寄稿させていただいた。
いちファンの目から見た中井英夫論としてご笑読いただければ幸いである。


創元ライブラリ/文庫判/1890円【11月11日発売】

コメント(4)

お知らせ下さってありがとうございます。
私も少しずつ揃えていたのですが、
完結まで10年ですか…感慨深いものがあります。

↑で紹介いただいた完結にあたってのエッセイにも、大変心打たれるものがありました。
私の中での中井英夫はまだまだ「完結」しそうもありません(笑)
☆ アンシアさま

ええ、もちろんファンそれぞれの胸の中に生きるの中井英夫に「完結」などありません。なにしろ中井英夫は呪う作家ですからね。いったんその虜となったならば、その呪縛力は生涯にわたるものとなるでしょう(笑)。

また物理的な話をすれば、『黄泉戸喫』など没後刊行の著作の文庫化はいずれなされるでしょうし、その後に完全版『中井英夫全集』もあるでしょう。完全版『中井英夫全集』というのは容易に進むような企画ではありませんが、その実現までにもこないだの『凶鳥の黒影』のような企画ものも刊行されるでしょう。そうした意味でも「完結」への道は、善かれ悪しかれまだまだ遠い。


「人間との約束」と言い、そこから「反世界」と言わざるを得なかった中井英夫の思いは、日々あらたに再発見されることはあっても古びることはなく、これからの時代にはむしろアクチュアリティーを増すことでしょう。それが世界にとって好ましいことだとは言えないとしてもです。
ついに完結するんですね。

私が初めて中井作品に出会ったのが八年ほど前、全集が刊行されていることを知ったのだそれから二年ほど後で、既刊分を購入するために方々の書店を廻った覚えがあります(創元ライブラリって、いわゆる「町の書店」にはあまり置いてないんですよね...)。

本多さんのエッセイを拝見しました。
『とらんぷ譚』から全集に発展した経緯には、アンシアさんと同じく私も心打たれました。

刊行日を指折り数えて待つ日々です。
本日、無事、書店に並んでいるのを確認しました。

『月蝕領映画館』の書評を書きましたので、本編(?)読了後にでもご笑読下さい。
こちらは無料ですので(笑)。

・ 「『月蝕領映画館』を読む」2006年11月12日
  (http://mixi.jp/view_diary.pl?id=266829826&owner_id=856746)


☆ やぐさま
> 本多さんのエッセイを拝見しました。
> 『とらんぷ譚』から全集に発展した経緯には、アンシアさんと同じく私も心打たれました。

晩年の中井英夫との日々と別れを綴った、本多正一の2著をご存じでしょうか?
写真集『彗星との日々』と、エッセイ集『プラネタリウムにて』です。
よかったら、下の紹介ページをご覧下さい。
http://homepage2.nifty.com/aleksey/LIBRA/honda.html

『彗星との日々』は残部僅少とのこと。
『プラネタリウムにて』には、解説として拙論「中井英夫と本多正一」が収録されています。

ログインすると、みんなのコメントがもっと見れるよ

mixiユーザー
ログインしてコメントしよう!

中井英夫 更新情報

中井英夫のメンバーはこんなコミュニティにも参加しています

星印の数は、共通して参加しているメンバーが多いほど増えます。