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小説を書いてみよう!コミュのカエルの王子サマ

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初めての掲載です!

感想、批評等、「読んだ」だけでもいいので頂けると幸いです。

よろしくおねがいしますわーい(嬉しい顔)ぴかぴか(新しい)

コメント(8)

出会いはいつも突然やってくる。
それは自分たちの意思とはまったく関係なしに。



かえるの王子サマ


「……かえる?」

私のちょうど足元にソレはいた。
体長10センチほど。全身黄緑色で頭に王冠なんかを乗っけた…

「やだぁ気持ち悪い!」
「いや、生きてるんじゃなくて・・・・・・」

・・・・・・・・・・・・・・ぬいぐるみ。

足を止めた私より先に進んでた加奈が戻ってくる。
そして私がつまみあげたかえるを2人で覗き込んだ。

「なんか薄汚れてない?」
「・・・だよねー、この辺、車多いし排気ガスとかで黒くなってきてる。」

誰のかもわからない薄汚れたかえるのぬいぐるみをどうしたものかと首をひねる。
その間もかえるは一向に表情を変えない。・・・・・・まぁ、変えたら怖いけど。

「どうしよっかこれ」
「もしかしたら後で持ち主くるかもよ?その辺においておけば?」

私が自分の目の前にかえるを持ち上げると加奈は言った。
それもそうだと私は踏まれないように塀の上にかえるを乗っけて学校へと歩いていった。

私の名前は長谷部由梨。
今年、大学受験で忙しい18歳。今の成績をキープできれば3月まで受験勉強をしなくてもよくなりそうだ。
なんにせよ、ありがたいこと。

かえるを置いて、そして。

私はなぜか一日中そのかえるのことを考えていた。
おかげで先生に当てられて答えられなかったし、階段から落ちそうになったし、弁当も食べ切れなかった。迷惑。
それにしても…・・・・・・あのぬいぐるみの持ち主は見つかったのだろうか?

「……り……由梨―、今日皆でどっか食べてこって言ってるけどどうするー?ちょっと、由梨聞いてるー?」

加奈手が目の前で振られて我に返った。

「え、あ、あ、ごめん、何?」
「だから、この後みんなでどっかよって行かない?ってこと。わかってる?もう放課後だよ?」

また、かえるのせいだ。
どうにもスッキリしない。こんなままでどこかに遊びに行ってもまた上の空なだけだろう。

「あー、ごめん、今日は帰るよ。なんか気が乗らないし。」
「なんか今日ずーっとボーっとしてたもんね。気をつけて帰りなよ?」
「あれ、由梨行かないの?そっか、それじゃボーっとして車に惹かれないようにね!」

加奈との話を聞いてやってきた胡桃。余計なお世話だ。
私はそそくさと鞄に教科書をしまって立ち上がった。

「そんじゃ、帰るね、また誘って?」
「分かった、じゃ、また明日―」
「ばいばい由梨」

みんなと手を振ってから教室を後にした。
もちろん行くべき場所は決まっている。
今日一日中わたしの頭を支配していたかえるのぬいぐるみの元へだ。
「いた・・・・・・」

今朝と同じところにそのぬいぐるみはおちついていた。
朝と同じようにソレを持ち上げて眺める。

「なーんでか、この顔が頭から離れないんだよねぇ。」
「・・・おねえちゃん。」

ふと足元を見ると4,5歳ぐらいの幼稚園の服を来た男の子が立っていた。

「そのぬいぐるみお姉ちゃんの?」

その子は私が持っていたかえるを指差した。
私は怖がらせないように、同じ目線になるように男の子の前にしゃがむ。

「ううん、私のじゃないよ、もしかして君のだった?」
「んーん。」

男の子は指先をかえるに向けたまま首を振った。

「ねぇ、お姉ちゃん、そのかえるお姉ちゃんの家に連れて行ってくれない?」

・・・いや、こんなぬいぐるみ私もいらないんだが。

「君がもって帰らなくてもいいの?」

私の言葉にその男の子はこっくりと頷いた。

「お母さんがそんな汚いものつれて帰ってきちゃいけないっていうんだ。」

そりゃそうだろう。

「でもそれ、ずーっとあのカラスに狙われてて、あぶないんだよ。」

その言葉に私はふと頭上の電線を見上げる。なるほど、今にも目が光りそうなカラスがこっちを見ている、・・・・・・微動だにしない。
このぬいぐるみをどうするつもりかは知らないが、というかどうなってもいいんだが、なんだか男の子が不憫に思えてきた。

「ん〜・・・仕方ない、待って帰るよ。お姉ちゃんが責任持ってカラスから守っておくよ。」

「本当!?」

瞬時に男の子の顔が明るくなる。
嬉しそうに私にお礼を言って走り去ろうとし、もう一度私を見て・・・

「ちゃんとお風呂に入れてあげてねー!」


・・・・・・お風呂?洗濯機で充分でしょ。


私は笑顔で男の子に手を振りながらそんなことを考えていた。



「ただいまー。」

私は無造作に靴を脱いで脱衣所に直行した。
カバンからぬいぐるみを引っ張り出して洗濯機に突っ込む。

「わざわざお風呂で手洗いとかしなくてもこれいいでしょ。」

親に見つかると何を言われるか分からないので適当に上からタオルを入れておく。
そして私は脱衣所を後にした。


窓からあのカラスがこっちを見ていたことには気づかなかった。
かえるの王子サマ3

「あ、きれいになった。」

次の日、学校から帰った私は、洗濯されて外で洗濯バサミによって宙ぶらりんに干されているぬいぐるみを見て言った。
なるほど、洗ってみるもんだ。
それと、近くの電線を見てもカラスのの姿は見当たらない。

「これなら部屋にも置いておけるか。」

一日中いやというほど日光を浴びてカラカラに乾いたそれを取り外して部屋に入る。


私は屋根の上であの黒い鳥がこっちを見ているとは知らなかった。

部屋に入って私は迷った。

このかえるをどこに置こうか。机の上は教科書、雑誌、その他もろもろが置いてあってぬいぐるみをおきたいと思わない。
べッドは、ぬいぐるみは一緒に寝ると運気を吸い取るなんて言葉があるから却下。

さて、どこにおこうか。


私は部屋中を見渡し、結局ベッドに光が入るようになっている窓の桟においておくことにした。

「ここなら運気吸い取られることも無いでしょ。「由梨―!夕飯〜!!」

ぬいぐるみを窓の桟の右端において夕飯を食べるべく私は下に下りていった。


誰もいなくなり、電気も消されたその暗闇の部屋の窓に一羽の鳥が降り立った。
それは闇にまぎれる黒い羽の大きな鳥だった。
そのカラスが窓越しに姿を現すと、窓に置かれた小さな緑色のぬいぐるみは身じろき、カラスのほうを向く。
そして、鳥は窓に鍵がかかっているのを確認するとその場から飛び去っていった。
かえるはただ何も言わず部屋の中のほうを向いた。
その表情からはなにも読み取れない。


「眠い・・・もー無理・・・明日は休日だし・・・ぐっすり寝よ」

頭がぼんやりした状態で部屋に入った私はぬいぐるみが左端にいたことに違和感を覚えなかった。
―――そしてその翌朝、私は驚くべきものを見ることとなった。
かえるの王子サマ4



リリリリリリリリリリリリリ!

『ぐえ。』

目覚ましの音ともに耳元でそんな声がした。今何時だろうか・・・?
今日は休日ってことで親は私を起こしはしない。――ありがたい。
それでも目覚ましはセットして寝るから定時になったら律儀にけたたましくなってくれる。――迷惑。

「は・・・離してくれ・・・・・・」

またも声が聞こえる。
ふと、自分が何かを握っていることに気がついた。

・・・おかしい。

私は窓に置いてある目覚まし時計を止めたはずだ。
なのにその時計はまだ私に時間を告げていて、状況的に時計を止める代わりに私は何かをつかんだらしい。

・・・・・何を?

「つ、つぶれるぅ・・・・・・」

弱い声が聞こえる。

私は眠気と葛藤しながらうっすらと目を開けた。
自分の左手が何かをつかんでいる。
緑色で。感触的にぬいぐるみっぽくて。
・・・・・あぁ、昨日のぬいぐるみか。
・・・・・・・・・じゃぁ、耳元のこの声は?

・・・・・・・・・・・・・・。

壁側を向いていた顔を反対に向けても誰も見当たらない。
私はかえるを握ったまま身体を起こし律儀な目覚ましを止めた。
自分以外に誰か人がいるわけでもないし、目覚ましに録音機能はついていないから再生されてるなんてこともない。
じゃぁ、なんだったんだろう?

私の気のせい・・・?

まさか幽霊なんてことないよね?

「いい加減手を離してくれないか・・・?」

また声がする。今度は私のお尻の方から声がした。

「あーもー気味が悪い!誰!?」

私は握っていたぬいぐるみを振り上げて箪笥に投げつけようとした。

「わー!待て待て待て待て!おちつけ、私を投げるなー!」

・・・・・・・・・私を投げるな・・・・・・?
私は慌てて手にしていたかえるを見た。
表情は昨日見たのと同じままだ。まさかぬいぐるみがしゃべるなんて・・・・

「たのむから一旦私をどこかに置いてくれ。」

・・・・・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・。

・・・・・・。

・・・。

「ぃ゛や゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

今日、たまたま両親とも出かけていて、弟は部活で、家には私一人だったのは不幸の幸いというやつなのかもしれない。
かえるの王子サマ5

「ぃ゛や゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

思わず私はぬいぐるみをベッドの壁側に投げつけてベッドを越えて箪笥と背中合わせになった。
最近のぬいぐるみはしゃべるのか?いや、そんなこと有るわけない!
じゃぁ、いったいあのかえるはなんなのか?
まさか時々心霊番組でやる誰かの魂がぬいぐるみに乗り移ったとか!?

「いててて……投げるのは止せと言っただろう。」

かえるが頭を抑えながら起き上がる。
ベッドに投げたんだから、そんなに痛くないと思ったんだけど・・・って、そんなことを考えてる場合じゃなく。

「あんた・・・・・・ぬいぐるみじゃないの・・・?」

とりあえず少しでも落ち着くために私はこわごわ聞いてみた。
こんな状況は初めてだ。

「私は、今はまぁ、かえるのぬいぐるみだな。」

今ってなんだ、今って。

「私はラッセル・レイヴン・オーシアリア。今はぬいぐるみだが、元の世界に戻れば姿も戻る。」

・・・・・・・・・もとの世界?
ますます訳が分からない。
このしゃべるぬいぐるみは私がいる世界のほかに違う世界があるとでもいうのか。

「えーと、君は由梨・・・・・・であってるかな?」

かえるはいきなりそんなことを聞いてきた。
確かにあってはいるがそんなこといつ知ったのか?

「・・・なんで知ってるの?」
「なんで、と言われてもこっちに来る前にあらかた情報は集めていたし・・・、それに君の親も由梨と呼んでいただろう?」

確かに一理ある。
しかしどうしても納得がいかないのはかえるの話している内容だ。

「あんたの話していること聞いてると・・・「ラッセル、もしくはレイヴンとか、レイとか。」」

かえるのくせして名前で呼べと。
私は軽くため息をついた。

「じゃぁ、ラッセル。私にはラッセルの言っていることがよく分からないんだけど?まるで世界ってものが2つや3つあるみたいに聞こえる。」
「それはそうだろう。世界が2つや3つあるのを前提に話している。」

・・・・・・・・・私の頭に「?」がいくつもついた。
まさか、ファンタジーの小説とかじゃあるまいし。

「由梨たちの世界では知られていないかもしれないが、実際異世界と呼べるものがいくつか存在している。私たちはその1つから来たんだ。」

・・・・・・・・・。
その姿で言われても説得力は薄いが、ぬいぐるみがしゃべることを考えるともしかしたら本当にあるかもしれない。
あくまで可能性の域は出ないが。

「まぁ、こんなところでごねていてもしょうがない。」

そういうとかえるは……じゃなくてラッセルは飛んで机に乗った。

「今から会いに行きたい奴がいる。そいつならもっと詳しく教えてくれる。」

ラッセル以外に異世界の物がここに存在するのか。
首をひねっているとラッセルは私に着替えることを促してきた。
まぁ、ぬいぐるみ一匹では行動範囲はたかが知れているだろう。
こっちも聞きたいことはいくつもある。といってもパジャマのままで外を出歩くほど勇気も無い。
私はラッセルを机の引き出しにしまって着替え始めた。
かえるの王子サマ6



「なにも引き出しに入れることも無いだろう。」

外を歩く私のかばんの中から低い通った声がした。

「何、暗所もしくは閉所恐怖症だったとか?」
「そういうわけではないが・・・私は引き出しに入れられたのはあれが初めてだ。」

そりゃそうだ。
引き出しに入れられるなんて経験、一生涯で何度もあっては、たまったもんじゃない。


私は極力かばんを見ないようにする。もちろん声量も抑えて。
大声で話してれば変な人間と思われてしまう。

「あぁ、そこを右折してくれ。」

ちょうど交差点などにくるとラッセルがナビをする。
かばんから顔を出している様子も無い。
私のかばんはビニールではないから中から見えるはずも無い。

「ねぇラッセル、なんでそんなに的確にナビできるの?」
「なんというか・・・例えば今の場合、私の右側から奴の気配がしているんだ。まぁ、気配の濃いほうに、というか。」
「・・・ふぅん・・・?」

よく分からない。

「ま、いいや、とりあえず右ね。」

私は促されるままに右へ曲がる。

「あれ・・・・・・待てよ・・・?」

なんとなく今自分が歩いている道に見覚えがあった。
私が幼稚園ぐらいのとき。もしくは小学校上がりたてのとき。
たしか、よくこっちに来ていた気がする。
このまま歩いていくと着く場所は・・・

「そこだ!」

ラッセルの声と同時に私の足も止まっていた。

思い出した。

この空き地は。

――野良猫の溜まり場。

よく牛乳を持ってこっちに来ていた。
そしてぶつぶつとネコを相手に愚痴を言っていたことも思い出した。

「ここなら人目も気にならないんじゃないか?私をカバンから出してくれ。あいにく身動きが取れなくて自分では出れなさそうだ。」

それはつまりかばんの中が物でいっぱいで狭いと・・・?
いろいろ思うところはあったが黙ってかばんから出してやる。
するとかえるのぬいぐるみは私の手から降りて猫たちが集まっている土管のほうに向かっていった。

「シマ、いるかー?」

・・・・・・・・・シマ?

「まったく。遅くないかい、レイ王子。」

ラッセルの声にこたえて縞模様のずんぐりとしたネコが後ろから土管の上に姿を現した。

ネコ!?
会いたい奴っていうのは人間のことじゃなくて!?

思わずラッセルに答えたネコをまじまじと見ているとふと気づくことがあった。
見覚えがある。あれは・・・・・・

「・・・・・・シマさん!?」
「あぁ、久々だねお譲ちゃん。その節はお世話になったよ。」
「悪いねシマ。私もこっちに来るまでにいろいろあってね。」

人とぬいぐるみと極め付けに猫とが会話をしている。
なんて異様な光景だろう・・・・・・
まわりのほかのネコは土管を囲むようにして座っていた。

まさかネコまでも人間の、しかも日本語を話すとは・・・・・・。

シマさんは私が小学校の帰り道で道端に倒れているのを見てこの空き地につれてきたネコだ。
牛乳を持って空き地に行き始めたのはそれからだった。
縞模様のねこだったから「シマさん」と名づけただけだったのだが、本名だったのだろうか?

・・・・・・そもそもネコに本名はあるのか?

そんなことを考えているとその縞模様のネコが私の足元に寄ってきた。

「お譲ちゃん、私はレイ王子と同じ世界の者さ。名前はシマリ。突然でなんのことかわかんないだろうね。」
「え、あ、ちょっとまって、王子・・・って今言ったよね?ラッセルは王子なの?」

そうだとすると大変だ。
ネコやかえるがいる世界で王子がよりにもよってカエルとは。
王子がかえるなら王様もカエルかもしれない。

「そうだよ。レイ王子は私たちの世界の王子さ。」

こりゃ大変だ。

「今、あたしたちの国は大変なことになっていてね。」

いや、カエルが王子と言う時点でたいへんだ。

「まぁ、ここで説明していてもしかたがない。百聞は一見にしかずっていうだろ?」

ネコはきびすを返すと土管の上に戻って立ち上がった。

「一度私たちの世界に行けば分かると思うからさ。」

シマさんがぶつぶつと何かを唱えると一瞬空気が揺れた気がした。
何をしたのか。
「いいかい、王子。今向こうでは何が起こっても不思議じゃない。ちゃんと守るんだよ!」
「わかってるよシマ。」

小さなぬいぐるみのかえるが私のほうに戻ってくる。
ってゆーか、かえるに守られたりしたら私は人としてどうだろう・・・・・
いくら特殊なかえるといってもそれは情けなさ過ぎる。
そんなことを考えているとラッセルが私のほうを見上げて言った。

「由梨、いいかい、目の前の景色がはっきりする前で絶対に両手を広げたりしてはいけないよ。」
目の前の景色がはっきりするまで?
今もうすでにはっきりしている。

「どういうこ・・・・」

どういうこと?
そういいかけると私はとてつもなく強い力で上に引っ張られかけている感覚がした。

「え、な、なにっ!?」
「じゃぁね、王子、由梨ちゃん、気をつけて。」
「ちょっとまっ・・・・・・!」


――そして私の目の前は真っ暗になった。
かえるの王子サマ7  そして世界は広がる  



今私はどこにいるのか。
とんでもない速さで動いている気がする。
目を開けることはできるが、視界がぼやけてはっきりしない。
ラッセルが隣にいるかどうかも分からない。
見知らぬ、しかも訳の分からない場所に一人でいるような感覚に不安、恐怖を感じずにはいられない。
何をすればいいかも分からない。

「あ・・・れ・・・?」

ところどころに真っ黒い、人が通れそうな穴みたいなのが見えてきた。
そしてさっきまで白くぼやけていた視界がだんだん黒を帯びてくる。
世界が灰色になってきていた。

「由梨、こっちだ。」

私の耳元より高いところから聞き覚えのあるかえるの声がした。
一人っきりではなかった、そばにいたと、少し安心する。
しかし、視界がぼやけて周りがよく見えない。
かえるの特徴的な小さな緑さえも見当たらない。

「ラッセルどこ?視界ぼやけてて分かんないっ・・・」

するとやはり私より高いところから納得するような声が聞こえた。

「大丈夫、私に着いてきて。」

だから、どこにあんたがいるか分からない・・・・そう言おうとしたときだった。
誰か、人の手が、私の手を引いた。
誰・・・・・・?
おもわず身を引いたがその手はかまわずに私を誘導するように手を引いていく。
シマに、ラッセルとここに飛ばされるときにほかに誰かいたのか?
誰か確認しようにも視界がはっきりしない。
誰か分からないがどうしようもない。
誰かに手を引かれるままにしていると、ほかでは真っ黒なのに、そこだけは白くなっているような、そんな穴が見えた。
私の手を引く誰かはそこへ行こうとしている。

そして。

一瞬強い光に目をくらませ、再び目を開く私の視界には広い石畳のバルコニーが広がっていた。

「・・・・・・え?」
「ようこそ、私たちの世界へ。」

困惑している私の頭上からラッセルの声が降ってくる。
しかし私が顔をあげて見たところに私の知っているラッセルはいなかった。
変わりに、整った顔をした、背の高い青年が私の手を握ったまま隣に立っていた。
隣にいきなり現れた美青年に私は困惑し、そしていろいろな疑問が出てきた。
もちろん頭に浮かぶのは「誰?」。そしてもう一つ「あのかえるは?」。

「え、えーと、お初にお目にかかります・・・・・・?」

どうすればいいかも分からないのでとりあえずこっちからも声をかけてみる。
美青年はちょっと驚いた顔をした。驚いた顔もまた整っている。
一目ぼれをする女子も多いだろう。
まぁ、確かにかっこいいけど、とくにタイプってわけでもない。

「何を言っている?もう私を忘れたのか?」
「へ?」
それはこっちのセリフだ。私はまったく見覚えが無い。

「え、だって私初めて会うと思うんだけど・・・・・・」

美青年はまた不思議そうな顔をする。

「えっと・・・名前を聞いても・・・?」
「だから、私はラッセル・レイヴン・オーシ・・・・・・・・・!」

その瞬間私の驚きの声と美青年・・・もといラッセルのどこか納得した声が重なった。

「なっ・・・ら、ラッセル!?あのぬいぐるみの!?」
「そうだったな、由梨は私のちゃんとした姿を知らなかった。」

妙に納得するラッセルを私はまじまじと見てしまう。

「待って、本当の姿って普通のかえるになることじゃないの!?」
「な、なにを言う!私はこの通りれっきとした人間だ。」
「まさか人とは思わなかった・・・せめてかえるに冠が乗ってるとか・・・」
「さすがにかえるは国を治められないだろう。」
「だから私、すんごい大変な世界なのかって・・・・・・・」

ラッセルがあきれたような面白がっているような笑みを漏らす。
そのとき私はふと思った。

「あ、ラッセルってさ、人だとレイって感じの顔だね」

思ってもいなかったことを言われたのか驚いた顔をする。
うん、やっぱなんかラッセルよりレイヴンぽい。

「まぁ・・・確かにラッセルとはあまり呼ばれていないがな。シマとかもレイヴンで呼ぶし。あー、シマもこっちにきたらネコじゃなく人だからな?」

またびっくり。
確かにラッセルが人になってる時点で思いつくことだがやはりびっくりはする。

「た、確かにそうなるか・・・・でも、うわー・・・シマさんてどんな人なんだろ?」
「まぁ・・・見たまんま、だな。猫でも大して変わってなかった。」

レイが顔をそらしながら言う。
なんとなく頭で想像してみて、こっちでシマさんに会うのが楽しみになってきた。

「さて、ここは私たちが住む城のバルコニーだ。ほら、城下町とかが見えるだろ?城内に入る前にちょっと説明するよ。」

私は手を惹かれるままバルコニーの末端に立ち手すりに寄りかかった。

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