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小説を書いてみよう!コミュの小夜時雨

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 短編で、時代小説。時代の流に翻弄された女性のものがたりです。

コメント(8)

 外は静に雨が降っていた。その日、鎌倉では大騒ぎになっていた。この鎌倉の主・源頼朝とその妻北条政子の長女大姫が、危険な状態に陥っていた。
 大姫は元来、体は昔から丈夫な方ではなかった。よく、幼少のころからすぐに風邪を引いたりしていた。その度に母・の政子が彼女の看病をしていたのである。
「姫、姫、母上ここにいますよ、だからしっかりして」
必死に母の表情をした政子が呼びかける。だが、大姫は宙をみつめたまま。
「やっと。義高様のところに逝ける・・・」
大姫。鎌倉の御所・源頼朝と北条政子の間に生まれた長女。
その大姫に、わずか5歳の少女に、許婚がやってきた。

 名を源義高。あの木曾義仲の嫡子。頼朝のいとこにあたる。
その息子が、この度、大姫の婿として、木曾から鎌倉にやって来た。だが、それは表向きの理由。裏の理由は、木曾からの人質。
けれど、大姫にはそんな理由は知らない。いつの間にか、大姫は、義高になついていた。この二人の間柄を鎌倉の人々は、穏やかに見守っていた。

「ねえ、楓、義高様はどこにいらっしゃるか知ってる?」
「お庭にいらっっしゃいましたよ」
「ありがとう」
「あ、大姫様!」
楓が止める間もなく、彼女は義高の姿を探して、庭に下りた。
可愛らしい。
「あの子もすっかり義高殿になついて」
横にいつの間にか、御台所の北条政子がいた。
表情は嬉しそう。
「義高殿が来られて、すっかり健康になって・・・」
母親の表情をする。
確かに、大姫はあまり体の強い方ではなかったが、義高が来てから、寝込むことが少なくなった。
それは、嬉しいものでもあった。

「義高様」
二人の仲睦姿は、鎌倉の人々の目には、微笑ましく映った。皆、この二人を優しく見守った。
そして、別の視点から見ている人物もいた。
この鎌倉の主・頼朝。
「姫もすっかり、義高殿になついて。あの二人はよい夫婦になるでしょう」
「・・・」
政子の台詞に、沈黙する頼朝。
「・・・政子、忘れたわけではあるまい。義高の立場を」
「殿!義高殿は正当な源氏の血筋。これほど、大姫にふさわしい許婚がおりましょうや?!」
確かに、政子の言うことも正しい。木曾とはいえ、源氏の血を引く男と、その娘。この二人に子が出来ようものなら、それは理想の子と言える。特に男子なら。
「・・・義高は人質ぞ。忘れるな」
その場をそう言って、頼朝は去る。
「え・・・?」
大姫の質問に義高は、戸惑った。
だが、一瞬間を置いてから彼は静に微笑みながら。
「好きだよ。ここの人たちはとても良くしてくれる。御台様も優しいし、母上みたいだし。何より、姫に逢えたし」
「義高様・・・?」
「鎌倉に来てから姫に逢えた事で俺は変われたよ。姫、忘れないで。もし、もしも俺がいなくなったとしても、俺は姫の傍にいるから。
 姫がさびしいときは風になって姫を包んであげる。姫が、凍えそうなときは小さな灯火となって姫を暖めてあげる。姫が、病で倒れたときは、水となって喉を潤してあげる。姫が、泣いているときは、小さな草花となって姫を癒してあげる。
だから、姫、俺を決して忘れないで。お願いだ」
義高の大きな瞳から一滴の涙が落ちた。
「義高様、泣いてるの?」
「嬉しくて泣いてるんだよ」
義高の瞳には、可愛らしい大姫の姿が映っている。
大姫は不安になったのか、義高の涙を小さい手で拭ってやる。
「大丈夫、姫はいつも義高様と一緒。だって、姫のだんな様だから」
大姫は、無邪気な笑顔を彼に向けた。
義高も一緒になって笑う。この時間が続けばいい。
とさえ、願う。
「義高様、いなくなってしまうの?」
不安になったのか、大姫が尋ねた。
「いなくならない。ずっとずっと一緒だよ」
二人は顔を見合わせて微笑みあった。
波の音が穏やかに響く。

しかし、どうしようもない歴史の歯車がこの幼い恋人同士にも襲ってくる。
抗えない波が。

「父上がとうとう亡くなったか・・・」
義高に父・源義仲の訃報が伝わった。義仲は、従兄弟である大姫の父・頼朝に討たれた。
それが意味するところは、彼の死。義高は、本来、人質として鎌倉にやってきた。
「そうか」
彼はそれだけを呟く。
そのとき、意外な来訪者が義高の部屋にやってきた。
この鎌倉の権力者の妻・北条政子。そして大姫。
「御台様・・・?」
義高は唖然とする。
彼の従者が、義高をかばおうと前に出たが、義高は制した。
「逃げなされ!義高殿。この鎌倉から」
政子は力強い声で、言い放つ。予想外の言葉に義高は驚く。
「しかし・・・、私は武士です。いさぎよく散りたいのです」
政子は、有無を言わさず凛として言葉を続ける。
「武士ならば、生きて生きて生き抜きなされよ。死だけが、武士ではありませぬ。ましてや、そなたは、この大姫の婿殿。それは、私の息子ということです。母親が息子の無事を心配してなにがおかしいでしょう!」
「・・・何より、自分のために、そして大姫のために生きてくだされ!」
その表情は普段の御台の台詞ではなく、母親としての言葉だった。
大姫と義高が見つめあう。
「生きてください。私のために」
「姫」
それはとても5歳の少女のする顔ではなかった。一人の女性の顔。この二人はいつの間にか立派な夫婦になっていた。
いつの間に。
政子はそう思った。
つい、この間まで、まだ幼い少女だったのに。
「迎えに来る・・・。必ず、それまで、待っててくれ」
「はい。待ってます。いつまでも」
二人は、ただ見詰め合った。
「さあ、いきなされ!手はずは整えてあります!もう、時間がありませぬ」
大姫は、自分の髪を結っていた緋色の紐を、義高は、やはり、髪を結っていた青色の紐を互いの手首に結んだ。
「さあ、いきなさい!」

 だが、間もなくして義高も頼朝が放った刺客に殺された。大姫の元に、彼は無惨な形で還って来た。首と互いに結び合った
緋色の紐だけ彼女の元へ戻ってきた。

 それをきっかけに大姫は、寝込むことが多くなった。両親が心配して、縁談を持ってきたが、大姫はかたくなにそれを拒んだ。彼女の夫はただ一人。源義高。
 無理矢理、縁談を進めようとすると、彼女は「死」すら簡単に選ぼうとした。
 やがて、本格的に大姫は弱っていく。床から起き上がれなくなっていく。「死」という暗い足音が彼女に近づいていた。
それは誰の目から見ても、明らかだった。
「姫、母様はここにいますよ。だから、しっかりして!」
政子の悲痛な叫びが虚しく響く。
けれども、大姫は優しく微笑む。
「母様、私は幸せでした・・・。義高様に逢えた事が。これから、やっと義高様に逢えるの。だから、死ぬことは怖くない。
ありがとう、義高様に逢わせてくれて・・・」

それが、大姫の最後の言葉となった。
享年20歳。
あまりにも、若すぎる死。彼女は、5歳という歳で本物の恋を知ってしまった。
でも、彼女は幸せだった。
頼朝の失敗は、義高を殺した事から始まったのかもしれない。

大姫の2歳違いの妹、三幡。
(姉上は幸せだったのね)
大姫の死に顔が微笑んでいたので、そう思った。
そのとき、一陣の風が吹く。
三幡は見た。
風がやがて11歳の義高に変わり、大姫が5歳の少女となって、二人手を取り合っていた。最高の笑顔だった。

大姫は、三幡に微笑んだ。

そうして、二人は永久に一緒になったのだ。

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