ログインしてさらにmixiを楽しもう

コメントを投稿して情報交換!
更新通知を受け取って、最新情報をゲット!

小説を書いてみよう!コミュの特別版 テーマ「梅雨、雷」

  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
 ふと、思いついたので、指の赴くままにキーボードを叩いてみました。

 いつもどおり、同ってことない日常のひとコマ的な小説です。

タイトルは「雷雨の日、僕は親友のために・・・」

コメント(5)

 「雷雨の日、僕は親友のために・・・」

親友の僕が見る限りで、彼は相当に焦っていた。その顔には疲労と寝不足で、酷いものになっていた。目元にはくっきりとクマができ、口の周りにも無精髭がびっしりと生えていた。恐らく、何日か徹夜しているのだろう。栄養ドリンクの空き瓶も何本か転がっていた。遊びに来た僕をほったらかして、さっきからパソコンの画面を食い入るように見つめながら、せっせとキーボードを叩いている。
 この狭くて汚いアパートの一室にあって、恐らくこのパソコンは最も高価なものだろう。部屋の中央に置かれた座卓の上にどんと鎮座するその姿は、ある意味雄々しい。でも、飯が食いにくそうだと思う。
「なあ」
 僕は彼に呼びかけた。返事はない。構わず僕は続けた。
「そのパソコンがあって、飯は食いにくくないのか?」
 そんなわけは無いと言いたいのか、それとも質問のくだらなさが癇に障ったのか、彼は僕を鋭く睨みつけ、そのまま無言で画面に目を戻した。・・・おお怖い。
「お前、暇なの?」
 彼が僕の方も見ずにそう言った。
「おう」
「どっかでかければ?」
「雨なのに?」
 そう、窓の外ではざあざあといい音がしている。せっかくの休みだというのに、朝から結構な豪雨だった。梅雨というと、しとしとという印象があるが、今日の雨はそんなおしとやかなもんじゃない。こんな日に外に出たら、十歩も歩かないうちに濡れ鼠になる。
「課題の締め切りが明日なんだよ。早く終わらせて寝たいんだ」
 彼は言外で邪魔だから帰れと言いたいようだ。多分、相当眠いのだろう。目が座りかけている。それにしても、彼とは大体取っている授業が被っているのだけど、課題なんて出ていたかな?
 しばらく考えをめぐらせて、僕は一つの答えに行き当たった。
「ああ、例のやつか」
 僕がぽんと手を打つと、また彼に睨まれた。しょうがないじゃないか、忘れていたんだから。大体、その課題は君の自業自得だろう。自分で登録しておいて、僕が何度か誘ったのに、全然顔を出さないで。まあ、土曜日の授業だったから、気持ちは分からないでもないけど。
それから二ヶ月も過ぎた頃にのこのこと顔を出したら、教授にすっぱりと切られかけて、慌てて謝ったんじゃないか。確か僕も口添えしたぞ?そしたら五十枚のレポートの提出を言われたんだよな。五十枚って・・・卒論より多いんですけど。
 絶対にあのおっさんは復帰させる気なんてないと思うぞ?どうせ来年もあるんだから、おとなしく諦めればいいのに。どうもこいつは変なところで意地っ張りだ。きっと損をする日が来るに違いない・・・って今まさに、損をしているな。

 
窓の外で、激しい光が瞬いた。薄紫色の閃光。稲光というやつだ。ついに雷までやってきたか・・・。やれやれ、こりゃ今日のプロ野球は中止だな。そんなことを考えていると、やや控え目に轟音がとどろいた。
 意外と遠いということか。

「えーと、新生が発表された際に、親友の田山花袋は・・・えーと」
 文章を打ちながら、つい声に出して読んでしまう。末期的な症状だ。それにしても、島崎藤村の「新生」で五十枚か・・・。あの教授はSだな。文庫にして二冊にまたがるような大作を三回生に渡すかね?これで五十枚書いてきなさいって、あなたの復帰は不可能ですって言っているようなものだ。
 彼は随分と真面目にやったようだ。部屋の中にはコピー用紙が散乱している。全部が集めた資料なのだから、その苦労たるやいかばかりのものか・・・だ。適当に一枚とって目を通してみる。論文のコピーだった。
「あれ?」
 突然、バサバサとコピー用紙を荒らし始めた彼。どうやら、書くべき引用文の載っている論文を探しているのだろう。
「おっかしいな、コピーしてきたはずなんだけど」
 ぶつぶつと呟きながら、紙切れをひっくり返している。段々ヒステリックになってきたな。そう思いながら、僕は自分が手に取った論文に目を通してみた。・・・おや、彼が探しているのはこれじゃないか。
「おい、これ」
 僕はその論文を彼のほうに差し出した。その論文を手に取り、食い入るように見てから、改めて僕を睨みつける彼。なんだよ、渡してやったんじゃないか。
「頼むから、邪魔しないでくれ」
 さっきまで言外だった分が、少しだけ言葉のほうに入ってきた。普段と違って相当テンパッているようだ。おとなしくしておこう。

 窓の外で、また稲光が瞬いた。ふと思いついて、心の中で数を数えてみる。轟音が、さっきよりは少し大きめに聞こえた。きっかり七秒。結構近づいてきている。雨がまた強くなってきたようだ。

「どうでもいいけど、蒸すなぁ」
 分かりきったことを声に出してみる。六月で、湿度が高くて、おまけにこの部屋には冷房がないと来ているから、蒸すのは当たり前。ついでに言えば、狭い部屋に男が二人いるのだから、普段彼が暮らしてるよりも蒸し暑いはずだ。
 そんなことが気にならないのか、気にしている余裕がないのか、彼はそういった仕草の一つも見せず、延々とキーボードを叩き続けている。大したものだ。
「アイス食べていい?」
 狭い部屋の片隅に気持ち程度に取り付けられたキッチンのほうを見やりながら、僕は彼に尋ねた。
「・・・・・・勝手に食え」
 流石は親友。僕はいそいそと立ち上がり、狭いキッチンの片隅で存在感を放つ冷蔵庫に近づいた。一人暮らしようの小さな冷蔵庫なのだが、狭いキッチンでは充分大きく見える。冷凍庫の扉に手をかけて、開いてみる。・・・おや、アイスの姿が見当たらないが?入っているのは、刻み葱や豚肉、魚の干物。どれもこれも簡単には食えそうにない。
「おーい、アイス入ってないよ」
「知ってる」
 彼はそう言って、少し楽しそうに笑った。こっちはちっとも楽しくない。テンパり過ぎて、性格が捻れてきたようだ。いかんなぁ・・・。少しお灸でも据えてやるか。
 
僕はそっと彼の後ろに近づき、手をすばやく伸ばした。キーボードの一番端っこの文字を力の限り連打してやる。
「わあああっ」
 慌てた彼の声。僕の手をつかんだ彼は、振り向き様に僕を思い切り突き飛ばした。
「何しすんだよ!!」
 彼の怒声が飛んできた。
「うるせぇ、下らん嘘つきやがって!!」
 僕も負けじと怒鳴りつけてやった。
「邪魔するなって言っただろ!!」
「だったら、しょうもない嘘をつくな!!」
 にらみ合う僕と彼。先に目をそらしたのは彼だった。
「帰れよっ!!」
 背中越しに彼は一言そういい、再びキーボードを叩き始めた。ああ、帰るとも。全く、なんて不愉快な男だ。
「まあ、せいぜい立派なレポートを書きやがれ。どうせやっつけの切り貼りになるんだろうけどな」
 僕の言葉に、彼の肩がピクリと震えた。図星らしいな。まあ、仕方ないのだけど。期間も短いし、予備知識も圧倒的に少ないから、どうしたって大したものになるはずも無い。それを承知で、あえて言葉にしてやった。
 彼は座ったままの姿勢で、こちらを振り返り、怒鳴ってきた。
「黙れ、この薄情者が。俺がこんな目に遭っている四分の一ぐらいはお前のせいだ」
 はぁっ!?何を言い出すかと思えば、パンチの効いたジョークだことで。
「お前が出席を取ってることを言ってくれりゃ、俺だって真面目に出てたね」
 な・・・なんというお門違い・・・。僕は何回か誘ったぞ。多分二回ぐらいは。それなのにそんなことを言うか・・・。

 稲光が瞬き、殆ど間をおかずに轟音が耳を劈いた。

「死んじまえ!!」
「呪われろ!!」
 お互いに呪詛をはきかけ合い、不愉快な気分のままで僕は玄関を出た。
 全くもって、許しがたい。落とされかけたことを僕のせいにするとは・・・。
 いやいや、眠気もピークで、相当参っていたのだろう。普段の彼なら、絶対にそんなことは言わない。本来はもっとさっぱりとした男らしいやつなのだ。
 ああ、このままでは彼が嫌なやつになってしまう。早くもとの彼に戻って欲しい。
僕はふと、上を見上げた。ドアの上に設置された禁断の箱。
ふむ、今の彼には休養が必要だ。それも否応無しに。
四度目の稲光が箱を照らし出す。そして響き渡る轟音。落雷したとしてもおかしくない間合いだった。
今しかない。
僕は禁断の箱の中にあるスイッチに手をかけ・・・。

ばちんっ!!

「わあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
 部屋の中から聞こえる彼の絶叫。それから何かがひっくり返るような音。
「グッド・ナイト親友」
 昼だけどな。僕はブレーカーを入れなおし、配電盤の蓋を閉めて悠然とその場から立ち去った。

 それから僕は一ヶ月ほど隠遁した。梅雨も過ぎ去った頃、久しぶりに会った彼はすっかり吹っ切れていた。授業は来年もあるということに気付いてくれたようだ。いつもの爽やかな彼に戻っていた。
「あの時、雷でブレーカーが落ちてくれてよかったよ」
 彼がそういったので、僕は自らの罪を告白し、彼に心からの謝罪を申し出た。彼は笑顔でその言葉を最後まで聞いてくれた。
 それから、その爽やかな笑顔のままで、大学中を追い掛け回され、しこたまに殴られたことは言うまでもないだろう。
「でも、僕達は親友だよな」
「うるせぇ、死ね、呪われろ!!」

                  おしまい
 というわけで、とってもギスギスとした小説でした。

僕がこんなことされたら、した奴を殴るぐらいじゃ気がすまないけどな。

まあ、三回生までは遊んで何ぼでした。
大事なのは四回生。
そこで辻褄を合わせればよし。

感想、ご意見、批評、どんと来い。

ログインすると、みんなのコメントがもっと見れるよ

mixiユーザー
ログインしてコメントしよう!

小説を書いてみよう! 更新情報

小説を書いてみよう!のメンバーはこんなコミュニティにも参加しています

星印の数は、共通して参加しているメンバーが多いほど増えます。

人気コミュニティランキング