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ものがたろうコミュのセロファンテープ・カーニヴァル

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Jに初めて会った場所はコリアンタウンにあるJAZZBARだった。そして彼はひどく泥酔していた。決して誇張でもなく、それはひどい有様だった。

最初のうちはかかっている音楽について一言、二言話していただけだったがそのうちに彼はメソメソと泣きはじめた。

ただいくらひどく酔っ払っているとはいえ、年の頃は20半ばくらいであろうその端正な顔と彼の身なりは相当立派なものだったし、その口調はエレガントさを決して失ってはいなかった。


「相当飲んでいるね。タクシーを呼ぶから待っていなよ。」

『…すまない。…このお礼はきっとするから連絡先を教えてくれないか?』

「そんなものはいらない。ただまた一緒にJAZZを聴きながら一緒に飲めればそれでいいさ。」

とふらつく彼を車に押しこんで別れた。

それがJとの最初の出会いだった。


二回目に彼とそのBARで会った時はしゃんとしていた。そしてその印象はどこをとっても申し分のない若き成功者といった感じでまわりの者全てを惹きつけるような魅力をたたえていた。

そして、約束通りにお互いにJAZZを聴きながら時折、思い出したように会話をしながらよく冷えたジンを飲んだ。

そのような感じで僕たちは何回か会った。それはまるで無口なデートみたいに。

ある日彼からホームパーティーに誘われた。

『もしよければ、君も来てくれないか?とりたてて何もないがとびきりのドリンクと音楽は保証するよ。』

「僕はパーティーは苦手だ。悪いけどもう学生の頃に一生分のパーティーは参加したから遠慮するよ。誘ってくれてありがとう。」

『そんな事言わずに、ぜひ来てくれ。君が来てくれると僕も落ち着く事ができる。』

「そんな事を言うならパーティーなんてやらなきゃいいのに。」

Jは笑いながら言った。

『まったくだ。』

Jの笑い方があまりにも屈託がなかったのでついには了解してしまった。彼にかかれば相手の心の鍵を開くのはなんでもない事のように思えた。



パーティーの当日、彼の家に着いて正直驚きを隠せなかった。彼の父がアトリエ用にと買い取ったというその家は僕が今までに見たことがないくらいにモダンで洗練されたものだったから。

「J、君のスーツもかっこいいけどこの家もすごいね。」

『服なんてバーニーズニューヨークのウインドウにある服をそのまま着れば誰だってこうなる。家だって親父が買ったんだ。自分がすごいわけじゃない。』

「腹をたてたらすまない。ただ驚いただけさ。」

パーティーが行われている部屋に入って更に面食らった。ブースで音楽をかけているDJは僕の昔馴染みで今ではミックスのシリーズも出せば売れる、巷ではそこそこ人気な奴だった。決して単なるプライヴェートパーティーで呼べるような奴じゃない。

それにカウンターには目が回るくらいの酒とフロアには名前は知らないが顔は知っているというようなモデルの女の子が何人もいた。

『悪いけど少し外すよ。また後で来るから楽しんでてくれ。』

Jが僕のそばを離れると、一人カウンターで飲みながら時間を過ごした。そして、セットの合間に昔馴染みのDJに話かけにいった。

「相変わらずSALSOULが好きなんだな。」

『!!どうしてオマエがここにいる!…まあ久しぶりだな。少し飲もうか。』




昔話と少しの近況を話していた。お互いにボチボチってところだ。そしてまた次のセットが始まる間際にこんな事を言われた。

『オマエがどう思ってるか知らないが、オマエの事は嫌いじゃないから言っておく。今夜、フタの開いている飲み物は一切飲むな。』

「そりゃどうも。こんなパーティーにきてハイネケンしか飲むなっていうのか?」

『まあそうだ。ただオレは…。』

そこでJが帰ってきた。

『……次のセットで昔オレたちが好きだった曲を入れるから、じゃあな。』

と言ってアイツはブースに戻っていった。ただの笑えないジョークのつもりかと僕は思っていた。

『知り合いだったのか?』

「ああ、昔のね。」

それからはJと一緒に飲みながら、そこらにいる可愛い女の子たちを横目に見ながら楽しんでいた。

『ところで、だいぶいいモノが手に入ったんだ。めったに飲めるもんじゃあない。………って言うんだけどよかったら一緒にやらないか?』

音楽のせいと酒のせいでJの声はよく聞き取れなかった。でもJが注いでくれたグラスはとても美味しそうに思えた。

「ああ。いただくよ。」

グラスに注がれた透明で少し不思議な匂いのする液体を二人でグイと飲んだ。



そして世界が一変した。

足で踏んでいる絨毯の繊維の一本、一本が頭で理解できた。グラスの氷の分子までが手に取るように分かった。

そしてよく知っているハズの曲がなんなのかなかなか分からなかった。

……DJブースから悲しそうに僕を見ている視線に気づいた。…そう…だ…この曲「スプリング レイン」だ…。

でも、もうどうでもよかった。カクテルライトの光の一粒、一粒が目に刺さった。

感覚はスロウに、そして鋭敏に。思考はグルグルと回って停止した。最後に覚えているJの顔は弛緩しきっていた。そこにエレガントさは一ミリも無かった。



そしてカラーセロファンに巻かれたみたいに、視界はぼやけた。まるでセロファンテープのカーニヴァルみたいに。

コメント(11)

おぉ、ユーレイさんが!

お題への参加ありがとうございます!
作った俺が言うのもおかしな話ですが、厄介なお題だったでしょう?
それをこんなスタイリッシュに纏めるとは…

ユーレイ…恐ろしい子…ッ!


結構なボリュームがあるのに、それを感じさせないスマートな文章。憧れますねー

それを構築するうえで重要なセリフ回しは、洋画を観ているようでした。

特にDJが警告している時にJが来た時の言葉の切り方と話の逸らし方は、動きまで見えてくるようでした。


ユーレイさん、これからも何か思い付いたらよろしくお願いします。




ドラッグ乱用はダメ、ゼッタイ!
いえいえ、なんとなーく書いてみただけなのであまり深い事は考えてませんでした。でもほめられたらうれしいです!

ドラッグは乱用しなくてもダメだと思いますW
素敵ですねぇ。
このお題でミイラ人間ならぬ、セロテープ人間しか思いつかなかった私は逆にゾッとしました。こんな世界があるのだと。
大人のシックなお店を外から盗み見る事しかできない学生時代を思い出しました。憧れます。
思わず作者に作品の雰囲気を重ねてしまいますが、お許しを。
〉おかんのもとさん

なんとなくありそうな、なさそうな、なさそうな、ありそうな感じな話を書いてみたかったんです。

感想いただくと嬉しいものですね。ありがとうございます!
うーん!カッコイイなぁ☆
グングン引き込まれて読んでしまいました。

主人公が飲み物に手を出すかどうか
ハラハラしながら読んでいて、ついには飲んでしまう!

星新一さんの「ボッコちゃん」を読んだ時と
同じドキドキを味わいましたよ。

それにしてもユーレイ部員さん
コミュでそのお名前を拝見すると、面白いですねぇ(≧m≦ )
〉pawさん

ショートショートといえば星新一ですよね。倫理観とかフラットな目線からあぶりだされるユーモアがクールで好きです!

僕はこの話とはなんの接点もない日常を過ごしてるし、フィクションの中では倫理観とか気にしなかったので(露悪的になる気は全くないけど)、ひょっとしたら気分を悪くされる方もいるかもと心配だったので感想いただけて嬉しかったです。ありがとうございました!
〉ヨコヲさん

ショートストーリーやSFで有名な日本の作家です。
純文学系の作家に比べると評価が軽んじられてる気がするけど、そんな事は全然問題にならないくらいに面白いです!
NHKで「星新一ショートショート」という番組が放送されてました。
今もやっているかどうか分からないけど、YouTubeで多く出ています。

                星新一ショートショートより「ボッコちゃん」
私もあの番組好きです!ほんと尊敬です。
ひいぃ俺の無知っぷりがこんなにもひどいとは!orz


仕事終わったらYOUTUBE見てみます…

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