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五つ星の本のみを紹介しあう会コミュの『流れる星は生きている』藤原てい

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この本を知ったのはもう何年前になるだろう、斎藤孝氏の『理想の国語教科書』の中で紹介されているのを読んでだった。
是非読んでみたいと思いながらも、先に手に取ったのはその息子であり数学者藤原正彦氏の『国家の品格』『祖国とは日本語』で、これがまた実に面白く興味深く、その時もその母の作品も読んでみたいと思いながらそのままになっていたのでした。
先日たまたま図書館で目にしてようやく手に取ったのでしたが、時間つぶしに読み始めたのに3時間、どうしてもめくる手を止めることができないままに、ふるえながら読み終えたのでした。



『流れる星は生きている』は、著者が終戦間際の混乱の北朝鮮で夫と離れ離れになり終戦を迎え、五歳の長男、三歳の次男(正彦)、生まれたばかりの長女の三人の幼子を抱え、北緯38度線を越えて祖国日本へ戻るまでの記録である。

自分の産んだ子は何物にも代えがたいほどに愛おしい。

これは、そんな母性愛などという陳腐な言葉でくくれるほど生易しい行程ではない。
何が起こるか分からない外地から敗戦国民として、女手一つで三人の幼子を抱えた逃避行の恐ろしさ、心細さだけでもいかばかりであったか。加えて、飢えの苦しみ、同国人同士の疑心暗鬼の苦しさ、そして、朝鮮半島を縦断する過酷な道行の苦しさ。
しかし、それでもなお生き続けようとする幼子を何とか生かそうとする、幼子の飢えを、その身体を心を襲う痛みを、我がものと感じる母親としての苦しみはいかばかりであったか。

@@@@
(本文より)
私はまず咲子を背負ったまま渡って向こう岸に下ろすと、すぐに引き返して正彦を抱いて川に入った。私の疲れ切った腕にはそう長くは正彦をささえられない。何度か水の中に正彦をつけた。水の中に入れると正彦はずっと軽かった。正彦は水の中を引きずっていかれる恐怖のために
「ひいっ!ひいっ!」
 と泣いて私にしがみつこうともがいた。
「泣くと川の中へ捨てちゃうぞ!」
 私は正彦の体を後ろからはがいじめにしてやっと難所を渡った。後ろにはまだ正広がいる。私は正広を渡すだけの力がない。私は自分の体を投げ出すように河原にひっくり返って憎らしいほど澄んでいる空に向かって激しく息をしていた。
「お母ちゃん!」
 と正広の呼ぶ声が聞こえる。私は咲子の背負い紐をとって再び川に入った。私は正広を背負って水に入った。川の水は私の足をなさけなくもゆすぶる。水流の速さの中に到底重い正広を背負って立って進むことはできそうもない。私が一歩を誤れば母子二人溺れるに決まっている。このようにしてこの川の水が幾人かの人を呑んだに違いない。凄いほど青い水は底まですいて見えている。向こう岸を見ると正彦が立ち上がってこちらに手を差し出している。咲子はと見ると私の姿に向かって河原を這って来ようとしている。私はついに川を乗り切った。途中で飲んだ水が妙に渋くて胃の中にいつまでもたまっていた。
 川で濡れても陽で乾くのは早い。乾いた頃にはまた次の川が前に横たわっていた。いくつ川を越えたか覚えていない。大きい川、小さい川、深い川、浅い川。はじめは人の後ろを見て渡ったが、みんなから遅れると、渡る前にまず流れの速さと深さを測らねばならなかった。やっとしっかりした棒を探し出すとこれだけが命と頼んで川に挑戦した。
@@@@

著者は自分が生きたいとは思ってはいなかっただろう。
泥と血と汚物にまみれながらもその背と両脇に幼子をかき抱き、ただただ我が子を生かそうとするその壮絶なまでの力は一体何だったのか。
この作品を読みながら何度も思った。
はたしてその時私に、そこまで生に執着する強さが持てるだろうか。
死に瀕する我が子を前にして、最後まで生き通す強さを持つことができるだろうか。
この驚愕は、一読者としていくら書いても書きつくせるものではない。
戦争の本質を伝える生の記録として、後世まで読み継がれなければならないものだ。

そんな過酷な道行が生々しく語られる一方、随所でその文体はどこまでも繊細に情緒に富んで美しい。それがこの作品を単なる引き揚げの記録でなく、さらに一流の文学作品へとその価値を高めているように思える。



夏になると必ず放送される終戦特集の予告が流れると、母はいつでも「私こういうの暗い気持ちになるから見たくない」と言った。
どちらかというと自分からわざわざ図書館で戦争関係の本を選んで読んでいた子供の私は、そんな母を社会的意識の薄い刹那的な人だと思っていたのだったけれど、今、人の子の親となった私はあまりに苦しくて戦争の、特に子供たちが苦しんでいる様を見ることが耐えられない。
恐怖に表情をなくす子供の顔が自分の子供のそれと重なる。
ボロをまとい泥にまみれてジャングルから這い出す子供の姿が、自分の子供のそれと重なる。

それでも、だからこそ、やはり私たちは戦争の愚かさから目をそらしてはいけないのだ。
大切な子供たちにそんな苦しみを味わわせることの決してないように、その残酷さから目をそらさず、命の尊さを子供に教え、平和を担う子供を心血を注いで育てなければならないのだ。

我が子が、そして世界中の無垢な子供たちが、その生を幸せに全うできることを、心から祈る。




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