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MmRコミュのMmR-41. Ru

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コミュ内全体

「痛っ……!」
「じっとして」
 爆発の余韻を引きずり、まだどこかしびれたような耳に、静かな声が突き刺さる。歯を食いしばって悲鳴を押し殺し、るうは続く痛みに身を強張らせた。
 おりの指が皮膚に埋め込まれた破片を注意深くつまみ、静かに引き抜く。灼けた鉄片と傷ついた肉がからみ、肉のよじれる痛みに押し殺した呻きがもれる。
 武道家のはしくれとして体は鍛えてあるし、痛いのは慣れっこだ。それでもなお、身の内側から傷を押し広げるようなこの痛みは耐え難く、るうは涙目になりながらおりの作業を見守った。
 さっきと同じような小部屋の一つに、四人は身を寄せていた。二つのドアがあり、どちらかから敵が来てもどちらかから逃げ出すことができる。もしそういうシチュエーションになれば、自分はきっと足手まといになるだろう。とりとめもなく、そんなことを考える。
「キフルン、お水」
「は……はいっ」
 おりの指示に従い、樹古がペットボトルの水を傷口にふりかけた。生ぬるい水が血を洗い流し、火傷と裂傷に傷ついた肌に心地良くしみ込んでいく。
「るうさん、痛くないですか? 大丈夫ですか?」
「大丈夫……ですよー。私は、プロレスラーですからっ」
 痛みをこらえて無理に笑みを作ると、樹古の顔がくしゃりと泣きそうにゆがんだ。
「ごめんなさい、私の……私の、せいで……」
「いいんですよ。泣かないでください……ね?」
 間近で爆風を浴びたせいで、左目が見えなかった。それが一時的なものではないことを、半ば本能的に理解していた。
 飛び散った手榴弾の、比較的大きな破片が左足の動脈を切断していた。服を破った布で太腿をきつく縛り止血を施してはいるが、既に足先の感覚はない。焼けただれ、破片でズタズタになった脚は、自分でも正視できる状態ではない。
 樹古を庇った時にできた傷だ。撃発寸前の手榴弾を前に棒立ちになった彼女を、咄嗟に床に引き倒した時の。飛び出すタイミングが一瞬遅れたせいでまともに爆風を浴び、これだけの傷を負ってしまった。
 しかしそれでも、後悔はなかった。傷は重く痛みは深いが、樹古の命に比べればこのくらい何てことはない。
 まともに歩いたり、もうプロレスができないことは、まともに歩いたり、プロレスをすることができる世界に帰った時に考えればいい。
 今はただ、自分の鍛え抜いた肉体が彼女を救った――それだけで充分だ。
 だから、
「泣かないで……ね? 私は、平気ですから」
「ぅ……ぅぅ……っ」
 そっと手を伸ばし、樹古の髪に触れる。るうの胸に頭を寄せ、樹古はたまらずに泣きじゃくった。
 目の前で失われた、二人の命。自分を庇って傷ついたるう。絶望的な状況の中、生まれては水泡のように消えていく希望。
 まだ年若い彼女にとって、のしかかるストレスは相当なものだろう。気丈に振る舞ってはいるが、一つずつ積み重なっていく傷は重く、深く、心を抉っていく。それでも弱音ひとつ吐かず、自分にできることを探し、かいがいしく手当を続けてくれる樹古に、るうは素直に好感を抱いていた。
 だからこそ、守ってやりたい。生き延びさせてあげたい。
 できることなら、その綺麗な手を汚すことなく……。
「水がもうないな……どこからか調達した方が」
 難しい顔で腕を組み、すろぷろが立ち上がった。
 確かに全員、水や食料はもう残り少なくなっていた。特に水の消費は激しい。即席の包帯を傷口に巻きつつ、おりも頷く。
「確かにね。このままじゃ手当の分だけで手一杯。飲み水が全然足りないわ」
「ごめんなさい、私のせいで……」
「いいの。るうさんは今は体力を温存して、傷が塞がるのを待たなきゃ」
「……私、行きます」
 手の甲で涙をぬぐい、樹古が立ち上がった。上に向けられた顔には、既にさっきまでの気弱な面影はない。涙に濡れる瞳の奥には、静かに強く意志の光が灯っている。
「じゃ、私と樹っつぁんで水を探してくるとしますか。おりさんはるうさんに付いててもらえる?」
「そうだね、できれば薬も欲しいかな。これだけの広さだから、部屋中くまなく探せば何か残っているかも」
「薬ねぇ……あまり期待はできねーけど。探してみますよ」
「お願い。気を付けて」
 樹古を促し、すろぷろは一方のドアから部屋を出た。用心深く通路に視線を飛ばし、足音を忍ばせる彼の背を、同じく静かに樹古が追う。
 樹古を足手まとい扱いしないすろぷろと、しっかりとそれに応えようとする樹古。年齢もタイプも全然違う二人だが、言葉のいらないその信頼関係が頼もしい。
 だから、自分もしっかりしなきゃ。傷を癒して、せめて普通に歩けるくらいには。
「薬なんて……あるのかな……?」
 少し気が落ち着いたせいか、体中の傷が痛みを主張し始めた。感覚のない左足から、体の芯に響くような熱い疼きがこみ上げる。他にも脇腹、胸、腕、肩と、火傷や裂傷は無数にある。痛み止めの一本でもあれば楽になるのだが。
「あまりしゃべらないで。傷にさわるよ」
 たしなめつつ、おりは話し相手になってくれるようだった。濡らした布をるうの額にのせ、傍らに腰を下ろす。
「正直、期待はできない……かな。建物もこれだけ古いし、『プログラム』側がそんなものを残してくれているとも思えないし」
「そう……ですね」
 気が抜けたせいか、ひりつく痛みとは裏腹に眠気が襲ってきた。ぼんやりと視線を漂わせながら、るうは言葉を返す。
「水だけでもあれば、いいんです――けど。和つぁいのせいで、いっぱい、使っちゃ歌から――」
 意識が散漫になってくる。まぶたが重い。痛みは意識の隅で鈍い疼きになり、るうは心地よいまどろみに身を任せる。
「そうね。水だったら誰か、死んじゃった人の荷物から取ってくることもできるから――あまり、気は進まないけどね」
「にもつ――ひよたまさんとか……?」
「ひよさんは、ないわ」
 おりがくすりと笑った。
「あの人、死ぬ前にパンも、水も、全部食べちゃってたのよ。こんな所まで来て、相変わらず食いしん坊なんだから」
 そうなんだ。おかしさに笑みがこぼれる。ひよたまさんらしいや、いつ誰に襲われるのかも知れない状況で、呑気にご飯を食べていられるなんて――
「――何で?」
「え?」
「何でおりさんが、ひよたまさんの荷物の中身を知ってるんですか?」

 意識がクリアになった。数時間前の光景が脳裏をよぎる。
 ひよたまの前で呆然とたたずむ自分。背後から現れたおり。
 検死官のように死体を検分するおり。素直に感心する自分。
 シーツや布でひよたまを包み、部屋を後にする二人。ひよたまの荷物には手を触れていない。
 それなのになぜ、おりはひよたまの荷物の中身を知っている?
「そ……それは……」
「そう言えばあの時、おりさん、変でした。私がひよたまさんの前にいたのに、私のこと、少しも歌がワニで……素手で人を絞め殺すなんて、誰にでもできる事じゃないのに――」
 そうなのだ。
 どれだけ腕力があっても、不意を突いたとしても、素手で人間を絞め殺すことは容易ではない。相応の体術を持った殺し屋が近くにいるともっと疑ってかかるべきだったし、自分も疑われなければおかしいのだ。
 それなのに、あの時、彼女は――
「や……やだな、るうさん。私のこと、疑ってるの?」
 苦笑しながら肩をすくめ、おりが立ち上がった。逆光で表情は見えない。そのまま自然な動作で前に一歩、るうに向かって歩み寄る。
 刹那、
「――――っ!」
 動きは、見えなかった。
 半ば本能的に体が動き、横に転がったるうの耳をかすめ、振り下ろされたおりのヌンチャクが石床を打ち砕いた。

         【残り9人】

コメント(7)

http://mixi.jp/view_bbs.pl?id=16170110&comm_id=123402
矛盾はない…はず(´ー`)y−~~
おりさんが?(´Д`;)なんてこった
モウダレモシンジラレナイヨ
こっちでもおりさんの武器はヌンチャクなんだw
るうさん逃げてー!
な、なんという展開!


ただリンク先も10/21なのが気になるのだがw
本当だ、何たる偶然w
<!一年かけてこれしか進まないのかよって話ですね>
<!猛省するですよ>

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