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MmRコミュのMmR-34.Rin

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「べ。が死んだか……」
 呻きのような声が、シアンの口からもれた。ベローナの死そのものより、彼の声ににじむ色濃い死の匂いに、りんははっとして顔を上げる。
 薄暗い照明のその陰影のせいもあるのだろうが、彼の顔色は先ほどよりも格段に悪くなっているように見えた。
 脇腹の傷にはありあわせの布で包帯が巻かれ、出血は止まっている。ただし傷は深く、激しい運動をすればすぐにまた開いてしまうだろう。この体では戦闘はおろか、ただ走り、敵から逃げることすら心許ない。
 薬もなく、食料も最低限しか支給されてはいない。人気のない小部屋に身を隠して安静にしているだけで精一杯だ。しかし断続的に届く誰かの死の報せに精神はひとときも休まることなく、ただ疲労と消耗が蓄積して――そんな時間が、静かに流れていく。
 ふと顔を巡らすと、マリスも心配そうな面持ちでシアンを見ていた。化粧気のない顔に、憔悴と不安がにじんでいる。きっと自分も同じ表情をしているのだろうと思って、りんは顔を伏せた。
 視線を落とすと、力なく膝に乗せられた左手の薬指に目が落ちた。心身の疲労に比例するように、指輪の輝きも心なしか色あせて見える。
 恋人との結婚指輪。間近に迫っていたはずの幸せの、今ではもう遠くなってしまったその幸せの、ただ一つの証。
 ぎゅっと手を組み合わせ、りんはその証に触れた。それだけで少し心が落ち着く。どんな武器よりも、誰といるよりも、この小さなプラチナのリングが、ちっぽけな心に力を奮い立たせてくれる。
 しかしそれでも、停滞する絶望の気配を吹き飛ばすには至らなかった。
 次々に死んでいく友人たちが、刻々と進んでいく状況が、無力な自分をあざ笑うかのように絶望を積み上げていく。抗おうにも状況はあまりにも過酷で、自分はあくまでも無力で、気ばかり奮い立たせてみても、打破するための足がかりひとつ手にすることができない。
 ベローナの顔が浮かぶ。ひよたまの顔が浮かぶ。いなくなってしまった友人たちの顔が浮かぶ。楽しくおしゃべりをしたり、一緒に食事をしたり。記憶に残る楽しそうな彼等の顔は、しかしもう二度と目にすることはできない――
 重苦しい沈黙に、シアンの呻き声が響いた。傷が痛むのだろう。マリスが心配そうに立ち上がり、包帯を替えましょうかと声をかける。黙って首を振るシアン。
 色濃い死相が、見慣れたその顔に浮かんでいるように見えた。強靱な意志の力で押さえ込んではいるが、さすがのシアンとは言えにじみ出る疲労と消耗は隠しようがない。脇腹に巻かれたありあわせの包帯は赤黒い血でべったりと染まり、業物らしい刀はもう、杖として体を支えるしか役に立たないだろう。
 シアンの拒絶にも構わず、マリスは自分の服を裂き、かいがいしく彼の介抱を始めた。黙って目をつむる彼の腹から血染めの包帯を外し、新しい包帯を巻き付ける。
 年下ながらしっかりした少女だった。青ざめた頬にぎゅっと唇を結び、ぎこちない手つきながらひたむきに介抱を続ける。シアンは体の力を抜いて目をつぶり、ほんの一瞬だけ、弛緩した空気が流れる――
 ふと、床に置かれた器械――マリスの持っていたレーダーに目が留まった。
 最初にこの二人に出会えた時は、安堵のあまり涙がこぼれたものだった。
 シアンといえばちゆ板でも有数の剣客で、彼が自衛のために剣を振るってくれる限りは自分に危害が及ぶことはないだろうと思えた。それにこのレーダーがあれば、事前に危険を察知して回避することができる。この『ゲーム』がいつまで続くのかは分からないが、逃げ回ってさえいれば、きっとどこかに状況を打開するチャンスはある。そう思っていた。
 しかし、現状はそう甘くはなかった。
 シアンが身動きの取れない今の状態では、危険を避けて逃げ回ることすら難しい。自分にグロックが支給されていたのが唯一の救いだが、今まで銃に触れたこともない自分が、満足にこの武器を扱えるとは思えない。きっとマリスもそうだろう。
 握り拳を口にあて、りんは指輪に唇を触れた。やはり、心の支えになるのはこの指輪だけだ。生きて帰って、彼に会いたい。殺し合いなんてしたくない。何とか逃げ延びて、彼に会いたい――
 指輪が、囁いたような気がした。
 心によぎったその考えに、りんはびくりと身を震わせた。何を考えているんだ、自分は。まさかそんなこと、できるわけが――
 いや、しかし。ああでも、こうなったら今はもう、こうするしか――
 自分でも何をしているのか分からなかった。気付いた時には彼女は腕を伸ばしてレーダーを拾い上げていた。はっとして振り向くシアンとマリス。機械的にグロックを構え、二人に突きつけていた。口を開くと、錆びた鉄のように軋んだ声がもれた。
「動かないで」

「……動かないで」
 軽く咳払いをすると、少しましな声が出た。その声が――普段と同じその声が頭を冷やし、存外に冷静な自分自身を自覚させる。
 その事実に、底冷えのする震えが背筋を滑り下りた。ああ、どうしちゃったんだろう、私は――紛れもなく自分の意志で今、私はこうして二人を裏切ろうとしている――
 しかし、もう後戻りはできなかった。しっかりとレーダーを握りしめ、グロックで二人を牽制し、りんはそろそろと背後のドアに歩を進める。
 これで何とか、逃げ回ることはできる。走るのはそれなりに速い方だ。このレーダーさえあれば危険を避け、物陰に身を隠し、とりあえずは生き延びられるだろう。そして生存者が自分と他の誰か一人になった時には、この銃で――
 そうして生き延びるんだ。生きて帰るんだ。
 彼の待つ世界に。
「りんさん……? まさか、嘘だろう……?」
 血を吐くように苦しげに、シアンの喉から声がもれた。萎えそうになる意志を奮い立たせ、可能な限り冷静に、冷徹に、彼に銃を向ける。
「ごめんなさい」
「そんな……どうして? 怪我人のシアンさんを置いて行っちゃうんですか?」
「ごめんなさい」
「みんなで助け合って脱出しようって、言ったじゃないですか……っ!」
「ごめんなさい」
 唇を噛むシアンの表情が、怒気を含んだマリスの言葉が、ナイフのように胸をえぐる。気持ちが萎え、グロックが手の中でずしりと重みを増し、支えきれなくなった銃口が上下にぶれる。
 鋭く尖ったマリスの視線に、強張ったその顔に、どっと冷や汗が吹き出した。だめだ。今、隙を見せてはいけない。隙を見せればこの子は、きっと――
 刹那。
 揺れる銃口にりんの動揺を見て取ったのか、猫のように俊敏に、マリスが飛び出した。
「来ないで――っ!」
 反射的に銃を突きつけ、絶叫を上げる。ひりつくような焦燥が脳裏を焦がし、引き金にかけられた指に力がこもり――
 咄嗟に飛び出したシアンが横からマリスを突き飛ばし、
 轟いた銃声が、石壁に赤い血の華を散らした。

「ぅ……っ」
 胸元を押さえ、シアンはその場に膝をついた。ぽつんと開いた小さな穴からみるみる赤い染みが広がり、服を死の色に染めていく。咳とともに口から血を吐くシアンに駆け寄り、マリスがくずおれるその身を支える。
「シアンさんっ!? シアンさん! しっかり――しっかりして下さい――!」
 泣きそうな声で叫ぶマリス。呆然と自分の胸を見つめるシアン。まるで悪夢を見るような心持ちで、りんはその光景を眺める。
「あ……ああ――」
 大切な何かが、心の中でふつりと切れた。酔っぱらったような動きでよろよろと後ずさり、くるりと背を向け、りんは駆けだした。
 まるで力が入らず、足がもつれた。ふらつき、よろめき、壁や柱に体をぶつけながら、それでも握りしめたグロックとレーダーは決して放さず、ふらふらと走り続ける。
「シアンさんっ! シアンさん……っ! シア――ぃや……いやぁぁ――ッ!」
 背後に響くマリスの叫びが、鎖のように全身に絡みつく。機械的に足を動かし、重く冷たいその鎖を引きずり、ただひたすらに前へ進む。
 殺人の実感も、良心の呵責も、別離の悲しみも、全てがマヒしたようになって、何も感じることができなかった。
 ただその場から離れたくて、逃げ出したくて、りんは走り続けた。

          【残り12人】

コメント(7)

えーん(つ▽・)シアンさん死んじゃった
なんてこったー?(´Д`;)
シアンさんは相変わらず報われないのだったー(ー人ー)

ひとつ。マリッジリングは金かプラチナあたりが主流でシルバーだと微妙に不自然というかチープというか。特に理由がなかったら金かプラチナが無難な気がす。
あ。伏線?
あ、そういうものなの?それは知らなんだ。
単においらの勉強不足です、ええ、ええ。
手の空いた時にでも直しておこうかな。

〈!詳しいですねすろぷろさん〉
〈!もしかして必要に迫られているのでしょうか〉
〈!マダー?(・▽・)〉
シルバーは金・プラチナに比べて圧倒的に安いんですよ。それと変質しやすいから手入れもめどいし金属アレルギーの元になるしで、ずっと着けっぱなしにしているには不向きなのです。
<!常識っつーかうろ覚えっつーか>
<!ないない>
<!マダマダー(・△・)>
シアンさん殺した上にレーダーまでパクったのかよ!
なんて酷い女なんだ私w
シアンさんってカコイイキャラ扱いなのになぜかすぐ死ぬ傾向にあるよね。
自分の服を破って手当てするマリスさんがけなげだ。

すろさん、それ私も思った。「安ッ!!」ってw>結婚指輪にシルバー

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