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2007年09月12日22:01

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あいにくの雨で

しりあがり寿『方舟』再々々々・・・読了。

最近の雨に触発されて、本棚から引っ張り出す。
21世紀に入ってからのしりあがり寿は『死』がテーマの
漫画を頻繁に描いているが、その中でも最大の傑作だと思う
のが今作。

世界の滅亡を描いた作品は小説、漫画、映画・・・無数にあるが、
これほど静かに進行して行く滅びを描いた物はないのでは無いかと。
ただただ、雨が降り止まない。しかもどうも小雨。
故に、滅び行く事に人々は気づかず、日常を送り続ける。

やがて、序々に世界が沈みいく事に皆気づき始めるが、
それでも、この作品に描かれる狂気は静かだ。

この作品の皮肉は『方舟』というタイトルの通り描かれる
船とそれに群がる人々が最も愚かに醜く描写されている事だろう。
決して希望の船ではなく、変わらなかった筈の日常にしがみつく
ために戯画化された儀式や逃避を演じる。

静かな締念を持って、雨音に耳を傾ける人々と水はけの
悪いであろうびしょびしょの甲板で死から目を逸らそう
とする人々を章換わりごとに交互に描くが、対比は
章が進むごとに苛烈になる。やがて雨が上がり、
青空と静かに沈む町並みと人々が美しく溶けるショットで
この物語は終わる。

死や滅びを『溶ける』事で美しく描いたこの作品は
ただただ素晴らしい。

しりあがり寿はデビュー当初から天才と言われる事の
多い作家であったが、どうにも肌に合わず魅力の理解が
し難いと思っていた。その印象を180°変換させてくれた
傑作。

滅びっていうのはこんな風に迎えるのかも。
ブラッドベリの傑作『おれたちは滅びていくのかもしれない』
のように。
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