♪ セクシー

【店長のフローズンカクテルVol.2】

【９月】　
　僕の部屋に 彼女が住みついてから ４ヶ月が経った。
　月が綺麗だと言っては、花の香りがするといっては、
　手をつないで 夜の道を いつまでも歩いた。

　当時、大学に入りたての僕達は
　余分なお金を持ち合わせていなかった。
　……と 言うより　二人の計画性の無さから
　貧乏セレブになっていた。

　彼女の実家からの生活費が２０万とキャッシュカード、
　僕の方も マンション代は親からの直納なので
　純粋な こずかいとして ２０万円。
　彼女は僕の部屋に転がり込んでいるので
　二人合わせると おこずかいは ４０万円。
　ナント４０万円にもなるのだ。

　ところが 二人は いつも金欠状態！
　なぜなら二人は 青くて無謀！
　“やれ ファッションだ”
　“やれ クラブだ ＬＩＶＥだ”
　“海外旅行だ”
　“南だ！北だ！”

　毎日がピンボール！
　４０万なんて １０日も経たないうちに無くなっている。
　親元に送られて行くキャッシュカードの請求書…
　休みがちな授業…
　疎遠になっていく仲間たち…

　僕達は しだいに無口になっていく
　高い空を見上げながら
　別れの予感を 抱き始めている…

【１１月】
　彼女のいなくなった部屋で 彼女の忘れ物 発見！

　ランドマークで買った ティファニーのチェーンと
　神田で見つけた古いレコード
　　下田逸郎のＬＰ『さりげない夜』

　その夜、チェーンと虫の声を ツマミに
　赤いラベルのスコッチを空ける

　オートプレイのレコードプレーヤーから
　何度も“さりげない夜”が流れる

　♪愛の暮らしに　少し疲れた
　　　　あなた と わたし　　セクシー

　　旅に出るなら　夜の飛行機
　　　　つぶやく あなた　 　セクシー


　　子供みたいに 笑うあなたが
　　　　急に 黙って…　　　 セクシー

　　… 夜の 深さに 二人　溶けてゆくのね …　　♪
　　
　　　　　　　　　　　　　　セクシー（下田逸郎）