その日 私は付き合っている彼とバスに乗っていた。
20歳くらいだったかな?
何年前なんだ。 20歳だったら44年前だ。
どこに行ったかは覚えていない。
その頃、ディスコにハマっていたから
一緒に行こうとしていたのかもしれない。
車内の椅子が空いていなくて通路に立っていたような記憶がある。
そして、ある男の人が
何かとても嫌なことを言って、嫌な態度を取ってバスを降りて行った。
何を言ったのかももう全然覚えていない。
けれども すごい嫌な雰囲気になったのだけは覚えている。
ずどーーん と 暗闇に落とされたような嫌な気分。
その時、彼が言った。
「きっと なんか嫌なことがあったんやで。」
そしたら
あれあれ?
今までの嫌な気持ちが すーーっ と
消えていった。
まるで魔法のようだった。
彼は魔法の言葉を知っていた。
その彼はその後まもなく
事故で亡くなった。
残された私は、その悲しみから立ち直るのに
2〜3年かかっただろうか。
もう最近はあまり彼のことも思い出さなくなっていた。
でも
「なんか 嫌な事があったんやで」
という彼の言葉は、
事あるごとに私の胸中に現れて、
いつも私を救ってくれる。
「好きなように生きたらええで。
倒れそうになったら僕が支えたげるから。」
そういえばそんなこと、言ってたっけ。
この世からいなくなっても
ちゃんと後ろにいて、私を守ってくれていたんだね。
もう私はこんな歳になったよ。
今度はこの言葉を他の誰かにあげられたらいいな。
「きっと なんか嫌なことがあったんやで」
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