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2026年08月22日19:17

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武神闘宴 序章 絶対強者 一

序章 絶対強者

一

慶長五年、関ヶ原――怒号と絶叫と銃声、血飛沫と土煙。
そこは様々な悲喜劇が飛び交う惨烈の地獄絵図であった。
西軍・宇喜多秀家の配下、足軽小頭・三宅は、視界の端に、宇喜多の「兒(こ)」の字の軍旗が崩れゆくのを認めた。
――西軍の敗北である。
一体、何人の東軍兵と刃を交えたか。三宅にはもう思い返すこともできない。率いた配下の足軽たちはとうに四散し、三宅自身も左の母指が根元から削ぎ落とされていた。
この敗け戦、生きて逃げ延びることは叶うまい。諦念と覚悟が入り混じる泥濘の中、それでも三宅は駆けた。生への渇望に突き動かされ、辛うじて陽光の遮られた暗い原生林に身体を滑り込ませる。そこには獣道すら無い。転げまどりつつ、覆い繁る樹々を掻い潜る。肺腑の裂けるような痛みと、早鐘を打つ心臓を宥めるべく、一本の樹に背を預ける。
日盛りであるにも関わらず薄暗く、冷えた空気はあえぐ呼吸に心地よさがある。周囲にいくつかの気配を感じる。おそらくは同胞、西軍の敗走兵であろう。左手の傷口にぼろ布を巻き付ける。忘れていた痛みに、奥歯を噛みしめる。
――こんなにも早く。
――水が欲しい。
――逃れるならば、南か。万が一、落武者狩りを逃れたとして、その先に何がある。己のようにしがない者でも、四人の部下を預かる足軽小頭。武士の端くれに据えられているのは、宇喜多家の慢性的な人材不足ゆえ。
――敗け戦とは言え、戦場を抜けた責。武士ならここで腹を切るべきか。
水谷、柏原、古宇田、多田、先刻まで生死を共にした部下たちの顔が浮かぶ。思考が止めどなく駆け巡り、散乱する。
ふいに背中の奥に、凍てつく冷たい物を感じた。日陰の空気とは別の、吐き気を催す怖気。音が無い。樹々の隙間、暗がりの中から刺すような猛獣の視線と眼が合った。熊か。いや話に聞く大陸の獣、虎とは、あのような姿を――。
とさり 三宅の首が湿った苔の上に落ちた。反転した視界、三宅が今際に見たもの。それは飢えた虎の眼光であった。

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