<緊迫する中東情勢(11)>
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関連日記 2023年10月21日付 イエメン内戦 サウジアラビアとイランの断交について ��
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目次
・第1章 ついに米軍が、イラン攻撃に参戦。スンニー派の盟主を自任するサウジアラビアの立場
・第2章 アメリカによるイラン攻撃
・第3章 イランの報復手段 ホルムズ海峡封鎖の実現性について
・第4章 ガザの人道状況
中東地域では、俄然緊迫の度合いを増している。6月13日に、イスラエル軍(IDF)が、イランの核施設を狙ってミサイル攻撃を繰り出した。イランも、ガザでの人道状況悪化を踏まえて、過去にない規模で反撃に出る。両国共インフラ施設が破壊され、民間人の死者も発生した。アメリカのトランプ大統領も、IDFの軍事作戦に加担し、ついにイランの核施設へ攻撃に打って出る。中東地域は、経済活動に欠かせない石油埋蔵量の半分を占める。戦火の拡大は、エネルギー市場を不安定化した。ガザ地区でも、日々民間人が殺害され、危機は増すばかりである。詳しく検証する。
第1章 ついに米軍が、イラン攻撃に参戦。スンニー派の盟主を名乗るサウジアラビアの立場
イスラエルとイランのミサイルやドローンでの攻撃の応酬は激しくなるばかりである。イラン側は、制空権を握られ、苦しい立場におかれていた。外交的にも努力を重ねている。6月20日、イギリス、フランス、ドイツの3か国の外相とEU=ヨーロッパ連合の上級代表は、イランのアラグチ外相と、3時間に渡る協議を行った。争点は、核開発についてである。米トランプ大統領が、イスラエル軍(IDF)に加担して参戦する可能性を示唆する中、核開発の中止を求めていく考えである。EUのカラス上級代表は記者団に対し「地域情勢の緊張の高まりは誰の利益にもならない。核開発をはじめさまざまな問題について協議を続けることで合意した」と明らかにした。当のアラグチ外相は、外交的に解決を望むものの、IDFによる攻撃の停止が先だと明言した。
詳細 EUとアラグチ外相の協議 NHK NEWS WEB 2025年6月21日 午前6時15分
イランは、周辺のアラブ諸国とも歩みよれず、防衛手段として核開発に踏み切っていた。国民の91%は、イスラム教徒で少数派であるシーア派である。多数派のスンニー派は5%、残り4%はその他の宗教である。
2016年1月4日には、イスラム教徒の多数派スンニー派大国、親米のサウジアラビアとは、断交していた。きっかけは、サウジアラビア国内で、同年1月2日に、シーア派の指導者ニムル師を含め住民47名をテロ罪で処刑したことにある。イランは、イスラム教徒の少数派であるシーア派に対する断罪行為ととらえ、住民らが、首都テヘランにあるサウジアラビアの大使館を襲撃した。外交的解決は難しく、断交したのである。両国の対立は、2015年から続くイエメン内戦に現れた。サウジアラビアは、スンニー派の政権側を支援する。対して、イラン側は2014年9月にクーデターにより首都サヌアを乗っ取った反政府勢力のフーシー派に武器を供与した。フーシー派は、シーア派の一派ザイード派である。2022年に内戦は小康状態になったものの、2017年8月時点で約5万人が死傷し、約200万人が国内難民となったといわれている。
サウジアラビアとイランの方も和解へのプロセスを歩む。中国が仲介役を引き受け、3月6日から3月10日までの5日間、首都北京にて協議を開いた。互いに2ヶ月以内に大使館をもう一度開設し、国交を回復すると約束する。北京宣言により、宗派が異なる2つの大国が、外交関係を再開した。イエメン内戦の方も解決へ向けて前進した。2023年4月14日に、国連が仲介の下で、双方887人の捕虜が解放された。
写真掲載元 イエメン内戦の構図 詳細記事 朝日新聞デジタル 2023年4月15日付
https://www.asahi.com/articles/DA3S15611589.html
サウジアラビアも戦争には関与したくなかった。2024年以降、米英有志連合軍が、相次いでフーシー派の関連施設へ爆撃した際、自制を求めていた。フーシー派は、ガザ紛争勃発から1ヵ月後の2023年11月以降、紅海を渡る船舶に目を光らせていた。イスラエルと連帯を示すアメリカの船舶への取締りを強化していたのである。2024年2月5日、フーシー派の外務副大臣を務めるフセイン・アル・エジ氏は、米英の攻撃に反対したサウジアラビアに感謝の意思を示した。新たに和平の用意があると、語った。サウジアラビアからは2025年6月時点で反応はない。中東情勢の安定化へ向けて、腐心している。
写真=2024年2月5日首都サヌアで会見するフセイン・アル・エジ外務副大臣 出展:ロイター 掲載元 ARAB NEWS 2025年2月6日付
https://www.arabnews.jp/article/middle-east/article_111280/
2025年6月13日から始まったイスラエル軍によるイラン攻撃を受けて、サウジアラビアの実質国家の指導者ムハンマド・ビン・サルマン皇太子は即座に対応した。6月14日にイランのペセシュキアン大統領との電話会談にて、イランの主権と安全を損ない、国際法違反だと伝えたと、明かした。さらに踏み込んだ発言をする。「イランの核開発問題をめぐる危機を解決するための進行中の対話を混乱させ、緊張緩和と外交的解決に向けた努力を妨害するものだ」とイスラエルを全面的に非難した。ペゼシュキアン大統領に対して、一連のIDFの攻撃で亡くなったイラン国民および、家族への哀悼の意をささげた。
詳細 サウジアラビアとイランの電話会談 ARAB NEWS 2025年6月15日付
中東随一の親米国家であるサウジアラビアは、国交のないイスラエルとは距離を置き、イランを全面的に擁護した。ムハンマド・ビン・サルマン皇太子は、伝統的にサウード家が統治する国家事情から、王政打破を掲げる過激派には一段と警戒を強める。神の下は平等の理念を掲げるムスリム同胞団のパレスチナ支部から立ち上がったハマスに対しては、テロ組織と指定しないものの、受け入れられる立場ではない。ただしガザ地区の人道危機には憂慮している。アメリカとイランの板ばさみにあっている現状だった。中東地域でのエスカレートは避けたいとの本音が見える。日本のようにアメリカに従属せず、スンニー派の盟主として、独自外交を展開している。
第2章 アメリカによるイラン攻撃
日本時間6月20日の早朝に、アメリカ軍がイランの核施設を攻撃したとのニュースが飛び込んできた。トランプ大統領は米国時間21日夜(日本時間22日早朝)に、ホワイトハウスにて、攻撃の詳細について説明した。
攻撃に使用したのは、米軍のB-2ステルス爆撃機と明かした。BBCがアメリカで提携するCBSニュースによると、21日の時点で「外交的」にイラン政府に接触する。攻撃目標は核施設のみに留まり、「体制転換の取り組みは計画していない」と警戒感を和らげたという。現地では、イスラエルとイランの戦闘が10日目に突入していた。
トランプ大統領は演説に先立ち、自分のソーシャルメディア「トゥルース・ソーシャル」に、イランへの軍事作戦について書き込んだ。「我々は、フォルド、ナタンズ、イスファハンを含むイランの核施設三つに対する攻撃を成功させ、完了した。すべての飛行機はもはや、イラン領空の外に出ている」
投稿文から、軍事作戦完了を示唆している。
トランプ氏は、搭載していた全ての爆弾の標的は、フォルドの核施設だったと述べた。
詳細 トランプ大統領の会見 BBC NEWS JAPAN 2025年6月23日更新
地下の核施設の破壊には、貫通弾「バンカー・バスター」が必須だった。兼ねてより、IDFもアメリカの参戦を期待し、地下貫通弾「バンカー・バスター」の使用を要請していた。軍事作戦直後の6月22日に、ヘグセス国防長官と共にダン・ケイン統合が記者会見に望んだ。作戦名を「ミッドナイト・ハンマー(真夜中の鉄槌)」と題し、詳細に渡って解説した。
以下 読売オンライン 2025年6月23日19時56分引用。写真掲載元
https://www.yomiuri.co.jp/world/20250623-OYT1T50195/
写真=記者会見に望むヘグセス国防長官
「バンカー・バスターの最新型である「GBU57」を2発ずつ搭載したB2爆撃機7機が20日深夜から21日未明にかけ、イランに向け米本土を出発した。
一方で、7機とは別のB2も太平洋方面へと向かった。米紙ニューヨーク・タイムズによると、衛星会社が追跡可能な装置を意図的に搭載しており、「おとり」の役割を担っていた。太平洋方面にイラン軍の注意をひきつけることに成功した。GBU57を搭載した7機のB2は途中で数回の空中給油を受けながら、約18時間かけてイラン領空に入った。敵の反撃に備え、途中第5世代のステルス戦闘機が合流し、万全の体制で臨んだ。
米軍による核施設へのピンポイントでの貫通弾投下に先駆け、周辺海域に配備されていた潜水艦から攻撃を始めた。精密誘導型巡航ミサイル「トマホーク」計20発以上を、イラン中部のイスファハンに向けて撃ち込んだ。約1時間半後には7機のB2が、計14発のGBU57をフォルドゥなどに投下した。
米軍は、今回の作戦で計75発の精密誘導兵器を使用したとしている。米軍に対するイラン側の報復攻撃は確認されなかったと、明かした。ケイン氏は「イランのミサイルシステムは我々を捕捉していなかったようだ」と、作戦の成功をアピールした。
<参考記事終わり>
米軍の「真夜中のハンマー計画」と題した軍事作戦により、イランは大きなダメージを受けた。米NYタイムズは6月22日、完全に核施設を破壊していないと、IDFが初期評価していることを報じた。イスラエル当局者は、破壊に備え、イラン軍が密かにウラン施設を移転させたのではないか、と分析している。
核兵器として使用されるウランの濃縮度合いは90%、イランのフォルドゥのには、地下80メートルに、60%まで行う施設が作られていた。米当局者は、フォルドゥの核施設について「使用不能になった」としつつ、「12発のバンカー・バスターでも破壊できなかった」とNYタイムズのインタビューで語った。
詳細 イランのフォルドゥの核施設について 朝日新聞デジタル 2025年6月23日13時付け
イラン側は、外交努力を重ねる。6月23日に、アラグチ外相は、ロシアの首都モスクワでプーチン大統領に招かれた。互いに握手を交わすと、ソファーに腰掛けた。プーチン大統領は、アメリカ軍とイスラエル軍の共同での攻撃に対して、「根拠もなく正当化できない」と最大限の言葉で非難した。さらに「ロシアとイランは、長い間、友好的で信頼できる関係を築いてきた。われわれはイラン国民を支援するための努力を続ける」と誓った。
アラグチ外相は「イスラエルとアメリカによる一連の攻撃的な行動は完全に正当性がなく、国際法と国際的な規範を違反している。ロシアが断固として非難したことに感謝したい」と気持ちを表した。
なおロシアから、支援の詳細については語られなかったという。
写真=6月23日にモスクワのクレムリンでプーチン大統領と会談するアラグチ外相 詳細記事 写真掲載元 NHK NEWS WEB
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250623/k10014842531000.html
イランは、非民主主義陣営として、ロシアとは宗教の壁を越えて、結託する。2022年の10月には、ロシアが名々したウクライナへの「特別軍事作戦」において、イランからドローンを調達していることが明らかになった。経済的にも軍事的にも協力を深化させていた。両国は中国とも協力関係にある。6月19日に、中国は外務省を通して、米国に対して中東地域のさらなる混乱を防ぐように対話を呼びかけた。6月21日の米軍によるイラン核施設への攻撃に対しては、再び外務省を通して、強く非難する。ただし習近平主席の口から語られることはなかった。
詳細 米軍によるイランの核施設への攻撃に対する各国の反応 Bloomberg 6月22日20時45分
イランは、IDFの先手攻撃を受けた当初から断固とした姿勢で臨むことを強調していた。ハメネイ師の顧問は22日、米軍が対イラン攻撃で使う中東地域の基地などは「正当な標的となる」と報復を予告した。ペゼシュキアン大統領は、22日にフランスのマクロン大統領との電話会談にて、米国は攻撃の対応を受ける必要がある、と率直に述べた。
写真=ペゼシュキアン大統領 2025年1月2日テヘランにて(EPA時事)より
米軍の軍事作戦は確かに完了している。強固な繋がりを持つイスラエルへの安全保障政策の一環から、凶器となる核施設を破壊したのである。アメリカ側も、戦火の拡大は避けたかった。現に5月6日、オマーンの仲介外交に伴い、トランプ大統領は、イエメンの首都サヌアを制圧する親イラン組織フーシー派への攻撃停止命令を出していた。フーシー派は、紅海を航行する米国の船舶を取り締まり対象から外すことを誓った。なおイスラエルの船舶は対象外である。
米国のバンス副大統領は、イランが報復を検討していることについて、NBCのニュース番組にて心境を口にした。「イランが核兵器を持たない状況で平和を望む」と端的に答えた。
詳細 ペゼシュキアン大統領の写真掲載元 イランの報復計画について 時事通信 2025年6月23日午前6時49分
https://www.jiji.com/jc/article?k=2025062300197&g=int
中東情勢の悪化は、エネルギー事情を大きく左右する。アメリカも、イランの体制打破を目指しながらも、経済悪化を避けるべく、軍事作戦を限定的な関与にとどめた。2023年10月7日のハマスとイスラエルの衝突から、中東情勢は一団と悪化している。同地域に影響力を持つアメリカには、紛争解決を求める声は止まなかった。今深刻な危機を迎えている。
第3章 イランの報復手段 ホルムズ海峡封鎖の実現性について
イランの軍事的最大限のカードは、ペルシャ湾とオマーン湾の間に位置するホルムズ海峡の封鎖である。水深75cmから100cm、最も幅が狭いところで33kmにとどまる。世界の約2割となる日量2000万バレルが通過する。水深が浅くて、幅が狭い地形上、機雷攻撃による被害を受けやすい。サウジアラビアもホルムズ海峡を通して、世界に原油を輸出する。2016年から2023年までイランと断交した経緯から代替輸送手段を確保していた。パイプラインを利用して紅海沿岸のターミナルに輸送することで、ホルムズ海峡と紅海南部を回避できる。イエメンに面した紅海南部は、敵対勢力のフーシー派が目を光らせていた。サウジアラビアは、ホルムズ海峡とインド洋から航海の入り口に当たるマンデブ海峡の封鎖に備えていた。一方、UAEは、ホルムズ海峡の南にあるオマーン湾のフジャイラ港まで、自国の油田からパイプラインで日量150万バレルの原油を輸送している。
他方で、イラクの方は、輸送手段がホルムズ海峡に限られる。なぜなら、地中海への石油パイプラインが閉鎖されているからである。全てバスラ港からホルムズ海峡を通過して海上に送り出されていた。他の湾岸諸国のクウェート、カタール、バーレーンは、ホルムズ海峡を経由する以外、原油を輸出する手段を持たない。すなわち、イランのホルムズ海峡封鎖は、湾岸諸国を敵に回す行為に繋がる。自国の天然資源が乏しい日本は、封鎖による影響は大打撃だった。自国の石油の9割を中東からの輸入に頼っていた。そのうち8割がホルムズ海峡を経て、運ばれる。
詳細 ホルムズ海峡の原油事情 N&N 米国のイラン攻撃で現実味を帯びるホルムズ海峡封:抜かずの宝刀という怖さ 2025年6月23日 執筆者:木内 登英 金融ITイノベーション事業本部
ホルムズ海峡を封鎖に踏み切れば、一段と孤立感が増す。いわゆる「諸刃の剣」だった。アメリカのルビオ国務長官は6月22日に、中国に対してイランへの対応を呼びかけた。イランの国営プレスTVが発信した情報によると、同国の議会が、22日付でホルムズ海峡封鎖を承認した。ただし、最終決定権は国家安全保障最高評議会にあると伝えている。
イランとしては、中東の大国として、軍事力を誇示したい。日本時間24日午前1時半過ぎ、イラン国営メディアは、ペルシャ湾を挟んで向かい側のカタールの米軍基地へミサイル攻撃を仕掛けたと報じた。首都ドーハ近郊の中東地域で最大規模となるウデイド空軍基地がターゲットになったとみられる。イラン国営メディアから6発のミサイルが、ウデイド空軍基地に命中したと伝えられたものの、被害の全容は明らかになっていない。
領空侵犯を受けたカタールの外務省報道官は、SNSで緊急声明を出した。「カタールの防空システムが攻撃を阻止し、イランのミサイルを迎撃することに成功した。負傷者や人的被害は出ていない」
ロイター通信は、地域の関係者の話として、イランが数時間前に、2つの外交ルートを通じて、アメリカ側に報復攻撃を伝えたとのことである。23日、アメリカ軍の関係者の話として、カタール以外のアメリカ軍の基地で、イランの攻撃は確認されていないとの見通しを示した。
トランプ大統領は、日本時間24日午前5時前にSNSで心境を語った。「イランはわれわれの核施設の破壊に対してとても弱い反応を示し、この反応は予想していたもので、われわれは非常に効果的に立ち向かった」
敵対するイランに対して、和解の姿勢を示した。「イランがわれわれに早期に通告したことに感謝したい。命が失われることなく、誰もけがすることはなかった」と心情を語った。
写真=中東の米軍基地の地図 掲載元 詳細記事 イランによるカタールの米軍基地攻撃について NHK NEWS WEB 6月24日午前8時26分付
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250624/k10014842721000.html
イランとしては、戦闘を続ける意思はなかった。事前に通告したうえで、カタールの米軍基地へ向けてミサイルを発射したことで、敵対感情を募らせる国民にアピールした形にはなる。6月15日のこと、ロイター通信は、イスラエルが、諜報機関モサドを通じて、イランの最高指導者アリ・ハメネイ師殺害計画を企てていると報じていた。トランプ大統領の意向を踏まえて、計画を実行に移さなかったとのことである。イランとアメリカの間で裏取引があったのか、明らかにはされていない。イラン側も、報復攻撃を続ければ、当然ながらハメネイ師の身に危険が及んでいた可能性が高い。アメリカのトランプ大統領は日本時間6月24日の午前、「イランとイスラエルが停戦合意に応じた」とSNSに投稿した。イスラエルの首相府も24日付で、「停戦案に同意した」と明らかにした。イラン国営テレビは24日「停戦が始まった」と大々的に報じている。もちろん、イスラエルとイランの互いの勢力で話し合ったわけではない。いつ停戦協定が崩壊するのか、危惧される。現に6月24日、イスラエルのカッツ国防省は、トランプ大統領がSNSで「停戦協定成立」と書き込んだ後、イランがミサイルを発射したと、主張している。緊迫した状況は続いている。
第4章 ガザの人道状況
イスラエルは、イランとのミサイルやドローンの打ち合い合戦が続く中、ガザでの軍事作戦を着々と進めていた。ベンヤミン・ネタニヤフ首相は22日、ガザ地区から、イスラエル人の人質3人の遺体を収容したと発表した。3人の身元も明かしている。ヨナタン・サメラノ氏とオフラ・ケイダル氏は民間人、もう一人のシャイ・レヴィンソン氏は、2等軍曹だった。21日の軍事作戦で、遺体を収容し、遺族の元へ返還手続きをとる。
ネタニヤフ首相は「司令官と兵士らに、作戦の成功と、各自の決意と勇気について感謝する」と声明を出した。
イスラエル国防軍(IDF)は6月以降、人質8人の遺体をガザで収容している。
詳細 6月21日の軍事作戦での遺体収容について BBC NEWS JAPAN 2025年6月23日付
https://www.bbc.com/japanese/articles/clyl20xqqn7o
交戦勢力のハマスと折り合いをつけられない以上、力尽くで奪い返す選択をとるしかない。
ガザ市民には、毎日が生き残りをかけて緊張状態にさらされている。ガザ人道財団(GHF)の食料配布が、いわゆる凶器と化している。黙っていれば、飢えを待つ市民は、危険を犯してまで、食料を求めて、近寄るしかない。6月20日付けでロイター通信が、一人のパレスチナ人の男性の日常生活を取材して、過酷な生活ぶりを世界へ向けて訴えた。ロイター通信の取材を受けたのは北部ベイトラヒヤに住む4人の子供を持つ男性のヒンド・アルナワジャさん(38歳)である。食料を求めて毎日瓦礫と化した道のりを歩き通す。ある時妹のマズーザさんと共に、近くで銃声を聞いて、瓦礫の影に隠れた。「子どもに食べ物を持ち帰って喜ばれるか、手ぶらで帰って泣かれるか、それとも遺体となって布に包まれて帰るかのどれかだ」と切迫した状況を訴える。「これが私たちの生活だ。私たちは虐殺されている。もう限界だ」と悲痛な胸のうちを語った。
ガザの医療関係者によると、6月20日時点において、過去2日間で、国連などの支援トラックから食料を受け取ろうとしたパレスチナ人数十人が、イスラエル軍の発砲で死亡した。
医療関係者によると19日には、イスラエル軍の銃撃と軍事攻撃によって少なくとも51人が死亡した。その中には、ガザ地区中央部にある、米国とイスラエル主導で設立された「ガザ人道財団(GHF)」が運営する施設に近づこうとした12人も含まれている。
写真=6月17日、ガザ地区ベイトラヒヤで撮影(2025年 ロイター)食糧配給所に向う人々 出展:詳細記事 Reuters 2025年6月20日午後 2:52
https://jp.reuters.com/world/us/7URTPC2HH5LQDOCXOAJIDWCN3Y-2025-06-20/
IDFは、ガザ中部ネツァリムで複数の「容疑者」が部隊に危険を及ぼす形で接近したと、弁解した。威嚇射撃を行ったことは認めるものの、負傷者は把握していないと、きっぱりと否定した。ガザ保健省によると、5月下旬以降、GHFの拠点にたどり着こうとして殺害されたパレスチナ人は数百人に上る。
国連はGHFの配給体制について、不十分かつ危険で人道的中立性に反すると糾弾した。IDFは、食料配布計画時に、ハマスの戦闘員の略奪を防ぐためだと、警護の必要性を主張する。
IDFと一体化するGHFは6月17日に、3カ所の配給拠点で300万食を問題なく配布したと、任務を全うしたことをアピールした。
ガザ戦争は2023年10月7日、ハマスの戦闘員による奇襲攻撃に端を発する。イスラエル側の発表によると1200人が殺害され、251人が人質となった。ナチスによるユダヤ人虐殺「ホロコースト」以来の危機ととらえ、イスラエル政府は、ただちに報復に出る。ガザ保健省によれば5万5600人近くのパレスチナ人が死亡した。200万人超の住民のほぼ全員が家を追われ、飢餓も深刻化している。
人道支援団体「ノルウェー難民評議会(NRC)」は19日、100万人超が適切な避難所を持たず、3月1日以降テントや防水シートの搬入がイスラエルに阻止されていると警告した。
ロシアによる軍事侵攻を受けるウクライナを例にとると、女性や子供は、隣国のポーランドを介して、国外退避の道が与えられている。一方、西は地中海に面し、東は巨大な壁が立ちはだかるガザ地区の住民は逃げ場がなかった。ウクライナでは、戦時下においても経済活動は続けられ、隣国からの物資を調達できる。対照的にガザ地区ではインフラの破壊により、仕事場、住居、土地を奪われ、生活さえ間々ならない。住民たちは、檻の中に閉じ込められ、まさしく死と隣り合わせだった。停戦への道筋が見えないまま、戦闘は続いている。
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