大家正志 小説『食べてしまいたいほどかわいい』。地方の印刷会社の営業職として30年あまり働いた後再雇用されて同人誌や自分史などの小規模出版を手掛けながら、自分でも同人誌に小説を発表している主人公。友人の脇田がやっている居酒屋によく顔を出すが、そこの女の子が新しくなった。かずちゃんはあまりしゃべらないが料理は上手だ。主人公が食事に誘ううちにお礼がしたいと言うことで、ある時ホテルに行くことになった。その時の様子が「食べてしまいたいほどかわいい」という表現で表されている。著者の経験をもとにフィクションとして仕上げたのだと思われる。自分史を本に出したい実業家の心理や同人誌をやりながら受賞を目指す物書きの心情などが巧みに描かれており、小説のはじめと終わりに「食べてしまいたいほどかわいい」が置かれている構成もうまい。長年詩と小説を書き、出版業も行ってきた著者の筆力が十分にうかがえる作品となっており、推薦するに足りる出来栄えとなっている。
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