長期連載の経済談義シリーズです。日本経済超悲観派の僕がその論拠を解説していきます。
今回のテーマは「国際金融のトリレンマ」です。
国際金融のトリレンマは経済学の法則で、国際金融政策において、みっつの政策を同時に実現することができない、というものです。
そのみっつというのは以下です。
・資本の自由な移動
・固定相場制
・独立した金融政策
ひとつめの「資本の自由な移動」は、両替が自由にできたり、アメリカ株など海外の金融資産を自由に購入できたりすることです。
ほとんどの先進国では当たり前のことですが、一部の発展途上国や専制国家では両替に制限があったりします。
日本も戦後しばらくは外貨持ち出し制限がありました。
現在の日本では自由な移動は成り立っているし、当面変わることもないように見えます。
ふたつめの「固定相場制」は為替において、例えばある国の通貨価値を特定のドルレートで固定するドルペッグ制がこれに当たります。
日本もかつて戦後は1ドル360円の固定相場でした。
しかし固定相場では世界経済の変動に対応できないので、円ドルは変動相場制に移行しました。
現在の日本では固定相場制は成り立っていません。
みっつめの「独立した金融政策」で大きな要因は金利です。他国と異なる独自の金利を設定することが独立した金融政策にあたります。
日本では日銀が政策金利を決定していて、国際的な情勢を無視してほぼゼロ金利を保っていますから、独立した金融政策を取っています。
上記のみっつを同時に達成することはできず、どれか一つはあきらめなければならない、というのが国際金融のトリレンマの法則です。
現在の日本の金融政策では、金利を他国より大幅に低く保っていて独自の金融政策を取っています。また、資金の自由な移動は当然保証されています。
それはつまり、残りの条件である固定相場は維持できないということです。
高金利を求めて資本が日本から海外に移動しますから、為替市場で円安が進むだろう、ということが、法則から予想できるわけです。
実際いま急激な円安が問題になっていますが、それは国際金融のトリレンマの法則から考えれば当然の帰結ということです。
政府による口先介入や度重なる為替介入が行われていますが円安の大きな流れを止められません。
為替介入の効果は一時的なもので長続きしないだろう、と経済学者や評論家の皆さんは口をそろえて解説しています。
それにはこうした理由があるわけです。
円安がさらに問題となって、これを何としても止めなければならない、となったときには、資本の移動に制限を加えるか、または、金融政策の独立性を放棄して他国の金融政策に追随するか、どちらがか必ず必要になります。
市場で支配的な予想は欧米追従の利上げです。
しかし日本の金利を大幅に上げるとすると、これまで潜在的に蓄積してきたアベノミクスの副作用が一気に噴出してくることになります。
日銀植田総裁はおそらくそれをよくわかっているので、利上げに対して極度に慎重になっていると思われます。
となると、資本の移動に何らかの制限を加える、という政策が出てくる可能性ももしかしたらあるかもしれない、と僕は考えています。
新NISA制度による外国株式の購入や、円建て預金からドル建て預金への資金の移動が、事実上の資本逃避にあたる、と、この連載の第61回で指摘しました。
https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1987509267&owner_id=277042
そうした資本逃避を少しでも食い止めるため、新NISAやドル建て預金に対して、もしかしたら今後なんらかの規制が加えられるのではないでしょうか。
そうしたことが将来もし起こったらそれは、日本は先進国としての政策運用を放棄しつつあることを、おそらくは示唆しています。
連載バックナンバー:
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1942875057&owner_id=277042
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