初戦は勝てたが、あまりポイント差がつかなかった。
ギアの一つがずれてアームが一本駆動しなくなってしまったからだ。
控え室で修理を手早く済ませて2回戦に備えた。
こんなことは当然想定内で、我々は修理の予行演習も、
ストップウォッチで計って練習したのだ。
Ｆ１レースのピット・インみたいに。
修理中も、TVカメラが遠巻きから我々の手元をズームで
狙っているようだったが、そんなこと意識していられない。
2回戦、この日初戦となる相手シード校チームが紹介されて驚いた。
三重県代表、我らが鈴鹿高専Bチームロボット、
『セナプロスト枕連(ﾏｸﾗﾚﾝ)』が挑む相手は、
静岡代表、沼津高専Aチームの『小林(ｼｮｰﾘﾝ)タッキージ』、
なんと、操縦者がカニだったのである。
カニもカニ、静岡の戸田港出身と司会者に紹介され、
立ち姿は１メートルくらいか、8本の手足はさらに異様に長い、
タカアシガニだ。
なんの話か、だって？
「高専ロボコン」をご存知ない？それじゃあお話にならないなあ。
これは東海北陸地区大会だけど、鈴鹿は勝ち抜いて全国行くつもりだから、
年末NHKの「高専ロボコン」を観てくださいよ。
しかし、相手は想定外のカニ、8本の手足を駆使してあのどデカい、
操縦レバーが何本も突き出ているリモコンだ。
そしてなによりも彼に有利なのは、この競技、操縦者はフィールド内の
ロボットを見ながら、フィールド外を左右に素早く移動しなければ
ならない。カニの横ばいだ。
セッティングを手順通りスピーディに終えて相手を窺うと、
沼津高専、操縦者の彼以外は人間だが、彼がリーダーらしい。
8本の手足をばたばた大きく動かして、泡を飛ばしながら
あれこれ指示を出し、チームメイトが家来のように立ち動いている案配だ。
昨日までの試験操行(リハーサルみたいなもんだ)には、
彼はいなかったが、高専生であればOKで、カニが出場してはならない
というルールはないと司会者が説明する。観客が大きな声援を送る。
もしや彼も、誰かが操縦しているロボットなのでは、と思ったが、
だったら、彼をロボットとしてフィールドに入れればいいのであって、
操縦者を操縦してロボットを操縦させるのはナンセンスである。
また、さらに強くロボットではないと思わせる根拠は、
彼の陣地から、リアルにヨダレの出そうな、
美味そうなカニの匂いが濃く漂ってくるのだ。
そういえば昼は作業しながらおにぎり1個食べただけだった。
『あっ、そ〜りゃ、す〜ず〜かぁ〜！！
あっ、そ〜りゃ、す〜ず〜かぁ〜っ！！』
うわっ！まいった。叔父さんだ。来てたのか。
あー、またあの調子だ。
なにか粗相をしでかさなければいいが。。。
叔父は、酒抜きでは大変おとなしいが、
一旦入るともう別人である。
クラスメートが応援団を結成してくれたのだが、
団長の日の丸の扇子を奪って一番前で踊り狂っている。
もうへべれけだ。
だが、もう競技開始だ。誰か叔父を引っ込めてくれ。
まずいぞ。カニの操縦する『小林タッキージ』、
強い。カニは長い足で大股でばたばた動き回り、
気になってしょうがない。あっ、またポイント取られた！
まずいぞ。
その時である。顔を真っ赤にして酔っぱらった叔父が、
舌とヨダレをダラダラたらしながらまろび出て、
カニを背後から羽交い締めにしたと思いきや、
酔っぱらいとは思えぬ素早い蟹走りで
体育館の外へ連れ出してしまったのである。
真っ先に追った。その後を彼のチームメイトが、TVカメラが、
司会者が、審査員が、会場の人々が続く。どこへ行った？
今年の開催当番校、富山高専校内を皆で手分けして
どやどや探しまくった。
どこ行った？なかなか見つからない。
用務員室にTVカメラと共に飛び込むと、南無三！
あろうことか、カニ君の足はぽっきり折られて大鍋で茹でられ、
甲羅は剥がされ、叔父と用務員が彼のミソを肴に酒盛りをしていた。
競技運営委員から下された処分は、
出場関係者のしでかしたこと、我がBチームは、失格。
沼津は急遽、操縦者が人間に変わったものの、
リモコンのレバーが18本もあって扱いきれず、
3回戦で敗退したが、審査員の推薦で全国出場が決まった。
富山高専の用務員は、その後1ヶ月の減俸処分になったと聞く。
『すまんことしたなあ。』
『まあ、いいよ。まだ来年があるさ。でも今日は酒抜きでね。』
年末、叔父が土産に持ってきた蟹の鍋をつつきながら
NHKの『高専ロボコン大賞』を観ている。
「続いては、三重、鈴鹿高専Aチーム『フェラリルノ・アグリ』対、
静岡、沼津高専Aチーム『小林タッキージ』です！」
『あ、またカニが操縦だぞ。まだ他にもいたんだ。
どうりで沼津は示談で許してくれた訳だ。
しかし、ウマそうだなあ。』
『やめてよ、叔父さん。蟹なら目の前にあるじゃん。よし！始まるぞ！
いけーっ！すずかー！』
TV画面アップ、我らが鈴鹿高専Aチームの操縦者は、伊勢エビだった。
（2008年06月10日より再掲載）
カニみそってカニの脳みそじゃない！ では、一体何!? ／ウソでしょ!? マジです!! たべものびっくり事典��
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