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2024年03月26日13:52

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プーランク『TAKE 3』(コパチンスカヤ)

【収録曲】

1 プーランク:ためらいのワルツの動機〜劇付随音楽「城への招待FP138.」より
2 シェーンフィールド:クラリネット,ヴァイオリン,ピアノのための三重奏曲
3 プーランク:ボストンのテンポで〜劇付随音楽「城への招待FP138.」より
4 プーランク:ヴァイオリンとピアノのためのバガテル ニ短調
5 プーランク:狂おしく速く陽気に〜劇付随音楽「城への招待FP138.」より
6 プーランク:クラリネット・ソナタFP.184
7 プーランク:タランテラのテンポで〜劇付随音楽「城への招待FP138.」より
8 バルトーク:ヴァイオリンとピアノのためのブルレスクOp.8c-2
9 プーランク:非常に速く,非常にいたずらぽく〜劇付随音楽「城への招待FP138.」より
10 バルトーク:ヴァイオリン,クラリネット,ピアノのためのコントラスツSz.111
11 プーランク:タンゴ〜劇付随音楽「城への招待FP138.」より
12 ニキフォル:クレズマー・ダンス

パトリシア・コパチンスカヤ(ヴァイオリン)
レト・ピエリ(クラリネット)
ポリーナ・レシチェンコ(ピアノ)

イリヤ・グリンゴルツ(ヴァイオリン,12)
ルスラン・ルツック(ダブルベース,12)

2020年11月,SRF放送チューリヒ・スタジオ
Alpha ALPHA772(セッション)


「TAKE 3」と名付けられたこのアルバムのキーとなるコンセプトは「3」。三拍子の曲を三重奏で演奏することに由来する。コパチンスカヤのアルファ・レーベルへのデビューアルバムは「TAKE TWO」と名付けられ,さまざまな二重奏を集めていた。これらのアルバムの「TAKE」はジャズの名盤,デイブ・ブルーベックの「Take Five」を連想させる。ブルーベックの「Take」はアルバムを制作するための録音という意味。

コパチンスカヤの新譜で共演するのは,「TAKE TWO」でも共演したレト・ピエリ(クラリネット)と長年活動を共にしてきたのでポリーナ・レシチェンコ(ピアノ)。ヴァイオリン,クラリネットとピアノによるトリオはユニークといえる。このアルバムの最後を飾る「クレズマー・ダンス」では,ヴァイオリンのイリヤ・グリンゴルツとダブルベースのルスラン・ルツィックも参加して,華やかに幕を降ろす。

このアルバムの中心となる作曲家はプーランクとバルトーク。プーランクの作品では,フランスの劇作家ジャン・アヌイの戯曲のために書かれた付随音楽「城への招待」から6曲が選ばれ,他に「ヴァイオリンとピアノのためのバガテル」と「クラリネット・ソナタ」が取りあげられる。バルトークの音楽からは「ヴァイオリンとピアノのためのブルレスク」と「ヴァイオリン,クラリネット,ピアノのためのコントラスツ」が選ばれた。さらにジャズなどのイデオムを取り込む作風で知られるアメリカの作曲家ポール・シェーンフィールドの「クラリネット,ヴァイオリン,ピアノのための三重奏曲」が収録され,ルーマニアのシェルバン・ニキフォルンの小品「クレズマー・ダンス」ではイリヤ・グリンゴルツ(ヴァイオリン)とルスラン・ルツィック(ダブルベース)も参加して,華やかに幕を降ろす。

このアルバムを聴いて強く感じるのは,民族音楽的な要素が濃い演奏だということ。コパチンスカヤのリーディング・アルバムということもあり,東欧の民族音楽の雰囲気が支配的だ。彼女の音楽の中核を形作っているのは東ヨーロッパの土着的な音楽なのだろう,と思わせる。

しかし,このCDをよく聴くと非常に洗練された音楽的なセンスに満ちあふれていることに気づく。土着的な民族音楽などと形容しては,的を外していると非難されても反論できなくなりそうだ。確かに血湧き肉躍るといった側面を持っているが,知的にコントロールされた冷静さに裏打ちされた演奏という印象が強い。ある意味,乱れたといっても聴く側を興奮させることを演奏者が計算し尽くたような演奏といえる。どんなに扇情的なフレーズを弾いているときも,演奏する側の身体の芯は覚めていることが伝わる演奏である。

もし,演奏者が自分自身を興奮させる要素をあえて探すとすれば,彼らが自ら駆使する超絶技巧に酔っているという側面はあるかも知れない。21世紀という時代にふさわしいセンスを背景にしたヴィルトゥオージティを堪能できる演奏だといえる。ただここでも知的にはどこか覚めていて,神がかり的な興奮とは一線を画していて,冷静さの領域に踏みとどまっていることに変わりはない。コパチンスカヤをはじめ演奏者全員が類い稀なヴィルトオーゾであり,誰もが羨むような高度なテクニックを使いこなす。

このCDを聴いていると,音楽の源泉は民族音楽であるという主張に納得してしまいそうになる。あるいは,民族音楽が音楽の源泉だったという点が軽視されがちだという点に警鐘を鳴らしていると捉えるべきなのだろう。とりわけ,大地に根を張った音楽を取り戻そうとするならば。
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