母校の某サークルの話

母校の某サークルは、昔から某旅館で「追いコン」（卒業生追い出しコンパ）を
行っていたが、追いコンの前になるとその年の追いコン幹事（３人）は
菓子折りをもってその旅館を訪れ、ご亭主に
「今年もご迷惑をかけると思いますがよろしくお願いします」
と頭を下げる。
そして追いコン当日は朝から幹事が旅館に入って、
小さい旅館は当日は貸し切りになるのだが、
部屋を回って壊れては困るもの（掛け軸とか壁掛けなど）をはずし、
ふすまや障子は取り外して一か所にまとめ、
ふとんを２部屋に敷き詰めて「寝る部屋」を設定する。
参加者は、まず大広間で礼儀正しく卒業生に挨拶し、
卒業生はお礼を述べ、乾杯して食べるものを食べる。
ここから無礼講が始まるが、幹事は気が抜けない。
お膳を下げるのを手伝い、廊下で飲んだり暴れたりしないよう注意し、
トイレでげろを吐く人間を救出して寝部屋に連れて行き、トイレを掃除する。
宴会場では空になった酒瓶を一か所に集め、こぼれた酒をなるべくふき取り、
歌ったり踊ったりはほっておくが、議論が過熱して殴り合いになりそうなら
「まあまあ、めでたい卒コンですからそのへんで」と仲裁する。
夜中過ぎにはおおよその人間がどこかで寝始めるので幹事も休む。
朝、幹事はなるべく早く起きて窓を開けて風を入れ、
放っておくと夕方まで寝ていそうな人間たちを起こし、
食べられそうな人間には朝食のおにぎりを渡し、
参加者が帰りはじめたら忘れ物をチェックし、もう一度トイレを掃除し、
ふとんをたたんで一か所にまとめ、昨日はずしたふすまや障子を戻し、
「あとはわたしたちがやりますから」と声がかかるまで部屋のたたみを雑巾がけ。
幹事が帰れるのは昼前くらい、玄関で
「今年もご迷惑をおかけしました。来年もよろしくお願いします」
と頭を下げておにぎりの包みを渡される。

遠い、古き良き時代の話。
この小さい旅館も今はもうない。


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