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2024年03月02日03:09

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第106回 王都作「ソツギョウ―私には会ったこと無い兄がいた」(三題噺「新入社員」「お花見」「水面」)

〈ヤリ◯ンシリーズ単発・子供たちの見た彼ら1〉

#18歳成人 #元母子家庭 #高齢出産児明暗
#底辺愛人とヒモ


出演者
♢加藤愛実(カトウマナミ 18):強度のシスコンな【新入社員】
「これでとにかくあの女の支配下から脱せる!」
年老いた母をババアと呼ぶ
2006年3月28日生まれA型。モデル複数居る
♢加藤春(カトウハル 16):愛実の実妹。
♢(SNS友)板垣さゆり:駆け出しダンススクール代表
さゆりが香りについて思い出したこと
https://mixi.jp/view_bbs.pl?comm_id=6226350&id=99445393
♢加藤彩子(カトウアヤコ 60):愛実と春の実母。B型
♢愛実の縁者:母違いの兄

本文

   “燃えたぎる炎は 明日のバネにして
   気持ちはしるしだと そっと差し出す
   ひとこと「ありがとう」 返事はいらない”
     ―ザ・フォーク・クルセダーズ「悲しみは言葉にならない」一部替歌

*******

 オフィス街の真ん中にある公園。桜の饗宴、たまに乱舞。
 晴れて【新入社員】1年生になれたアタシは、入社式の帰りに偶然そこの横を通っていた。
手には、これから使う予定の社員証。真ん中あたりに「加藤愛実」の印字がされている。
 それを見ても、心晴れない。
 あんなことが、あったから。

 「マナミ〜」
 突然無駄に響く声で呼ぶなスギゾウ。
 隣にいるだろ、ってか今日顔合わせたばっかのバカはしゃーねぇな。
 おろしたての、と言えないクタクタのリクルートスーツ着崩れてる。ちな大卒。
 おまけに数日前に失恋したらしい。ダセェ…
 この二人にとって【お花見】はよそ事だった。

 スギゾウと適当なところで別れて信号待ってる間、スマホに映るタダで読める古い漫画のとあるコマに目を落とした。
 登場人物の一人の呟きに“心もとなき”

***

 ここんとこずっと、頭から離れないことがある。確か友の誰かと言い合いになったとき、
「マナミさぁ……抱えすぎ。たまにニュースで見る“ヤングケアラー”じゃん。いいかげんやめなよ」
「ヤングケアラー?そんなんじゃねぇよ」
 その友からは、
「あとちょっとしたらマナミも成人だから、ここまでにしとくわ。頑張ってね」

 人通りの少ないエリアの小さく静かな公園のベンチに座って、目を伏せる。
 何だかんだあっても、アタシらは幸せな家族してたと思う。
 ちっさいときから、ずっと仲よ…かった。
 “おねーちゃんっ大好き!!!ずっとそばにいてよ……”
 学校の帰り、
 もっと一緒にいたかったけど、二人ともバイトしないとしゃあないから……本当にゴメン。

 加藤春(ハル) 享年16。アタシと暮らした2個違いの妹。亡くなる数日前までバイトしてた高校生。薄茶色の細い髪質。虚弱で少食だった。アタシとは母つながりで、トルコ人でムスリムの父がいる。名前は夏に出生届を出す手前に、酔いつぶれてふらついた母の手で殴り書かれ決まったという。
 いつだったか、春から直接、
「ねぇちゃん、わたし、彼氏できたよ♪」
「そう、よかったね」
(アタシはそんな気に到底なれない)
 彼女は、2024年3月終わりに目撃した交通事故現場で突然心不全を起こして亡くなった。
“わたしにもしものことが、あったら……”
 的中するなよ…ったく。
 この後、SNSの友達で、春が亡くなった報道を見てすぐアタシに連絡取ってくれた板垣さゆりさんと二人でビデオ通話をして春を偲んだ。
 喋りだすと、
「アンタ変な気起こしてないよね?」
 とっさにアタシ、
「無いよ!」
 そしたらさゆりさん、とってもいい笑顔向けてくれた。
 心友や親友たちとは、通話でつながった。
 いっぱいでも足りないでもない、エモさ。
 言葉にし切れない「ありがとう」。
 いつか、返すからね。絶対に。
 彼氏とやらが、春の入った白い棺にすがりつきながらすすり泣いてた。そうだろな。
 遺骨はアタシが持っている。カバーの色は春の生きていた頃に希望を聞いて爽やかな薄い水色を選んだ。

 そういや、あんパンいちごパンに麦茶がうちの夕食の定番だった。
 おかげで小中学校の給食毎回おかわりしてたな。クラスの大食いたちからバカにされても。
 バイト先のまかないにも喰らいついた。そうしなければ、お腹が持たなかった。
 その癖からか、未だに大食早食い色気無し。
 この有り余った元気を、春に分けたかったよ。ったく……

 なので数日前にアタシは、なかなか開かなくなってる母のLINEトークルームを開き、「アンタの二女、亡くなった」とだけ打つ。未だに既読はつかない。
 アタシらの製造元、加藤彩子(カトウアヤコ 59)。
 ごく最近まで二人の子持ちシン(グル)ママ。
 ババアにとって、春は邪魔な存在だった。
 たとえば、春が何かやらかしたら、ババアがキツく、
 「マナミはグズらず手ェかからなかったのに、ハル、あんたは何で手かけさせるの!」
 娘たちに対する肌のふれあいは四歳手前まで。
 二人とも、それぞれ、その頃に言われた言葉がある。
「マナミ(後でハル)チャンはもうお姉ちゃんなったから、甘えん坊は卒業ね♪」
 その後、アタシは身近な大人に懐きまくって可愛がられた。
 すぐに思い出せるだけでも10人は、いる。アタシを気にかけてくれて、かまってくれて、あったかく接し合えるヒトたち……。宝だよガチ。
 かわりに、よくぶつかり合って、仲直りして笑い合って……いいよね、そういうの。
 でも、春はあまり前に出られず尻込みしがちに。
 人見知り激しくて、なかなかなつけない。小さかったときはアタシの後ろに、最近は親友か彼氏の後で静かにしてた。たまにいなくなってるみたいに……。
 何だこの差。

 そいや、振り返りついでに思い出した。
 たしか小2の頃、“親への手紙”とかいった作文あって、アタシは、
 “お母さんは、いつも家にいません。冷ぞう庫からラップをかけている朝ごはんを出して、レンジであたためてから食べて学校へ行きます。”
 “たまに家にいるときは、いつもはげしく怒っていたりわあわあと泣いていたりしています。きげんの悪いときは、わたしだけリモコンの先で頭をはたかれることもあります。わたしは困ってしまいます。妹をはたかないだけまだましだとも思います。”
 なんて書いて出したら、担任から、
「あらカトウさん、なんてこと書いてるの?書き直して明日持ってきなさい」
 て言われたっけ。まあいいけど今更。
 さすがに報告受けたガクネンシュニンとか言う頭カタいオッサン先生が慌ててウチに来たけど。

 ババアは日本男とスウェーデン女の混血で、おまけにあの同じ苗字の元有名ミュージシャン(ト◯バン)の姪。15年前に彼女の伯父が亡くなった時、「よりによって……迷惑したわ愚か者!」となじっていた。


 “人の生、ってなんなんだろう?”


 春が亡くなった件で、久々にババアと会う。
 年齢の割に全身若く見えるが、どことなく煤けた、すり減った心が目元によく現れている。
 母(とは呼びたくもない女)の淋しげな背中を同情なく見る。
 肉食女。焼肉屋の常連。いつも暑苦しい。そして、選ぶ男は決まってアジアン。

 そいや数年前にババアからアタシの父親もそれだって聞き、アタシは、
「どんだけアジアン好き?」
って聞いた。
 そして返ってきたのは
「男は、まず何より逞しくなくちゃね♡」
 目当てのオスに飽きられかけて喰らいついて離さない底辺社会でいつも誰かの愛人してるメスなら言うよなやっぱり。
 アタシも、横で聞いてた春も呆れて何も言えなかった。
 この後、未だにアタシの心が消化し切れてないある出来事が火を噴いた。
 突然、春の顔面に、コップからの水がかかった!
 かけたのは、ババアだった。
 アタシは状況が分からず、いつも汗拭くのと手洗い用に使い分けていたタオルハンカチ2枚で春の頭部を中心に拭きながら、焼肉屋のスタッフを呼び、おしぼりをたくさん持ってきてもらった。
 そのときのババアは、聞き取れないことを春に向けてわめいていた。
 春は、ババアを睨みながら無言を貫いた。
 後で春が聞かせてくれた中に、
「お母さん、あのときあの店にいなかったわたしのパパのこと、イスラム語のフレーズで“天誅が下っちまえ!”って。無いと思った……いやだよ、こんなの……」

 奴は、ほとんど家にいなかった。目覚めると香水の強い匂いだけ残ってることがしょっちゅう。
 気づけばアタシの髪の毛は、同じくアタシの右手にわし掴まれ、くしゃくしゃに。
 “クッソ、思い出したくもない暗くて重いことなのに自動再生されやがる……ババアいい加減にしろ!”

***

誰かにこの手のこと、何か聞かれても、
「アイジョウ?そんなの知らない」
「父親?かなり前に名前聞いたけど忘れた」
 知りたくないけど、どうせ、近いうちに書類見ちゃうし。

 予想した通り、もう片割れの製造元の名称は、管轄の戸籍課で知った。イコール、父はアタシを認知してたことになる。カタカナの並んでいる途中に区切りが二つある。さらにもう一つの書類に目を通すと……

「私には兄がいたんですね」
 アタシは軽くふらついた。
「つーことは……」

《 クソ系図 》
女(亡)┳男┰ババア┰外人男(スンナ派・婚姻制約有)
    ┃ ┃   ┃
  兄!! アタシ   春(亡)

“グエッ。種つながりの兄かよ!何これ……”

 何日か後で、アタシが成人を迎えたことをUPしているFacebookのウォールを見つけた彼から要望があってリモートで話した。
 かなり昔にアタシの存在を知ってFacebookで調べて、“いつか会いたい”って思ってたそう。ガチのベーシックね。

 タブレットを開いて、とりあえずいつものマッチングアプリで知り合うみたいなショボい外人たちの相手をするように、
「お金欲しくて連絡はNG。アンダスタン?」って切り出すと、
「そ、そ、そゆのじゃなくて……」
「じゃ何よ?」
「キミの知らないと思うキミのお母さんのことで伝えたいことある。それと……キミとボクの父親のことも」

彼からはおもむろに話し始められ、
「君、いや、マナミのお母さんは僕ら父と息子から見ると、とってもチャーミングで…」
 さすがにビックリ。
 けど、アタシら姉妹が知ってるあの横暴で獣すぎるメスが、男らにゃ媚びてたんか。まぁアレならするか。
 彼から聞くところ、彼は大昔に実の母を亡くし、継母と暮らしているそう。
 彼から見たババアと、彼とアタシの父親。とても仲が良かったことがたっぷり流れ込んできた。
 たどたどしい日本語から単語を拾ってつなげると、都心にあった飲み屋で知り合って速攻仲良くなり、しばらく一緒に暮らして、その中でアタシが生まれた。でも、父の滞在許可(労働ビザ)が切れかかって一時のつもりで帰国。でも金がなくて再びビザが取れなかったという。何だソレ?
 その一つ一つのことの細かいところは、なかなか頭に残らなかったけれど、彼も早口と熱いハートでいっぱいいっぱい話してくれて、それをアタシだけがこっそり聞かせてもらえて、……まぁ、途中アタシら側の事情話したら彼に大泣きされて、何とかなだめたけど。
 要は、
 “アタシと春の二人が知らないババアがそこにいた。”
 そんなのあるならどうして……反則だ。
 ふいに、気持ちが、へたり込んだ。
 これ以上何も考えられない。

 後のほうになって、彼からふいに、
「マナミが落ち着けたら、また話そうよ」
 アタシも迷わず、
「そうしよ!」
 長々喋って、話すこと無くなった。
 彼もそうみたいで、リモート接続を終わらせた。

 さっきまで開いてたウィンドウを消して、代わりに壁紙一面にひろがる【水面】。
 この水が、すべて洗い流してくれればいい。


(完)


―― Material ――
秋 元 才 加
「ソツギョウ」「ジョウネツ」加藤ミリヤ
「悲しみは言葉にならない」ザ・フォーク・クルセダーズ
岩 井 志 麻 子
『日本一醜い親への手紙』
メンヘラ神の逆設定(愛実のパーソナリティ)
ト◯バン実は一人っ子。なので本編完全に架空です
(『(前略) ラスト・メッセージ』文藝春秋)
某デザイナー一族の子供と孫たち。いまどうなってんだあいつら
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