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2024年01月27日16:51

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フォーグラー他『モーツァルトのマンハイム』(フライブルク・バロック・オーケストラ)

【収録曲】

1 ゲオルク・ヨーゼフ・フォーグラー:歌劇「スミルナの商人」序曲
2 クリスティアン・カンナビヒ: 交響曲第55番ハ長調
3 クリスチャン・ダナー:ヴァイオリン協奏曲ヘ長調
4 カール・ヨーゼフ・トエスキ:六重奏曲変ロ長調
5 イグナツ・ホルツバウアー:歌劇「シュヴァルツブルクのギュンター」序曲
6 モーツァルト:レチタティーヴォ「アルカンドロよ,私は告白する」とアリア「どこから来たかは知らない」K294
7 モーツァルト:交響曲ハ長調 K208/102(213c)

ニコール・シェヴァリエ(ソプラノ)
フライブルク・バロック管弦楽団(管弦楽)
ゴットフリート・フォン・デア・ゴルツ(ヴァイオリン独奏,指揮)

2022年3月,アンサンブルハウス,フライブルク
DG 4863502(セッション)


モーツァルトがまだ若く色々な音楽を吸収していた時期にマンハイムを訪れ,そこの宮廷オーケストラ,演奏家や作曲家の音楽に触れ大きな刺激を受けた,というエピソードをかつて天才音楽家の伝記で読んだ。それ以来,どんな音楽を聴いたのか,どのような影響を受けたのか,ずっと気になっていた。秋にその一端を解き明かしてくれそうなCDがリリースされた。

このアルバムには,モーツァルトが聴いたであろう5人の音楽家の作品と彼がその時作曲した音楽が収められている。マンハイムで彼が触れただろうと推測される音楽のジャンルはオペラの序曲,交響曲,協奏曲に室内楽曲。一方,モーツァルトが書いた作品はコンサート・アリアと交響曲。これら2つのグループの音楽を聴き比べてみると興味深い発見がある。

当時のマンハイムで活躍していた作曲家,フォーグラー,カンナビヒ,ダナー,トエスキとホルツバウアーの名前はおおかた忘れ去られている。しかし,彼らが使っている音楽語法などは古典派の作品などに受け継がれていることに気がつくだろう。

歌劇「スミルナの商人」を作曲したゲオルク・ヨーゼフ・フォーグラーはヴィュルツブルクに生まれ,イタリアで音楽家としてのキャリアを積み,モーツァルトがマンハイムへ行った直後にパリへ移っている。モーツァルトとフォーグラーの個人的な関係はあまり深くはなかったらしい。

「スミルナの商人」はジングシュピールで,1771年に作曲され1778年に改訂されている。序曲はいかにもジングシュピールのそれにふさわしい。後に続くドラマに対する期待を盛り上げるような音楽だ。序曲は3分ほどの音楽で,かなり速めのテンポで一気に駆け抜ける。劇場に詰めかけた聴衆はジングシュピールの世界へ導かれたはずだ。

「交響曲第55番ハ長調」を書いたカンナビヒだけは名前を覚えている。モーツァルトは彼を高く評価していたので記憶に残っているからだ。フォーグラーと違い,個人的な付き合いもかなり深かったらしい。宮廷オーケストラのコンサートマスターの一人であり,後にはオーケストラで演奏する音楽のディレクターに昇進もしている。

カンナビヒの「交響曲第55番ハ長調」はモーツァルトがマンハイムに滞在中に書かれた。3楽章の堂々とした交響曲で,モーツァルトの交響曲「ジュピター」に多少似ていなくもない。カンナビヒの第55番のシンフォニーではクラリネットが使われていて,モーツァルトはその音色に魅了されたようだ。クラリネットのおかげで宮廷オーケストラの音色ばかりか調性の可能性が広がるという印象を持ったようだ。「フルート,オーボエとクラリネットがこの交響曲に与える壮大な効果は信じられない」と彼の父に書き送っている。

ダナー家と最初に知り合いになったのはモーツァルトの父。レオポルトはヴァイオリニストのヨハン・ゲオルク・ダナーの知遇を得た。彼の息子,クリスチャンも父と同じくヴァイオリン奏者になり宮廷オーケストラの一員となった。モーツァルトと母はクリスチャンの家で昼食をともにする機会も得ている。

後にモーツァルトはクリスチャンに作曲を指導し,彼はヴァイオリン協奏曲を作曲した。クリスチャンはそれほど多くの作品を残している訳ではないが,何曲かは伝えられている。このアルバムに収録されているヘ長調のヴァイオリン協奏曲はモーツァルトから作曲を習ってそれほど経たない時期に書かれた。3楽章のヴァイオリン・コンチェルトは演奏時間が18分程度の楽曲。終始ヴァイオリン・ソロに焦点が当てられる。独奏ヴァイオリンはそれほど広くない音域を動き回る。第1楽章はアレグロでヴァイオリンはキビキビと動く。第2楽章はアダージョ。テンポを落として,ゆったりとしたメロディーを奏でる。第3楽章はロンドー。テンポを上げて,主題を美しく表現する。当時の演奏技術からするとある程度のヴィルトゥオージティを誇っていたのだろう。

六重奏曲を書いたカール・ヨーゼフ・トエスキも宮廷オーケストラのヴァイオリニスト。モーツァルトはトエスキについて尊敬の気持ちを込めて何度も言及している。トエスキはヴァイオリン奏者であったが,作曲したのはほとんど室内楽。

フルート,オーボエ,ヴァイオリン,ビオラ,ファゴトットとチェロのための六重奏曲は1765年に出版されている。一応2楽章で構成されていると言って差し支えないだろう。この時代の人たちが日頃どのような音楽を楽しんでいたのかが手に取るようにわかる曲。強いていえば美しいメロディーを担当するのは管楽器で,ヴァイオリンは木管の隙間を上手に埋める役割を果たしている。ファゴット,ビオラとチェロは低音を受け持つ。フルートやオーボエ,そしてヴァイオリンのパートは作曲者の豊かなインスピレーションの裏付けがあるように響く。低音部も決してありきたりな書法ではない。

イグナツ・ホルツバウアーはウィーン生まれで,マンハイム楽派を主導した音楽家であり,宮廷オーケストラの首席カペルマイスター。モーツァルトが心から尊敬していたことは言うまでもない。

そのことはホルツバウアーの歌劇「シュヴァルツブルクのギュンター」序曲を聴くだけで納得できる。実に堂々とした序曲で,音楽のスケールの並大抵でない。そればかりか,とても気品の高い音楽である。豊かで気高い音楽的世界がこれから幕を開けることを告げている。

「レチタティーヴォ『アルカンドロよ,私は告白する』とアリア『どこから来たかは知らない』K294」をモーツァルトは1778年3月24日に完成させ,それから3週間後のカンナビヒのコンサートでモーツアルトの妻,コンスタンツェの姉,アロイジアによって初演された。「ウェーバー嬢と私(モーツァルト)は信じられないような栄光に浴した。彼女は歌われるべきようにこのコンサート・アリアを歌い,すべての人はこのアリアを聴いてかつてないほどの感動を覚えた,と口を揃える。ブラボー,ブラビッシモ・マエストロ,最高に素晴らしい作曲だ,とカンナビヒさんは叫んだ」とこのコンサートについてザルツブルクで待つ父への手紙に書いた。

「交響曲ハ長調 K208/102」は演奏時間ほぼ8分の3楽章からなるシンフォニー。弦楽器が主体の交響曲で管楽器の使用は控え目で和声の補強程度。速いテンポと上品さが魅力の作品なのだろう。楽章間の休みなしで続けて演奏され,かつかなり快調なテンポで疾走する。マンハイムの音楽家たちが書いた作品と比べると,モーツァルトの音楽は気品にあふれている。上品さがモーツァルトの特徴で,それに惹かれていたのかと改めて気づく。

20歳くらいのモーツァルトがマンハイムを訪れて,色々と有益なことを学んだことがよく分かった。マンハイム楽派の語法などはモーツァルトへ受け継がれ,そしてモーツァルト以降の作曲家へと形を変えながら受け渡されていることを確認できた。でも,このCDを聴いて最も印象に残ったのはモーツァルトが果たした音楽史上の役割ではなく,彼の音楽のどこにでも潜んでいるモーツァルト特有の上品さだ。それゆえ,過去や現在はたまた洋の東西を問わず多くの音楽好きに愛されているのだろう。
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