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2023年09月12日17:37

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【映画日記】《優秀映画鑑賞会2023 黒澤明監督作品》『生きる』

 9月9日、土曜日。

 朝、徹夜のまま始発に乗り込み西成へ向かう。某マンションの管理人さんに借りた『ルポ西成~七十八日間ドヤ街生活~』(彩図社:刊、國友公司:著)を返却するため。昼間のお仕事中よりも、早朝の方が邪魔にならなくて済むから。

管理人さん:「おっ! もう読んだんか?」

MASA:「うん。ありがとー。でも、コレ、どない思う?」

管理人さん:「アカンなぁー。薄いわな、内容が」

MASA:「うん。僕もそう思った。アレよね? 『かなめ』(←一泊500円のドヤ。簡易宿泊所)で『追い返された』って書いてあるけど、ここいらは若い子が興味本位で来たら嫌がるよね?」

管理人さん:「当たり前じゃ。でもまあ、態度も悪かったんちゃうか? 完全に見下しとるやろ。文章、全体的に上から目線やったやんけ。この本やったらアレやな。女の人が書いた本が有ってな。そっちの方が全然に良かったな」

MASA:「そんなんあったっけ? 何、何? この界隈の事を書いた本?」

管理人さん:「飛田新地の、な」

MASA:「ああ、アレかいな? 『さいごの色街 飛田』(新潮文庫:刊、井上理津子:著)?」(←僕は単行本が出た時に読んだ)

管理人さん:「あ、それそれ。アレは良かったな」

MASA:「興味本位のゲテモノじゃあないしね。ちゃんと取材してるし、歴史も調べてるし。図々しいねんけど、真摯でもあるって言うのかなあ? 書き手の迷いとか悩みが見えて、そこも良かったよ」

管理人さん:「その点、こっちは徹底して、ココの人間を見下しとるやろ。気分エエ事ないわ。そういう風にわざと書いとるんやろけど、程っていうもんが有るわな。でもまあ、これを書いた兄ちゃんの差別意識はな、アレやで。この子が抱えとるコンプレックスの裏返しやで」

MASA:「そうね。僕もそう思う。でもまあ、読ませてもらえて良かった。ありがとー。ちょっとブラついて来るわ。ほなねー♪」


 その後、界隈をブラブラと散策してから一旦帰宅。

 しばらくして外出。

 シネ・ヌーヴォの【優秀映画鑑賞会2023】へ。日曜日〜水曜日の5日間に渡って、名作4作品を上映するという企画。1日1〜2本の上映で、各500円(!!)。これは毎年9月恒例となっている企画。でも、昨年も一昨年も体調不良で参加できなくて……

 今年は【黒澤明監督特集】。ラインナップは『生きる』、『隠し砦の三悪人』、『天国と地獄』、『用心棒』。『生きる』と『天国と地獄』、スクリーンで観た事が無い! 『用心棒』は2017年に京都文化博物館フィルムシアターで観ているけれど、これも再見したい。『隠し砦の三悪人』は、一昨年秋に【午前十時の映画祭】で観たばかりだからスルーとしよう。あー、『隠し砦の三悪人』じゃあなくて、『椿三十郎』を上映してくれたたら、もっと嬉しかったのだけれどもなあ。アレもスクリーンで観た事が無いから。でもまあ、それは自分本位の無い物ねだりというものだわな。


●『生きる』

【市役所の市民課長である渡邊勘治(志村喬)は、勤続30年無欠勤の生真面目な男だが、これまで事なかれ主義で生きて来た。そんな彼が、ある時、胃がんで余命が幾ばくも無い事を悟る。おまけに、家に帰ると、息子(金子信雄)とその妻が、自身の退職金をどう使おうかという話を繰り広げており、やるせない気分になる。男手一つで大切に育てた可愛い息子が、こんな風になってしまった…… その後、渡邊は初めて仕事を休み、遊興に溺れてみようかと試みるも、それがどうにも性に合わず悩む。周囲からは「女遊びをしている」と思い込まれる渡邊。やがて彼は再び出勤し、市民からの申請書類に目を通す。そして目に留まったのは、下水溜まりの埋め立てと小公園建設を訴える陳情書であった。渡邊は、最後の仕事、いや、本気で取り組む最初の仕事として、それを実現するべく各課に働きかけ続け……】というスジ。

 場内は通路まで補助椅子が稼働する大入り満員の大盛況!

 上映開始直後、「あれ? これフィルムやん」と気が付いた。チラシやHPにはDCP上映と記載されていたけれど、間違いなくフィルム上映だ。プリントの状態も悪く無い。嬉しい驚き。

 1952年度芸術祭参加作品である。第3次東宝争議終結後、一旦、東宝を離れていた黒澤明が、1948年製作の『酔いどれ天使』以来、4年振りに東宝製作で放った作品。1949年製作の『野良犬』は東宝配給だけれど、アレは映画芸術協会と新東宝の提携による製作作品だからね。

 いやあ、良かった!! 志村喬の名演と新劇勢のアンサンブルが素晴らしい! 他、ヴォードヴィルや軽演劇、他社専属の俳優陣も出演しているが、皆、揃いも揃ってべらぼうに巧いのだもの。まあ、当たり前だ。巧い人しか出てないもの。あと、新劇出身ではないけれど、伊藤雄之助がとても印象的だった。居酒屋で酒を呑みながら小説を書いている作家役で、書き終えたところで、居酒屋の主人に「これ、編集者に渡してくれ。あと、アドルム(=睡眠薬)を買ってきてくれ」と言う。坂口安吾みたいな人だな…… 渡邊は、彼に遊びの手ほどきをしてくれと懇願し、作家はそれに応じるのだけれど、いやあ、伊藤雄之助が巧い、巧い。台詞の緩急や間の取り方が絶妙で舌を巻かされた。

 それにしても、本作の撮影時、志村喬は47歳。現在の僕と同世代だ。この当時の47歳というのはとても老けているのだなあ。「50歳を迎えたら老人」と呼ばれていた時代だと聞く。そうなのか…… 時代の移ろいというのは凄いなあ。

 中盤で、渡邊の通夜のシーンとなる。以降、回想に次ぐ回想が繰り広げられるのだが、この構成でダレさせないのだから凄いや。普通、フラッシュバックの連続だとダレるよ。まあ、『羅生門』を撮った人だからなあ、と考えると納得せざるを得ないのだけれど。

 今年に公開された英国版リメイク『生きる LIVING』はしっかり英国映画に仕上がっていたし、主演のビル・ナイも凛とした英国紳士を演じ、志村喬とはまた違った主人公像を体現していて悪く無かったけれど、やはり本家の方がずっとずっと良い!!

 本作をヒューマニズムの塊と評す人は多いけれど、全くもってその通りよ。ただ薄っぺらい理想主義や綺麗事で終わってはいないな、と思う。説得力は有る。え? そりゃあ、実際に本作の渡邊のような人が居るかっていうと、そうそうは居ないよね、とは思うけれども。でも、イイの。本作の中で、ちゃんと渡邊勘治という人物が息をしているのだから。

 僕の元・義父(=母の再婚相手)は、家では(というか僕に対してだけ、だったけれど)、暴力の嵐&借金を拵えまくった腐れ外道だったけれど、凄く気の小さい男でね。アレは全部、気の小ささの反動と鬱積したストレスの捌け口を求めたのが一体となって、その標的を血の繋がっていない僕に向けやがったのだけれど、あの人、僕のとこに来た時は、大阪府の某市の市役所・市民課の課長だったの。ホントの話よ。評判は良かったみたいよ。参事、次長と出世して、最後は農業センターだかの所長までなったし、地域に百貨店が出来るとなった際、【商店街を守る!】というスローガンの下、市を代表して、新聞やテレビのインタビューにも出てたわ(←「名前は伏せてくれ」という条件を反故にした毎日新聞だか読売新聞に電話で猛抗議していたのを覚えている) でもまあ、これがまあ、事なかれ主義の権化みたいな人でね。いざとなったら逃げるの。シレっと逃げるの。で、『生きる』に出て来る市役所職員の殆どが同じような人なのだけれど、それを「戯画化して、悪者に描き過ぎ」とした評も見かけるけど、いやいや、あんな感じよ。今はどうだか知らないけど、僕の元・義父の同僚の人達も大抵、同じ匂いがした。「あ、なんかヤだな…… ペラいな、コイツら……」って思っていたもの。全員に対してじゃあないけどね。「あ! この人、ちゃんと人に向き合える人!!」って感じた人なんて、ほんの数人だったよ。その人達のお蔭で、僕は今こうして生きられているのだけれど。でもまあ、大半の事なかれ主義の人達に対してはね、ある程度の年齢になってから「ま、それが処世術ってものなんだろうな……」と思えるようにはなった。元・義父(もう、この世には居ないんじゃあないかしらん? 歳を考えたら)には、ほんの少し信頼出来る部分もありはしたけれど、概ねは恨みの感情しか残って無いわ。でもまあ「気ぃ小さかったんやなあ……」って、今になって思う。

 本作の主人公である渡邊勘治もそうよ。気は小さい。ただ、優しい人。でも、事なかれ主義。けれど、最後は一念発起する。良い事をする。その良い事というのは、同僚にとっては煙たい事でありもするのだけれど、でも、それを<似非ヒューマニズム>って腐すのは、僕はしたくない。渡邊がした事なんて、世間的には小さな事かも知れない。でも、それを心から喜ぶ人だって居るんだ。だから、僕は「小さな事」として済ませたくはない。「小さな事」って言うなら、「じゃあ、お前がやってみろ!」ってんだ。「綺麗事」って言うなら、「貴方にとってはそうなのかもねー。だって、貴方には出来ないし、する気もないんでしょー。それだけの事でしょー」って思う。映画として出来が悪いなら、その点を腐しても構わないけれど、そうじゃあないんだから、強がって腐さなくても良いじゃあない。

 加えて、渡邊の通夜では、彼の功績を認めて改心していく人も複数名描かれ、そこに希望が見えたかなと一瞬思うのだけれど、結局、役所は変わらないという、ほろ苦い結末。これのどこが「理想論」、「綺麗事」なのかしらん?、と思う。でも、一方では「事なかれ主義で居ないと、世の中が回らなくなっちゃうというジレンマもあるわいな」とも思うのよ。一筋縄ではいかない問題。そこをきちんと描いていると感じた。

 僕は傑作だと思うな。感動した。スクリーンで観られて良かった。

 鑑賞後、昼食でも食べようかとブラついたけれど、それほど時間が無くて、お店をゆっくり探して回る事が出来なかったので帰宅。【牛すじカレー】の看板に惹かれたのだけれど、1,280円(税別)という価格に怯んだわ…… 牛すじ肉って、僕が幼い頃は、精肉店でビニール袋に入れられたものが、【ご自由にお持ち帰り下さい】だったんだけどなあ…… ま、40年程も昔の事だけれども。現在は、結構にお高くなってしまって。今は圧力鍋があるからね。これも時代だなあ。

 帰宅して、コーン缶にレトルトのカレーをぶっかけて食べるという、手抜きどころではない食事を済ませ、しばらくしてから早めに眠った。前日の夜は予定外に眠られなかった上、なんだか珍しく眠気がドドーンと来て。

 そこからグッスリ。

 というわけで、この日は以上。


<添付画像使用許諾:(C)1952東宝>
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