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2023年07月26日21:58

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メモ　「レモン市場（レモンとはアメリカ英語で　欠陥車　を意味する）

「レモン市場」

一般に中古車の市場では、買い手は車の品質を判断するのが難しい。一方、売り手は、その車が事故に遭っているかどうかなど、実際の履歴について知っている場合が多い。その結果、買い手と売り手の持つ情報に偏りが生じる。

このような状態は「情報の非対称性」と呼ばれ、米国の理論経済学者アカロフが1970年に発表した論文、「〝レモン〟の市場 – 品質の不確実性と市場メカニズム」で初めて用いられた経済用語だ。後に彼はこの論文でノーベル経済学賞を受賞することになるのだが、そこでは以下のように分析がなされている。

　まず、中古車市場で情報の非対称性が存在すると、買い手は慎重になるはずだ。ここで、買い手は市場での良い車と悪い車の存在割合は知っているが、その判別はできないと仮定すると、良い車と悪い車の平均ぐらいの価格で買おうとするだろう。
　だがそうなれば本当に品質の良い車を売ろうとする売り手は損をするので、市場から撤退するだろう。逆に、質の低い車を売りに出せば利益が出る。そしてその状況が続けば、買い手が払っても良いと考える金額はさらに下がるはずだ。この悪循環により、中古車市場には質の低い「レモン」の車ばかりあふれてしまうことになる、というのである。

　今回のビッグモーターの件で、現在のところ1番注目されているのは同社の中古車販売事業そのものではなく、併設されている板金塗装の工場で行われていた不正についてである。従って、アカロフが想定した「レモン市場」とは少し話の構造が違う。

　しかし、そもそも自動車は色々な点で素人には中身が分かりにくいからこそ、整備などに関する制度が設けられているのだ。同社の中に、情報の非対称性に対処するために構築されてきたざまざまな仕組みをかいくぐり、短期的な利益を得ようとした者がいたことは、確かだろう。

　一見すると今回の事件における直接の被害者は、保険会社あるいは保険の等級が不当に下がった加入者であるように思える。だが、より本質的な意味での損失は、情報の非対称性を緩和・解消する仕組みに対する信頼が少なからず損なわれたことにより、未来にあり得たはずの取引が中止されてしまうことかもしれない。つまり、この事件の潜在的な被害者は、本来なら享受できたはずの価値を得られなくなるかもしれない、この社会のメンバー全員なのだ。
　
　そしておそらく今一番心を痛めているのは、他の誠実な中古車販売業者ではないか。不信の連鎖が広がることがないよう、問題解明への迅速な対応を関係機関などに求めたい。

　私たちの社会の共有財産である「信頼」を壊すような事件は、もうこれで最後にして欲しいのだが。