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2023年04月23日09:22

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第45回:貨幣数量説について

経済談義シリーズ第45回です。日本経済超悲観派の僕がその論拠を解説していきます。



日銀黒田前総裁が4月に引退し、植田新総裁が就任しました。

黒田前総裁は前代未聞の超緩和的な経済政策、通称「異次元の金融緩和」を強力に推し進めて、結果として日銀の状況は劇的に変わりました。
その功罪について最終的に総括する記事が経済ニュースなどに掲載されていますが、全体を判断できるようになるにはまだかなりの時間がかかると思います。


さて黒田氏の「異次元の異次元緩和」には、大きくはみっつの理論的な根拠があります。それについてこの連載で解説しようと思います。

そのうち「インフレ期待」については、この連載の第14回で取り上げています。
https://mixi.jp/view_diary.pl?owner_id=277042&id=1947652792

今回の記事では、もう一つの根拠「貨幣数量説」について説明します。


貨幣数量説というのは一言でいえば、世の中の物価というのは市中に発行されている通貨の総量により決まる、という説です。
モノの値段というのは、モノの価値と、お金の価値との見合いにより決まるので、お金の量が増加すれば、お金の希少価値がさがって、相対的には物価が上がることになります。

もう少し厳密には、通貨が世の中を回っていく度合を考慮して、以下のような数式で物価が決まるとされています。
物価(P)×生産量(T)=貨幣数量(M)×貨幣流通速度(V)


安倍元首相の経済思想「アベノミクス」では、日本経済低迷の根本原因はデフレにある、とされていました。
物価が上がらないから、市民の給料も上がらない、人々が買い物をしなくなる、という理屈です。
その仮説がもし正しいとすれば逆に、物価を人為的に操作して強制的にインフレを発生させてやれば、消費が増えて経済が成長する、ということになります。

通貨発行は日銀の専権事項で、日銀が発行量を決定します。つまり上の数式のうち、貨幣数量というパラメータは自由に操作できるわけです。
貨幣数量説がもし正しければ、日銀が通貨を倍発行すれば物価も倍、とまではいかなくともかなりの物価上昇が見込めます。
そうした命を受けて黒田氏が総裁に任命されたわけです。

なお一般には中央銀行の政策は政府の政策からは独立であるべきとされていますが、安倍氏はその原則を破ったことになります。



黒田東彦総裁が実施した異次元の緩和策を「クロダノミクス」と僕は呼んでいます。
通称黒田バズーカを打ち放し、その後も大規模な資金供給を日銀は続け、現金と日銀の当座預金残高を合わせたマネタリーベース(資金供給量)は10年間で約5倍にもなりました。

しかし結果はというと、みなさんご存じの通り(物価については)効果がなく失敗に終わりました。物価上昇率はいずれの指標からみても2パーセントの目標に達することはありませんでした。



クロダノミクスはなぜ機能しなかったのでしょうか。

リフレ派の評論家は、失敗の原因を、数式のもう一つのパラメータである貨幣流通速度が落ちたからだ、としていますが、この間に貨幣流通速度が顕著に低下するような要因は発生していません。
消費増税のせいだとする向きもありますが、過去の税率変化の例を考えても、2パーセント程度の税率変化にこれだけの大失敗の原因をこじつけるのはあまりに無理があります。

要は貨幣数量説は間違いだった、ということです。

貨幣数量説は、需要と供給という経済学の基本概念を欠いています。
お金の流れは複雑かつ市場が決定するものであって、決して政府や評論家が望むように流れてくれるものではない、ということをリフレ派の皆さんは考え落としていたのです。



ただ、貨幣数量説が完全に間違いだったかというと、局所的にはほぼ成り立つ部分もあることがわかりました。それは株価です。
黒田バズーカが発表されると即座に株価は急騰し、その後も異次元緩和の時期全般にわたり株価は好調を維持しました。

その違いは何かというと、お金で購入する財の性質から来ています。
財には実需と投機的需要があるということです。

実需というのは需要が満たされていれば、日銀が通貨を発行したからと言って、それ自体により価格が大きく上がることはありません。
例えば家についていえば、実用上十分な広さの家を1軒持っていれば、もう一軒買おうとか、倍の値段の家に引っ越そうなどと考える人は少ないものです。

一方、投機的需要というのは、お金を使ってさらにお金を増やしたい、お金を儲けたいという人間の欲に基づいています。
人間の欲は無限ですから、投機的需要にも限りがありません、投機家が倍の資金を手にすれば、株式市場には倍のお金が流入し、株価は倍になるわけです。


クロダノミクスにより大量にばらまかれたお金はそうして株や土地といった金融市場に流入し、いわばバブルを発生させる効果を発揮したと僕は考えています。
それはもちろんアベノミクスの意図したところではありませんが、いずれにせよバブルは好ましいことではありません。
市場をゆがませ、バブル崩壊のリスクを潜在的に発生させるのですから。



連載バックナンバー:
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1942875057&owner_id=277042
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