クルマ0371 携行不可能(KRIÉGER)

19世紀終盤、蒸気自動車・電気自動車・ガソリン自動車が三つ巴の覇権争いをしていたことはよく知られています。
ガソリン自動車の優位性が次第に明らかになりつつある中、パリ在住のLouis Kriéger(ルイ・クリーガー)は、1894年に電気自動車を設計してプロトタイプを製作しました。そして4年後の1898年にKriéger Company of Electric Vehiclesという会社を設立、生産販売を開始しました。

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鉛蓄電池は、1859年にフランスのGaston Planté(ガストン・プランテ)が発明し、1881年にCamille Faure(カミーユ・フォーレ)によって改良されて一応の完成を見ました。そして電気自動車の動力源として活用されましたが性能に不満がありました(パワー不足・短い放電時間など)。
1891年にAlbert Brault(アルバート・ブロールト)はSociété de l’accumulateur Fulmen(フルメン二次電池会社)を設立して独自の鉛蓄電池の製造を始めました。フルメン社のこの電池は高性能でそれまでの不満を抑え込みました。例えば、1899年に世界で初めて100km/hを達成した電気自動車の動力源であったこと、1906年にパリ〜シャテルロー間307kmをノンストップで走破したこと(当時かような長距離は驚異的でした)など。

このフルメンの電池は、ガソリン自動車が台頭してからも、電気装備品作動用の搭載蓄電池としてフランス車に使われました(現在も用いられています)。

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フルメンの電池を搭載して生産を開始したクリーガーは、Brougham(ブロアム＝クローズド・セダン/クーペ、イラストの1.2.4.6.)・Landaulette(ランドーレット＝コンバーチブル、同5.)・Electrolette(エレクトロレット＝軽快な2座オープン、同3.)の3種類ありました。

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重量配分を考慮してかフルメンの電池はリヤに搭載されていました。

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しかし360kgとすこぶる重い蓄電池を搭載していたクリーガーの車重は、最も軽量なエレクトロレットでも770kgありました。これでは僅か3馬力の電気モーターを左右両方のフロント・ホイールに組み込んだ車体はキビキビ走るワケがなく、最高速度は30km/hに届かなかったようです。
だからでしょうか、蒸気自動車のように水が沸騰(蒸気を発生)するまで待つとか、ガソリン自動車のようなエンジン始動の手間(この頃はまだクランク棒による手動)がないにも関わらず生産台数は極めて少なく、1901年は43台、1902年は65台に過ぎません。

蒸気自動車もガソリン自動車も燃料(前者は水)は持ち運びできましたが、電気は携行不可能で充電設備が不可欠。でも街中にそんなところは限られていました。クリーガー以外のメイクも含めて僅かな台数しかない電気自動車のためにインフラを整えるのは現実的ではなかったのですね。

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静かですぐに走り出せるという電気自動車の長所は、航続距離の短さと性能の低さ、予備燃料携行不可能という短所を補完するほどではなく、電気自動車は程なく消えていきました。

なお、クリーガーといえば1005馬力エンジンを搭載するスーパーカー(2019年に$285万で市販されました)を想起しますが、上述した電気自動車のクリーガーはこのとんでもないマシンとは何の関係もありません。単にKRIÉGERという名称が同じというだけです。