50年前の1972年は、まさにプログレの全盛期。イギリス発のムーヴメントの影響を受けて、既に見て来たイギリスやイタリア以外にも、世界中の国でプログレが開始されつつあった。黎明期であるがゆえの粗削りさも見られるが、一方で様式美化されていない多彩な個性が輝いている黄金の時代だった。
曲 バンド アルバム
�� Origin of supernatural probabilities / Ttangerine Dream [ Zeit / Germany ]
「ツァイト」は、タンジェリン・ドリームの最高傑作というだけでなく、ドイツ前衛ロックの頂点の１つと言える。「ツァイト」というのは時間という意味で、シンセサイザーを中心にドイツの哲学者ハイデガーの「存在と時間」を音楽化したかのように、無限へ永遠へと広がっていくサウンドだ。それは宇宙であると同時に暗黒の内面へとも果てしなく沈降していく。この曲は途中から入る波のようなシンセ音が魔術的な効果を生んでいる。暗黒な惑星のジャケットも最高。 同じ72年に、タンジェリン・ドリームから分かれたクラウス・シュルツェのファースト・アルバムも出ている。
�� Tripping over the rainbow / Lift [ The moment of hearing / USA ]
同時代には無名に終わったリフトは、70年代にブートレッグとして LP レコードが発売され、90年代になってから本格的に再発された5人組である。「1972〜75年の作品」とされているが、あまりに素晴らしいので 第2位にしてしまった。メロトロンを使ったシンフォニック・ロックの傑作である。50年前のアメリカに突如として登場していた驚異のシンフォ・バンドであった。空間いっぱいを埋め尽くすメロトロンはジェネシスのようでもあり、疾走するスピード感とややハイトーンのヴォーカルはイエスのようでもある。しかしキーボード・オーケストレーションの壮大さは、そのどちらとも似ていない独創性を示す。演奏力も抜群で、完成度の高いサウンドに安心して浸っていられる。
�� Soup / Can [ Ege bamyasi / Germany ]
当時絶好調だったカンの3作目。この曲「スープ」は、カンを代表する名曲だと言える。途中まではぐねぐねと歌う非力なハーロックだ。しかし一転、爆発する音響による暗黒の前衛サウンドが登場し、そして暴走するケンジ・ダモ鈴木のヴォーカルが猛獣の叫びのようでもあり、原始人の儀式の祈りや呪文のようでもある。
�� Princess / The Old Man & The Sea [ The Old Man & The Sea / Denmark ]
デンマークに現れたオールド・マン＆ザ・シーは、スタインベックの「老人と海」に触発されたのだろう変わった名前の5人組で、ヴォーカリストが2人。この曲ではベーシストがヴォーカルも担当している。大海原を思わせる雄大なオルガンに乗せて、朴訥とした感じのユニゾンに近いようなコーラスが歌われていく。しかしメロディーはどこか叙情的で、ほのぼのと心に染みるものがある。一方でレッド・ツェッペリンのカバー曲では、もう一人のヴォーカリストがロバート・プラントそっくりの声でシャウトするのに驚かされる。
�� Plastic fantasy / Flied Egg [ Dr. Siegel’s fried egg shooting machine / Japan ]
フライド・エッグは、ギターの成毛滋を中心に角田ヒロ、高中正義の3人により結成された。成毛はギターのほか、ハモンド、メロトロンなどの多彩なキーボードを弾き、黎明期の日本にあって完成度の高いプログレを生み出した。英語で歌われ、ブリティッシュなサウンドだが、ヴォーカルのメロディはなんとなく日本的だ。「タルカス」の「タル」を「オケ」に変えた「オケカス」という ELP風 のインスト曲もある。
�� Moldau / Pell Mell [ Marburg / Germany ]
ベル・メルは6人組で、トマス・シュミットがヴァイオリン、フルート、キーボード、ヴォーカルを担当。ノヴァリスよりも早く登場したペル・メルは、ヴァイオリンを中心としてクラシカルな作風の曲が多く、ドイツ最初期のシンフォニック・ロックとしてもっと評価されるべきバンドだ。エレクトリック・ヴァイオリンが刺激的なこの曲は、スメタナの「モルダウ」。音の太さが雄大な川の流れを象徴しているかのようだ。そしてラストはフルート。この曲はインストだが、陰影のあるヴォーカルの入る曲もあり、メロトロンも演奏される。
�� Caricatures / Ange [ Caricatures / France ]
フランスではアンジュが登場する。ファースト・アルバムからさすがにクリスチャン・デカンのヴォーカルは、退廃的でまとわりついてくるようで、圧倒的な個性を示す。フランス語のアイデンティティーが思い切り前面に出たシンフォニック・ロックである。そしてキーボードが独特の奥深く澄んだ川の流れのような背景を形成している。
�� C.I.D. in Uruk(ウルクの麻薬捜査人) / Amon Duul �� [ Carnival in Babylon(バビロンの祭り) / Germany ]
アモン・デュール�兇�4枚目アルバム「バビロンの祭り」は3枚目「野ネズミの踊り」と5枚目「狼の街」に挟まれて少々精彩を欠くものの、前衛性の影が薄い一方で、楽曲のメロディーには味わい深いものがある。特に中盤から表に出てくるレナータ・クナウプの女性ヴォーカルが少年のようだ。異教的な男女ヴォーカルが絡み合い、ヴァイオリンが幻覚的な音響を描いていくのが、このバンドの魅力。
�� Two hours over two blue mountains with a cuckoo on each side, of the hours…that is [ Algaanas Traggard / Sweden ]
アルガ―ナス・トラッガルドは、スウェーデンのプログレ黎明期に登場。このバンドは 6人編成でゲストが4人という大所帯で、メロトロン、キーボードのほか、ヴァイオリン、チェロ、シタール、タブラにサックス２台が加わっている。 どんよりとした雲の立ち込めた北欧の空のような暗いサウンド。インストルメンタルが中心で、後のアネクドテンやアングラガルドなどに引き継がれていくスウェーデン暗黒プログレの原点である。どことなく民族的な香りも感じさせ、ユニゾンで迫るヴァイオリンと怪奇なまでに暗澹としたコーラスが独創的だ。
�� Movement for the common man / Styx [ Styx / USA ]
アメリカではスティクスが登場するが、これはカンサス、ジャーニー、ボストンよりも1〜2年早い。当初のスティクスはプログレ風味も強くて、この曲は13分以上あり、4つのパートからなる組曲風。ハード・ロックのようなヴォーカルから始まるが曲は複雑に変転していき、みごとなギターから、次いでパーカッションの乱打、キーボード・ソロから語り、効果音、そしてバラード。全くスティクスとは思えない複雑さだ。プログレ風に作るのは当時の世界的な風潮だったのだろうが、スティクスも当初はイエスのようなサウンドを目指していたのだという。
[次点] Carnival / Wind [ Morning / Germany ]
ウィンドはスティーブ・レイストナーをヴォーカリストとする 5人組で、キーボード奏者がいるほかに、ドラマーがメロトロンを弾く。当時のシンフォ・バンドにとっては、メロトロンはオーケストレーションを実現するための象徴的な楽器であった。このバンドはジャケットのドイツ人形の絵とともに、メロトロンの洪水バンドとして知られる。「エピタフ」のようメロトロンに乗せて始まるのは、男性的なおじさん声のヴォーカル。8分弱と長い曲であるにもかかわらず、ほとんど変転することもなく、ゆったりとしたメロディーと大仰なまでのドラマチシズムで迫り続ける。
〇そのほか、候補にした1972年のバンド
Germany:AshRaTempel,Epsilon,Eulenspygel,Frame,GuruGuru,Hoelderlin,Odin,Klaus Shulze,Parzival,Tetragon,Twenty Sixty Six and Then,
France:Sandrose,William Sheller,
Holland:Light,Pantheon,
Swiss:Brainticket,
Greek:Aphrodite’s Child,
Finland:Elonkorjuu,Haikara
Denmark:Midnight Sun,
Hungary:Illes,
Romania:Phoenix,
USA: Captain Beyond,Good Thunder, Grits, Providence, Space Opera, Sanctuary,
Ulguay:Genesis
Chill:La Congregacion,
Austlaria: Pirana 2
Israel:Jericho,
South Africa:The Hawk
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