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2022年07月02日16:18

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シュタイアー:『ゴルトベルク変奏曲』(J.S.バッハ)

【収録曲】

J.S.バッハ「ゴルトベルク変奏曲 BWV988」

アンドレアス・シュタイアー(チェンバロ)

録音:2009年7月
Harmonia Mundi HMC902058(セッション)


シュタイアーが弾く「ゴルトベルク変奏曲」を聴いた。CDのリリースは2010年4月。先日,内田光子が演奏する「ディアベッリ変奏曲」を聴いていてバッハの「ゴルトベルク変奏曲」を聴きたくなったのがきっかけ。そのとき,たまたま目に付いたのがシュタイアーのCD。このCDを持っている人たちの評価は,優れた録音のディスクであるということでおおよそ一致していた。

チェンバロの音がくっきりと聴こえてくるアルバムであることは間違いない。シュタイアーが目の前でチェンバロを弾いているようなCDと断言して構わないだろう。チェンバロ奏者はほぼ変奏ごとに細かく弾き方を変えていて,その様子を正確に捉えたレコーディングといえる。音像は想像していたよりも前方に定位していて,微妙なタッチの違いもクリアーに録音されている。そのためマイクのセッティングの巧みさよりも,チェンバロの弾き方のほうが「優れた録音」という印象に直結しているようだ。

このCDを聴き初めた頃から一貫して,「ゴルトベルク変奏曲」にしてはダイナミックな演奏にきこえる。まるでオルガンの奏法をそのままチェンバロに適用したような演奏だ。したがって,バッハが音楽の手ほどきをしたヨハン・ゴットフリート・ゴルトベルクが,不眠症に悩むヘルマン・カール・フォン・カイザーリンク伯爵のためにこの曲を演奏したという逸話には似つかわしくない響きの演奏といえる。そのエピソードとは反対に,伯爵の不眠症を悪化させかねないほどドラマチックな音楽に仕上がっている。

その理由は,シュタイアーがコントラストを重視して「ゴルトベルク変奏曲」を演奏しているからだろう。この曲の「静」と「動」を誇張気味に弾いているという趣旨だ。別の言い方をすると,「動」が基調の変奏曲では音量を大きくし,またテンポも速めている。演奏全体の印象は,どうやら「静」が支配する変奏に対し「動」が基調の変奏が優位に立っている。シュタイアーの演奏全体はどうしても喧騒に支配されがちにきこえる。さらに音像が前方に定位していることも,こうした印象を強めることに貢献しているのだろう。

残念ながらチェンバロの繊細な響きを鮮明に捉えたレコーディングとは言いがたい。チェンバロの弦が発する響きを電子顕微鏡で拡張したような録音とでも表現すればいいだろうか。もっと全体の調和を重視した演奏だったらと思わずにはいられない。
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