けんちゃんの朝顔の種

運転免許証更新のお知らせのはがきが来ていたので、慌てて近くの警察署に手続きに行った。
私は車を持っていないし、運転もしないのでペーパーゴールド免許。
講習時間も30分足らずと短い。
幸いすぐに講習の順番が来て、ラッキーさっさと終わらせて帰ろうと思っていたんだけど
ここで見せられた交通事故のDVDでメンタルアタックを受けた。

昔のこの手のビデオだと、車に乗せた人形が衝撃で飛び出すだとか
実際の交通事故現場の写真だとかそういうのだったんだけど
（もちろんそれだって恐ろしかったのだが）
今はあれがある。「ドライブレコーダー」というものが。

このレコーダーに記録された、本物の事故の経緯の映像を使うものだから恐ろしさがもう倍どころではない。
ドライバーの事故直前のうわぁぁぁ！！！という焦り、驚愕、はねられる直前の人の戸惑い、後ろの確認もせず鋭角でギャンと曲がってくる自転車の恐怖。
ただのDVDとわかってても、臨場感がハンパなく危ない！！アブナイぶつかるーーー
！！！と自分まで焦るので心臓に悪い。

そして、当時小学校一年生の男の子（けんしんくん）を交通事故で亡くされたお母さんのインタビュー。
なんでもない普通の交差点、青信号で渡っていた息子に右折のトラックが突っ込んできた。
事故を知らせる先生の声が叫んでいたこと、自分も何も考えられず息子のもとへ走ったこと。
そしてすべてが終わった後家を片付けていると、玄関の鏡餅の台座の中から息子が育てていた朝顔の種が出てきた事。
ちょっとしたいたずら心だったんだろうな。
それを学校の先生に渡すと、けんちゃんの朝顔として皆で育ててくれて
それがきれいな花を咲かせて
いやもう駄目です…。
子供に先立たれたお母さんの壮絶な悲しみ苦しみ、それを自分の中に受け入れて、このインタビューで彼の事を少しでも知ってほしくて、同じ悲しみを味わう人が少しでも減ってほしくて語っているんだと伝わってしまい
汗を拭くふりして涙を拭いた。
つらい。
私はもう運転することはないだろうけど、もしそういう機会が来たならもう一度教習所に通おうと思う。

抑止力としては十分すぎる映像だったけど、やっぱりつらすぎる。
けんちゃんの朝顔の種は、交通事故防止の願いを込めてイベントなどで配られているそうだ。
けんちゃんの朝顔がいろんなところで咲いて、けんちゃんのことを皆がすこしづつ思い出すことでお母さんの心も救われているのかもしれない。
そうであってほしい。