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2022年05月25日16:49

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旅路の風景

東京富士美術館で開催中の“旅路の風景”に行きました。
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チケットは母の友人から招待券を頂きました。2枚頂いたので、母が途中参加で合流したのですが、合流した第一声が「お茶飲む?」だったのに驚きました(^_^;)。「全部観たの?」と訊いたら、「全く観ていない。」と。おい、何しに来た!(苦笑)
でも、小声で私が拙いながらも説明したら、結構面白く観てはくれたようです。広重が気に入ったらしい。

テーマを決めて、新版画と江戸の錦絵を同時に観る。ありそうでなかった企画かも。江戸錦絵は絵師も職人だったのに対し、新版画だと芸術家になっていく過程も面白かった。江戸期は庶民が興味のある題材…名所やグルメ等…だったのが、新版画になると「自分が興味があるもの。こと。」に移るんですね。自分が何を表現したいかになる。実験的な技法を使ってみたり。その点も分かって面白かった。

写真撮影がOKだったので、写真も撮ってきた。てか、これ、全部東京富士美さんの収蔵品なんですね。広重と北斎は保存状態にバラつきがあったとはいえ、揃いで持ってるの凄いね。

江戸時代。庶民は今のように気軽に旅行は出来なかったけれど、寺社詣で等、遊びではない旅ならOKだった。山岳信仰もあり、山も人気。で、スタートは葛飾北斎の『富嶽三十六景』から。

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“隅田川関屋の里”。馬の疾走感をスピード線のようなモノで表している。遠くに赤い富士。

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“駿州江尻”。強風で舞う懐紙。笠を押さえる人々。ストップモーションのように描かれる。

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“東海道金谷ノ不二”。大井川。人足が人や荷物を運ぶ。江戸期の大井川は架橋や渡船が禁止だった為、そうやって運ぶしかなかったらしい。波の点描表現も面白く、波の荒さも良く分かる。

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“甲州石班沢”。鰍沢。岩の先に立ち網を打つ漁師。その横では息子が魚かごを見張っている。急流なのも良く分かる。漁師と富士の三角形が呼応する構図。

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“神奈川沖浪裏”。富嶽といえばこれ!北斎といえばこれ!な人も多いかと。超有名な大波の絵。大波に翻弄される押送り舟。良く観ると、舟には人が必死にしがみ付いている姿が描かれている。奥には小さく富士山。これも波と富士、三角形が呼応してるね。

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“江戸日本橋”。蔵が川の両側に並ぶ。画面下には日本橋を往来する人々が描かれる。奥には江戸城。遠近法を大胆に使う。今で言う3D効果よね(笑)。

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“甲州三嶌越”。私のお気に入り!大きな木を旅人同士が手を繋ぎ、ぐるりと囲んで円周を測っている。きっと誰ともなく言ったのだろう。「大きいねぇ。」「じゃあ、いっちょ測ってみるか!」これ、人物の表情も仕草も良いの。アップで撮って来ちゃったけど。単眼鏡でじっくり観て欲しい。

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“本所立川”。木挽きする人。沢山の材木の向こうには富士山が観える。左では、凄い高さから材木を投げてる人がいるが、これ、危なくない?下の人、受け取ろうとしてるけど、大丈夫?

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“尾州不二見原”。大きな桶を作る職人。その輪から観える小さな富士山。これ、○と△というデザイン性もあるんだそうな。

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“穏田の水車”。原宿、表参道、代々木辺りの景色。水車がくるくる回る川は、なんと今は殆どが暗渠になってしまった渋谷川!亀に紐をつけ、散歩してる子供もいる。お洒落タウンにもこんな長閑な時があったんだねぇ。水の描き方がちょっと生き物っぽくも見え面白い。

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“五百らかん寺さゞゐどう”。螺旋状の回廊が栄螺のように見えたので、さざえ堂と呼ばれた場所。「あ、富士山!」と指を指す人、座って休む人、富士山ガン観する人。様々。私のお気に入り。のんびり感が伝わってくる。

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“凱風快晴”。これも超有名!通称「赤富士」。凱風とは初夏に吹く南風。赤茶の富士。樹木は点描のグラデーションで表現され、印象派っぽくも見える。

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“山下白雨”。私は赤富士より、こっちの方が好きなのよ!な通称「黒富士」。白雨は夕立のコト。右下に入る稲妻の恰好良さな!でも富士山は高い山なので、頂上の方は晴れてるのね。これで山の高さも分かるという仕掛け。下は黒々として嵐の予感…。北斎ってデザインセンスが抜群なんだろうね。

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“江都駿河町三井見世略図”。三井呉服店が見える。今の三越デパートか。『現金掛け値無し』の看板がある。定価販売ってコトらしい。これで商売が大成功した三井呉服店。屋根には瓦職人が瓦を放り投げているが、これも、前述の木材同様危なくないか?しかも、これ、受け取ってる人も屋根の上だよ?足滑らない?凧も見える。

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“諸人登山”。唯一の「富士山、現場からお伝えします。」の絵。観る富士ではなく、登る富士。登り疲れたのだろう、ぐったりする人(アップで撮って来ちゃった)。右上の石室は休憩所らしく、めっちゃ密!人みっちみちじゃん…。道に雲がかかっているので、かなりの高さなのも分かるね。

次は歌川広重の『東海道五拾三次』参勤交代で街道や宿場が整備され、宿場町が栄える。その宿場をピックアップしました!ってコトか。

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“神奈川 台之景”。右端で茶屋の女が旅人の手を引き店に入れようとしている。店は海側に見晴らし台があるので、「茶屋を利用すると絶景が観られますよ!」というコトだね。今で言う映えスポット。建物の重なり方が立体的ではないので浮遊感もある。

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“戶塚 元町別道”。道標には『左かまくら道』とある。看板には『こめや』の文字。このこめやさんは、旅籠らしい。『大山講中』等の団体名があるので、どうやらここは、講中指定の休憩所でもあるようだ。馬からヒラリと飛び降りる男性が恰好良い。

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“箱根 湖水図”。私が「色彩セザンヌ」と呼ぶ広重の絵。山の色合いとモザイク加減が、セザンヌっぽくない?大名行列が坂道を行く。

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“原 朝之富士”。広重も富士山を描いたよ!北斎が富嶽〜を描いて成功したので、それに触発されたのでは?と解説にあった。朝焼けに雁が飛んでるのかな?広重の富士山は情緒的だね。

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“府中 安部川”。女三人が川を渡っている。1人は渡し人足に背負われ、1人は駕籠のようなモノに乗り、1人は板のようなモノに乗っている。これ、確か料金が違うらしいの。おそらく1番高いのは駕籠タイプで、安いのは人足に背負われるタイプなんだと思う。駕籠タイプに乗ってるのは、お金持ちの奥さんなんじゃないかな?他2人は侍女とか女中さんとか。自分で歩いて川を渡ってる人もいるし、馬に荷を乗せ運んでる人もいる。

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“袋井 出茶屋ノ図”。屋外休憩所で大きなヤカンを吊り下げ湯を沸かしている。ヤカンは使い込まれ下の方が赤茶色。立札に鳥もとまってる。因みに左で休憩してる人は飛脚と解説にあった。一服中なんだね。

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“御油 旅人留女”。女性の客引きを留女というらしい。その留女に荷物を掴まれ「ぐえっ!」ってなってる男性(笑)。その後ろでも捕まってる人がいる。その様子を宿の中から「あらら〜」と眺める女性。宿には宿泊を決めたらしい足を洗う男性の姿も。
小さい中に、この表情をきちんと彫れる彫師の神業も観て欲しい。私、この絵が大好きで、母に解説したら楽しそうに笑ってた。

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“宮 熱田神事”。赤い有松の袢纏の人達と藍染の袢纏の人達が馬を走らせ競争している。これは熱田神社の神事らしい。鳥居のぶった切り感も凄いね。視点が面白えと思う。

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“四日市 三重川”。右で強風に飛ばされぬよう、橋をそろそろと歩く男がいる。身がすくんでいるのが分かる。左には風で飛ばされた笠を追いかけ走って行く男。草も柳も風で大きく揺れる。広重には珍しく風の動きを見せた図と解説にあったかな。確かに広重ってストップモーションタイプで、動いてる感じのする絵ってあまりないかも。

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“庄野 白雨”。白雨は夕立。急ぎ足で雨の中を行く駕籠かき。急坂を笠を押さえ腰を屈め、足早に通る人。雨にけぶる様子は灰色のぼかし。森は灰色のシルエット。雨の様子も灰色の濃淡で表す。雨というと広重の絵を思い出す私。雨の表現が多彩だなと思う。

因みに。広重の東海道〜の絵。リアルなのは三島までで、後は想像で描いたんじゃないか?と解説にあった。今みたいにすぐに京都に行けるわけではないもんな。絵の中に“ヒロ”の文字(広重のヒロね)をデザインした手拭や暖簾や提灯等も出て来て、この辺り、広重のユーモアも感じた。

江戸期は大名行列が絵の中に良く出て来るなと思った。あとは川ね。日本って本当に川が多くて、舟は重要な交通機関だったのが分かる。

次は近代の新版画。まずは川瀬巴水。巴水は1883年生まれで、25歳で画家になった。岡田三郎助門下になる。ってコトは最初は洋画家だったんだね。27歳で鏑木清方門下に。渡邊庄三郎と出会い新版画の道へ。巴水は旅大好きで、広重の影響を指摘されたりするらしいんだが、挿絵画家の小林清親の影響も受けたんだそうな。色々ブレンドミックスだね巴水さん。面白い。因みになんでもスティーブ・ジョブズも巴水が好きだったんだって。

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“加賀八田”。水面の映り込みの表現が凄い。左には虹も。灰色ぼかしは広重風味かも。

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“雨の午後”。水に映る蔵が結構おどろおどろしくないか?何か出てきそう…。神秘的な感じもする。

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“馬込の月”。空に月。シルエットの木と家。家の窓には明かりが灯る。この三本松は当時の馬込のランドマークだったらしい。私のお気に入り。夜を表現した深い群青色が本当に美しいんだ。

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“土浦の朝”。朝もやの情景だろう。グラデーションで霞ませている。

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“大坂宗右衛門町の夕”。パキッとした黒と明りのコントラストが恰好良い。

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“飛騨釜ヶ嶽”。夕焼けなのだろうか?空のピンク色が印象的。川(湖?)もピンクに光っている。

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“金剛山三仙巌”。ゴツゴツとした岩肌。朝鮮半島東部を縦断する太白(テベク)山脈の名峰で、奇岩の風景が楽しめる場所らしい。

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“朝鮮慶州臨海亭”。夕日の表現が美しい。やはりちょっとピンク色なのね。

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“水原華紅門”。夜の静謐さを感じる。

次は、吉田博。1876年生まれ。15歳で洋画家吉田嘉三郎に才能を見込まれ養子になる。23歳でアメリカへ。版画家になったのは49歳の時。版画家になったのは随分後だったんだ!西洋絵画の風景表現と日本の伝統的木版画を融合させた。

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“吉田村”。立体的でどっしりした富士山。写実表現と独自に習得した自摺の精巧な技法を用い表現したと解説にあった。ちょっと洋画風かな?

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“光る海”。ダイアナ妃がケンジントン宮殿の執務室に飾っていた絵。吉田博は海外にもファンが多い。マッカーサーも好きだったんだっけ?日本に来た時「ヒロシヨシダは何処にいる?」と言ったとか。
日暮れの海かな?煌く水面、2隻の帆船がゆったり進む。モネみたいだね…と思ったら…

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“帆船”。時間ごとの変化がある帆船連作。モネじゃん!モネの積み藁じゃ〜ん。朝、午前、午後、霧、夕、夜。私は霧が1番好きかなぁ。

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“竹林”。暗い竹藪内。でも、外に見える風景は明るく陽が差している。この明暗の対比が恰好良かった。竹藪には鶏とひよこもいて可愛らしい。

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“カンチュンジャンガ 午後”。シュエダゴン・パゴダ。陽光で赤く色づく金塔。

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“サンチの門”。柱はそれほど細かく彫ってはいないんだね。なのにとても立体的に見える。色彩の妙なのかなぁ?
私は吉田博氏の海外シリーズは、やっぱりアジアが1番好きと再確認。面白い。

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“神楽坂通”。夜の闇の中、光る提灯の明りや窓の明かり。とても幻想的な1枚。水面にゆらゆら揺れる景色も幻想味に拍車をかける。

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“渓流”。画像だと分からないと思うが、とても大きな版画で吃驚した。これをよく色ズレを起こさずに摺ったな!
大きいと和紙の収縮率の計算が大変で、色ズレを起こしやすいらしい。迫力ある波の描写も凄い。これも洋画っぽいかも。

こんな内容の展示でした。前述もしたが、版画家が職人からアーティストになっていくのが面白かったな。

最後に版木&版画の道具の展示があった。
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アートシアターでは、摺り師のインタビューも観られて、それも楽しかった。

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フォトスポットが作ってあった。広重の絵の中に入れてしまう。

おまけ。東京富士美の新収蔵の版画たち。
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歌麿の“咲方ヶ言葉花 おちゃっぴぃ”。可愛らしい仕草の女性。お茶目さんってコトかな?他にも数点歌麿が所蔵になった。おひさちゃんもいたよ。

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恰好良い歌川国芳の絵。謎の怪獣(笑)はワニかしら?

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広重の“名所江戸百景 深川洲崎十万坪”。鷹が画面上空からグワッとくる恰好良さよ!他にも数点名所江戸百景が収蔵になった。
富士美さん、今は錦絵の収蔵に力を入れてるのかしらん?

今回は収蔵品展なので図録はなし。なので、ポストカードを14点ほど購入。1枚税込100円で安かったんですもの。

版画好きな方、風景画好きな方は行くと楽しめると思います。旅好きも楽しいかも。6月5日までやっています。

終盤ついに母が「何か飲みたい。いつ休むんだ。」しか言わなくなってしまった為、カフェに寄って、あんみつセットを食べました。母奢ってくれたケドな!
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