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2022年05月20日03:42

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バカンス

アパートががらんとしていて、隣人たちがいない。会社勤めの人たちも、2〜3週間のバカンスに出かけているのだ。

2017年に発表した記事です。

ドイツから見ると「働き方改革」は不十分

私は1990年から、ドイツで働いている。本稿を執筆中の2017年で、27年目だ。ドイツに来るまでは、8年間NHKの記者として働いた。この結果、日本とドイツが最も異なる点の1つは、サラリーマンの働き方であることを知った。

*法律により労働者を「多重防護」

ドイツのサラリーマンは、日本のサラリーマンよりも、法律によってがっちりと過重労働から守られている。1日あたり10時間を超える労働や、日曜日、祝日の労働は禁止されており。経営者は、最低24日間の有給休暇を社員に与えることを義務付けられている。今日では大半の企業が30日間の有給休暇を与えている。しかも有給休暇の消化率はほぼ100%だ。大半の企業は労働時間や休暇に関する義務を厳密に守っている。監督官庁がしばしば抜き打ち検査を行い、法律に違反していた経営者は罰金を科される。ドイツの勤労者の2015年の労働時間は1371時間で、日本(1719時間)よりも大幅に短い。ドイツでは、休むこと、家族と一緒に時間を過ごすことが、働く者の当然の権利として認められている。
ドイツで過労死や過労自殺が社会問題になっていないのは、そのためだ。経済協力開発機構(OECD)によると、ドイツの人口10万人あたりの自殺者数〈2013年〉は10.8人で、日本(18.7人)よりも42%少ない。
一方おもてなし大国日本では、「お客様優先主義」がドイツよりも強い。このため、法律の強制力がドイツよりも弱い。大半の企業が、社員の健康や自由時間よりも、顧客サービスや目標達成を優先させてきた。2015年の有給休暇の消化率は約50%で、ドイツの半分だ。
だが2016年に、日本でも働き方をめぐる潮目が変わってきた。政府が残業時間を制限し、多くの企業が労働時間の短縮へ向けての努力を始めた。そのきっかけは、大手企業で働いていた24歳の女性の過労自殺だった。
2016年10月に、三田労働基準監督署は、「広告代理店・電通の社員だった高橋まつりさんの自殺は、長時間の過重労働が原因だった」として、この自殺を労災と認定した。高橋さんが2015年12月に自殺する直前の1ヶ月(10月9日から11月7日)の残業時間は、約105時間に達していた。
高橋さんはツイッターで何度も長時間労働の苦しさを訴えていた。わずか24歳の女性が、そのまま生きていれば体験できたであろう様々な幸福を味わうことなく、自らの命を絶った。私は彼女を死に追いやった上司、企業と社会に対し、強い怒りを抱いた。東大を卒業して大手企業に入社した彼女は、社会人になってから親孝行をしたいと考えていた。その義務感の強さも、彼女を過労自殺へ追い込んだのだろう。
もしも高橋さんが、2015年に日本の企業ではなく、ドイツ国内に存在し、同国の労働法が適用されるドイツ企業に入社していたら、命を絶つことはなかったに違いない。ドイツでは、大手企業が月100時間を超える残業を許したり、2時間しか眠っていない社員に労働をさせたりすることは、あり得ないからだ。そんなことをする企業は、監督官庁によって摘発され、優秀な人材から敬遠される。ドイツ企業では、長時間労働をしなくては結果を出せない社員への評価は、低くなる。残業をしないで結果を出す社員が、高い評価を受ける。この点でも、日独は正反対である。
しかも日本ではこれだけみんなが頑張って働いているのに、労働生産性はドイツに比べて約36%も低い。ドイツ人は日本よりも短く働き、長い休暇を取っているのに、1人あたりの国内総生産(GDP)が日本を上回るほか、経済パフォーマンスは絶好調である。
私は、余りにもスタートが遅かったとはいえ、日本政府が働き方を改革しようとしていることを前向きに評価する。だが、日本は法律や契約よりも、対人関係や顧客への配慮を重視する社会だ。ドイツのような純然たる契約社会ではない。このことを常に意識しないと、法律の抜け穴が作られて、結局例外措置として長時間残業が可能になるシステムが作られると思う。ドイツでは、しばしば「法律で決まっているから仕方がない」で議論が終わるが、融通無碍な国・日本では、そうはいかない。

*「働き方改革」合意は不十分

実際、政府が鳴り物入りで始めた「働き方改革」は、骨抜きにされた。2017年3月に労使は、残業時間の規制強化について合意した。これまで、労使が三六協定を結べば、年間残業時間は事実上無制限だったが、今回労使は初めて年間残業時間に720時間という上限を設定した。だがこの合意には抜け道が作られている。たとえば繁忙期には「休日労働を含んで、単月で100時間未満」、「休日労働を含んで、2ヶ月ないし6ヶ月の平均が80時間以内」の範囲で残業が許される。また年間720時間という上限には、休日労働も含まれていない。1日あたり10時間を超える労働を禁止するなどの、抜本的な措置は取られなかった。
厚生労働省の「脳・心臓疾患の労災認定」という文書は、過労死を誘発する過重労働の目安として、「発症前1ヶ月の時間外労働が100時間、発症前2ヶ月ないし6ヶ月にわたって、1ヶ月あたりおおむね80時間を超える場合、業務と発症の関連性が認められる」としている。これらの数字が、いわゆる「過労死ライン」だ。
労使合意の中の「一般的な業務量増加時の上限月100時間」は、過労死ラインである。この時間数は、高橋さんが自殺する直前の1ヶ月の残業時間よりも5時間少ないだけである。経営者は、「残業時間がこの上限を超えさえしなければ良い、たとえば99時間なら法律違反にならない」と解釈することも可能だ。
本当に労働者の健康を守るという意思があるならば、過労死ラインで線引きをするのではなく、繁忙時でも残業時間の上限をもっと低く設定するべきだった。ドイツの労働時間規制に比べると、はるかに甘い。本来はドイツのように、1日の労働時間に厳しい上限を設けるべきだった。

*病欠には6週間まで給与を支払う
さらに、今回の合意が病欠期間の問題を取り上げなかったことも、大きな問題だ。日本では、病気やけがのために会社を休む時に、病欠にはせず有給休暇を取るのが普通になっている。大半の会社では、病欠期間、休職期間に給料は支払われないからだ。
これに対しドイツでは、病気になった時に有給休暇を取ることは、あり得ない。「給与支払い継続法」という法律によって、病欠期間には最長6週間(30日間)まで、働いている時と同額の給料が支払われる。もちろん社員は、「病気やけがによって就労不能」という医師の証明書を会社に提出しなくてはならない。
6週間が過ぎると、公的健康保険が最高78週間まで「病気手当」を支払う。その額は、病気になる前に受け取っていた給料の70%である。ドイツ連邦政府によると、2014年には約180万人の市民がこの病気手当を受け取った。
私の知り合いのドイツ人の中にも、スケート中に転倒して足の骨を折ったり、森の中でジョギングをしている時に、野ウサギが掘った穴に足がはまり込んで骨折したりしたために、数ヶ月にわたり会社を休んだ人がいるが、みな最初の6週間は会社から給料を受け取っていた。法律が定めている当然の権利なので、「会社に対して申し訳ない」と感じている人はいない。病気やけがで長期間にわたり休んでも、正当な理由があれば経歴に悪影響を及ぼすことはない。

*労働についての意識改革が先決

日本はGDPが世界第3位の豊かな国である。私は、病気になった時に有給休暇を取らなくても良いように、一定期間の病欠についてはドイツのように給料を払うべきだと思う。そうでないと、結局多くの社員たちは「病気になった時のために有給休暇を残しておこう」と考えるので、有給休暇を消化しない。これも、日本の有給休暇消化率が低いことの大きな原因の1つである。
私は今回の改革について、政府が国民に対し「対策を取っている」ことを示すためのジェスチャーにすぎず、本質的な改革ではなかったと考えている。政府は労働者よりも企業の利益を優先させた。今後も「月100時間未満」の抜け道が使われて、長時間残業は後を絶たないだろう。高橋さんの母親も、今回の合意内容を厳しく批判している。
私は、これ以上長時間残業による犠牲者を出さないためには、法律を変えるだけでは不十分だと思う。社会全体で、労働に関する考え方を根本的に変えない限り、「働き方改革」は成功しない。



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