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2022年05月07日19:53

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『鎌倉殿の13人』第17回「宿命と助命」

 鎌倉へ遣わされていた木曽義仲の嫡子・義高の顛末について、掘り下げて記述される機会はあまりないと思う。せいぜい父親の没落の余波として、言及される程度であろう。しかし、この後の鎌倉における御家人同士の暗闘について読み解いていこうとするならば、この時期、平氏の都落ちと義仲の没落と一の谷の戦いの後、屋島と壇ノ浦の間のメイン・エピソードとして扱う価値の十分にあるとわかってくる。歌舞伎界の御曹司を招いただけのことはある納得の展開といえる。

 そもそも頼朝からして、平清盛や大庭景親などが自分へ施した恩義についてことごとく仇で返してきた人物である。甘い顔をするはずがない。ところがここで厄介なのは、あの頑固でおよそ理屈の通じない御家人たちが、どういうわけかそろって義高には同情しており、表立って頼朝の意向に逆らいはしないにせよ、誅殺には消極的なのだった。
 義高と親しく接していた奥の人たちはごっそり彼の助命に傾いている。この件については、ひどく頼朝の分が悪い。結果として、義高を遠くに匿ってほとぼりがさめるのを待つという案が選択され、実行に移される。逃亡にあたっては、女装もさせる。つまり、第1話の冒頭のシーンが重ねられる。
 以前の似たようなシーンを踏まえつつ今回はどちらへ転ぶのか緊迫感を高めるという手法は、意識して採用されていると思う。長丁場になる大河ならではの構成といえる。

 駆け落ちっぽいから政子かなあ、にしては義時の言葉遣いがちょっと違うようなからの、背負っていたのは頼朝でしたというあのオチは、単体でみると大河の語り起こしとしてもやや強引さが否めなかったけれど、リフレインの素材としてならば、また別の重みを伴ってくる。大泉洋の女装はコメディよりになるけれど、市川染五郎の女装は歌舞伎っぽさも手伝ってか(彼は女形ではないだろうけど)、なかなか堂に入っている。とりあえず、鑑賞に値するレベルまで到達している。
 あの時は、すんでのところで大庭景親が割って入って仲裁し、まずまず円満解決に落としこんだけれど、今度はどうなるのか。

 一方、はじめ義高は頼朝のように自分は父の敵を忘れないから、ここで首を打てと申し立てていた。いかにも一本気なあの父親の息子らしい物言いである。なんとか彼を助けようとする周囲と頼朝の対立を際立てる効果も上げている。
 しかし、ここで巴が義仲から託された書状を届けてくる。ちょっと横道にそれると、元ネタでは義仲は巴と別れるにあたって、「死んだ時に女がそばにいると外聞が悪いから」というけっこう酷な理由を告げている。義仲と最後まで行動をともにしたのは、乳母の子ども、いわゆる乳兄弟であって、物心ついた時からずっといっしょにいた仲である。当時、それなりの身分以上の家では実の親が育てることはないから、血のつながった兄弟よりも、よほど彼らとの心情的な結びつきは強い。互いに、そして、まわりも死ぬ時まで同行する関係だと思っている。巴とはそこまでの関係ではないという、線引きなのだった。もちろん、死なせないためにそういう言い方をしたという解釈もあるけど、いずれにせよそんなにすっきりするやりとりではないのである。
 三谷幸喜はそこで、義仲が彼女に義高への言伝を頼んだということにした。おもしろい処理だと思う。

 そこで義仲は、かかる成り行きへ至ったけれどもあくまで頼朝に従って平氏を滅ぼすべしと言っており、義高はそれを受けて生きる道を探ろうとする。ここで官位の叙任をめぐる頼朝と武田信義の軋轢があり、そこから義高にすりよってくる信義の動きもあって、いかにも欲得づくのいやらしさが先に立つあちらの界隈と木曽父子の超然ぶりの対比が鮮やかである。

 なんとか義高を逃そうとする彼の周囲と、保身のためや褒美目当てであくまで捕らえようとするそれ以外の動きが交互に描かれ、事態は次第に緊迫していく。さらには義高自身の思惑も重なって、より混迷の度を増すのだった。

 大人たちがいくら立ち騒いだとて、考えを変える頼朝ではなかったが、大姫が自分の首に刃を当てて迫ると、さすがに折れて義高の助命を認めた。子役の華奢さからの大胆すぎる行動が印象的なシーンだったけど、予告映像の中には入れない方がよかったのにとは思う。もう17話、通常の民放ドラマならとっくの昔に終わっているところまで進んでいるのだから、ここまで見た層はほぼ最後まで付き合うだろう。別にインパクトのあるカットで引っ張る必要はなかったはずである。

 結果については、さすがに史実は変わらないので、あの通りである。しかも、言いがかりのように武田信義の嫡男、一条忠頼は義高との関係を追及され、誅されている。冒頭で頼朝は、ようやく義仲を滅ぼしたから次は義高と武田信義だと明言していた。すでに義高を片付け、その手は信義の間近に迫っている。ほぼ首には手がかかっているといっていい。傍目には味方のようでも、潜在的な敵を事前に見極め確実に葬っていく頼朝の辣腕ぶりには凄みがある。とても、逃れられそうにない。
 最後、信義が自分は頼朝の臣下になったつもりはないと叫んでいたけど、たしかによくわからないうちに反平氏勢力のトップになりおおせているのは不思議である。田中角栄とその側近たちが、ある小さな集団の中で主導権を握ってその集団そのものを意のままに操り、その集団が属しているより大きな集団も同様の手法でまた動かして、それをくり返せば実勢の数倍の勢力を率いることができるとうそぶいていたそうだけど、となると、信義あたりは田中派全盛のころに、保守本流を自認しつつも逼塞していた宏池会のようなものだろうか。
 八嶋智人を起用しただけあって、最後まできっちり描かれることになりそうな信義であった。

 あと、なにげに工藤祐経に付きまとっては石を投げたりしている幼い兄弟がいたけど、あれが曽我兄弟なのだろうか。あんなに小さいころからあの調子では、それがガス抜きになって大人になってからあらためて仇討ちしようという気にはなりそうもないというか、思春期をすぎたあたりで黒歴史にして記憶を封じこめてしまいかねないのだけれど、どう転ぶのだろう。

 終わってみれば、ひどく陰鬱で血なまぐさい回だった。まあでも、基本的にそういう話ではある。

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