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2022年04月29日17:35

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「戦争は女の顔をしていない」その6

「しきたりと生活」の章

中尉(一等飛行士)
「こっけいなことはたくさんあった。軍規、しきたり、階級章とか、
そういう軍隊にしかないややこしいことはなかなか身につかなかった。
飛行機の見張りに立っていたときのこと。軍規では誰かが近づいてきたら
「止まれ、だれだ?」と止めることになっているが、私の友達は
「止まってください、だれですか?失礼ですが止まってくださらないと撃ちますよ」
って指揮官に向かって叫んでいた。想像できる?
「止まってくださらないと撃ちますよ」って、うふふ…」

上級中尉(外科医)
「一か月かかってウクライナの第二戦線第四軍にやっと着いた。
医長が出てきて私たちを眺めると、手術室に連れていった。
負傷者を乗せた衛生班のトラックが次々に到着し、負傷者は地べたに横たわっている。
誰を先に受け入れますか?と聞いたら「黙っているやつ」と言われた。
1時間後には自分の受け持ちの手術台で手術をしていた。
何日も何日も手術を続け、ほんのわずか仮眠して、顔を洗うとまた手術台へ。
全員を助けるには手が足りない。三人にひとりは死んでいった。」
「終戦の日はウィーンで迎え、動物園に行った。
ナチの強制収容所に行くこともできたんだけど、あのときは嫌で行かなかった。
何かうれしいことこっけいないこと、別世界のものが見たかった。」

野戦衛生部隊
「到着した先ではライフルをくれるのでなく、大釜や洗い桶のところに行かされた。
女の子たちはみな同い年くらい、甘やかされ大事に育てられてきた。
それが突然、薪を引きずったりペチカを焚いたりその灰で大釜を洗ったり。
石鹸なんか届いたとたんにすぐになくなってしまう。
下着は汚くてシラミだらけ、血みどろ。冬は血で重くなった。」

上級軍曹(衛生指導員)
「初めて世話した負傷者をまだ覚えている。大腿部の骨折で骨が突き出ていた。
破片で裂けた傷口がぱっくり開いていた。吐き気がした。
そのとき負傷者が「看護婦さん、水を飲んだら楽になるよ」と言うのが聞こえた。
同情してくれている。これじゃツルゲーネフのご令嬢もいいとこね!」
「今の戦争映画で看護婦が清潔な恰好で出てきて、綿入れズボンもはいてなくて、
スカートに軍の略帽をななめにかぶっているけど、あれは嘘。
あんな格好で負傷者を引きずってくることなんかできない。
実際は戦争が終わるころにやっとよそ行きとしてスカートが支給されたの。
男性ものでなく女性ものの下着をもらったのもそのとき。
うれしくてどうしていいかわからなくて、下着が見えるようにボタンをはずしてた。」

看護婦
「戦闘は夜中に終わった。朝には雪が降った。
亡くなった人の体が雪に覆われて、「助けて」と言うように空に手を伸ばしていた。
幸せって何?と聞かれたらこう答える。
殺された人ばかりが横たわっている中に生きている人を見つけること。」

衛生指導員
「1942年12月25日、わが師団はスターリングラードの進入路にある高台を占拠。
ドイツ軍はなんとしてもそこを取り返そうとしたけど、こちらの砲兵隊が阻止した。
ドイツ軍が退却したあとに砲兵中尉が倒れていた。
救い出そうとした衛生兵たちも衛生部隊のシェパードも殺されてしまった。
わたしは帽子を脱いで立ち上がり、当時人気のあった歌を歌った。
最初は小声で、それから声を張り上げて。敵も味方も静まり返った。
私は中尉を橇に乗せて引きながら「どうせ撃つなら頭を撃って」と祈った。
今、今やられる、今が最後、痛いんだろうか、ああ、お母さん!
とうとう一発の銃声もならなかった」

二等兵(射撃手)
「戦争で一番恐ろしかったのは、男物のパンツをはいていることだよ。
これはいやだった、うまく言えないけど。
祖国のために死んでもいい覚悟をして、はいているのが男物のパンツ。
こっけいな恰好、ばかげてて間が抜けている。
男物のパンツは長くてがばがばでつるつるの生地で、夏も冬も4年間!
ソ連国境を越えたらポーランドで新しい衣服が支給された。
はじめて女物のパンツとブラジャーがもらえたんだ。戦中通してはじめてだよ!
ハハハ!どうして笑わないのさ?泣いているのかい、どうして?」

二等兵(衛生係)
「自分の心がどうなるかなんてわかるものじゃない。
冬にドイツ人捕虜が連れていかれるのに出くわしたとき、みんな凍えていた。
穴の開いた毛布をかぶって焼け焦げた軍外套を着ている。
鳥も飛びながら凍え死ぬほどの寒さだった。
捕虜の中に少年の兵士がいて、ほほに涙が凍り付いていた。
私は手押し車で食堂にパンを運んでいたんだけど、その子の目が釘付けになってた。
私はパンを一個とってその子にあげた、その子は受け取った。
信じられない…うれしかった…憎むことができないことがうれしかった。
自分でも驚いたわ。」
(以上引用)

あとでも出てくるが、男物の下着で生理をすごすのはつらかったようだ。
長い下着を伝って足元まで血が流れ、凍って足を切る。
上司に理解がなく「1日2枚」の下着も支給されない場合もあった。
捕虜にパンを与えるシーンで、普通のパンをつい考えてしまうが、これは戦争中だ。
前の章に出てきた「小麦粉なんかほとんど入ってない、水っぽいパン」だと思う。
それでもパンはパンだ。戦場でも人間が人間らしいこともあるのと同じに。


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