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2022年04月10日10:37

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『英雄の証明』感想

〜「別離」「セールスマン」でアカデミー外国語映画賞を2度受賞するなど世界的に高い評価を受けるイランの名匠アスガー・ファルハディが手がけ、2021年・第74回カンヌ国際映画祭でグランプリを受賞したヒューマンサスペンス。SNSやメディアの歪んだ正義と不条理によって、人生を根底から揺るがす事態に巻き込まれていく男の姿を描く。イランの古都シラーズ。ラヒムは借金の罪で投獄され、服役している。そんなある時、婚約者が偶然17枚の金貨を拾う。借金を返済すればその日にでも出所できるラヒムにとって、それはまさに神からの贈り物のように思えた。しかし、罪悪感にさいなまれたラヒムは、金貨を落とし主に返すことを決意する。そのささやかな善行がメディアに報じられると大きな反響を呼び、ラヒムは「正直者の囚人」という美談とともに祭り上げられていく。ところが、 SNSを介して広まったある噂をきっかけに、状況は一変。罪のない吃音症の幼い息子をも巻き込んだ、大きな事件へと発展していく〜<映画.comさんより>

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アスガ―・ファルハディ監督作は劇場でしか観たくない。
あの独特の空気感は劇場でしか堪能できない。
県内で観られるはずだったのに、公開2週目にして、夜のみの上映になってしまい、なんと、この作品のためだけに遠出して、銀座へ。。。いやはや。

それはさておき、ご存じの方もいらっしゃるかもですが、この作品に盗作疑惑が。
2014年に彼が講師を務めたテヘランのドキュメンタリー映画製作講座の女性受講者が、自身の課題作品と設定が酷似していると主張し、訴訟合戦に。

ファルハディの盗作が認められた場合『英雄の証明』が上映・配信で得た収益はすべて女性側に渡すことになり、ファルハディが投獄される可能性も。一方、女性受講者が虚偽告発と名誉棄損で有罪になれば、最長2年の実刑や74回の鞭打ち刑もありうる

『英雄の証明』の盗作訴訟でファルハディ監督に有罪判決。教え子のマシザデさんのドキュメンタリーの主要要素を盗用しながらクレジットで表記せず、彼女の著作権を侵害した、との内容。この裁判は控訴不可。刑罰はこれから決定する。

更なる詳しい経過が知りたい方は、この方のツイートのツリーをたどって下さい。
junkTokyoさんの和訳ツイートは本当いつも貴重な情報源!
https://twitter.com/junktokyo/status/1510999496020271108

さて、ようやく感想です。
この盗作訴訟を知った後の観賞となり、どうにも気持ちがもやもやしてましたが、とりあえず、集中、集中。

「証明」「釈明」「説明」の作品。

ラヒムは服役中なんですが、2日間の休暇がもらえて、外に出てきます。
不思議ですよね。服役中に休暇って。
しかも、ラヒムが刑務所に入れられた理由は「借金が返せなかった」というもの。ええっ?

最初に出てくる階段。
高く、高く、どこまでも続く。やっとたどり着いたら、義兄に「下で話そう」と言われ、すぐに下りることに。
次に出てくる階段。婚約者が、弾む気持ちを抑えながら、下に、下にと下りてくる。
まず、この対比と意図が面白い。

そして婚約者が拾った金貨の話となり、それを売って、借金を返して、出所して、婚約者と幸せに暮らすというのがラヒムの段取りだったものの・・・まさかまさかの展開に。

結局、金貨は使わず、落とし主に返したラヒム。
刑務所は、それを美談として、マスコミに取材をさせます。
チャリティも催され、寄付金が集まり、仕事も紹介してもらえることに。
思わぬ幸運が続きますが、紹介された職場で、事態に暗雲が立ち込めます。
「本当に金貨を返したのか?証明しろ」

ここから観客は、ラヒムと一緒に頭を抱えることになります。
思いついたアイディア。悪気はなかった嘘。それがまた事態を悪化させることに。

自分の(出所)のために集められた寄付金が、死刑囚を救うために回されてしまう・・・。
目には目を。SNSにはSNSを。

ラヒムには吃音症の息子がいるのですが、ここで思い出されたのが同じくイラン映画だった『白い牛のバラッド』
冤罪による死刑で夫を失った主人公のシングルマザーの娘はろうあでした。
求めたのは、謝罪。
そして、今作では、服役中で姉夫婦にあずかってもらっている主人公の息子は吃音症。
息子の懸命なスピーチは、当初、純粋に人々の心を打ちますが、物語の終盤には、それを利用して、動画をSNSに上げ、世間の同情を得ようとする人間が出てきます。
ラヒムは息子がさらし者になることに耐えられない。
求めたのは、もはやお金ではなく、名誉。

※予告編
https://youtu.be/NqdfMJBFuRE

過去作よりはドシーンとこないなと、しばし思っていたんですが、ラストシーンで、その瞬間はやってきました。
やっぱり、さすがだわ。これ、これを待っていたのよ!
その構図たるや。何事もなかったような、ごく日常の風景のように、その瞬間を見せる。
あれだけの事があった後に、このシーン。
いや、やっぱり、すごいわ、ファルハディ監督。
というわけで、過去作よりは、緊迫感、不穏な空気は薄いかもですが、やはり見応えあります。
興味を持たれたら、是非、劇場で。4つ☆

8 10

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