mixiユーザー(id:277042)

2022年02月11日09:03

270 view

経済談義第38回:黒田氏の物価上昇否定について

経済談義シリーズ、日本経済超悲観派の僕がその説明をするシリーズです。

前回為替の話の途中で中断してしまっていますが、今回は日銀黒田総裁の発言がニュースになっていたのでそれについて説明します。



ニュースによれば、日銀の黒田総裁がインタビューで物価上昇への対応を問われて、「消費者物価が大きく上昇する可能性は極めて低い」と強調したそうです。
https://news.yahoo.co.jp/articles/f83584534ede48db245aa9bec9c55b1119eebb35

原油高や円安など複数の要因で様々なものの値上げがニュースとなっているなか、現下の情勢を考えたらインフレの可能性は以前よりは確実に高まっているといえるはずです。黒田さんが語気を強めてわざわざそれを否定するというのは奇異に思われます。


特に、この発言が黒田さんのこれまでの主張とは180度異なっていることは特筆すべきです。
日銀総裁に就任した当初の黒田さんは意気軒高で、日本経済停滞の根源はデフレなのだから、インフレが来れば日本は成長する、物価さえ上がれば万事解決と断言し、それを日銀が実現して見せると豪語していました。物価なんかすぐ上がる、2年で上げてみせるとたんかを切っていたのです。

そして人工的な物価上昇を実現するために、通称「黒田バズーカ」という、いわば経済的大量破壊兵器を発動して、累計数百兆円ものお金を世の中にばらまいたのですが、結局外的要因以外では物価はほとんど上がりませんでした。


そしていまでは、物価が上昇するわけがないという、当初の主張とは真逆のことを言うようにになってしまい、世の中そんなに簡単ではないということを自ら吹聴する皮肉な結果となってしまいました。

黒田さんの物価上昇否定発言は、日銀のこれまでの政策が誤りであったことを事実上認めたものだと通常は解釈されるでしょう。日銀総裁ほどの肩書の方の発言が完全にひっくり返って、それに関する説明が一切ない、というのでは日銀の信用にかかわるのではないかと心配になってしまいます。



しかし今回の記事のポイントはそこではありません。
黒田さんには、物価が上昇していることを意地でも認めるわけにはいかない切羽詰まった事情があるのです。その点説明したいと思います。


今後いろいろな値上げが続いた結果、消費者物価がもし想定を超えて上昇した場合、例えば目標としていた年率2パーセントを超えた場合、物価の安定を使命とする日銀はこれに対処して物価を抑制することが求められるようになります。
そのために日銀は何ができるでしょうか。

一般に、日銀などの中央銀行が物価を下げるために行う施策は以下があるといわれています。
(1)市中に流通する通貨の量を絞る
(2)市場金利を上げる

これらの施策が物価にどのように影響するかについてはここでは触れませんが、問題は、これらを行うためには日銀が保有する資産を売却する必要があるということです。

まず(1)の通貨量についてです。
物価を人為的に上昇させるために黒田さんはこれまで、日本国債や株を大量に買い入れて、その代金として通貨を市中に供給してきました。ものの量に対してお金の量が増えれば、その見合いである物価は自動的に上昇するだろうという、貨幣数量説という理論に基づく見立てでした。

ということは、物価を下げるためにはそれとは逆のことをすればよいことになります。
これまでに買いためてきた国債や株を売却して、その代金としてお金を回収すればよいのです。

国債を売却することは、(2)の市場金利上昇にも効果があります。国債市場に売りが出て市場価格が下落すると、実質金利としては上昇することになります。この関係についてはこの連載の第5回で説明しました。



では日銀は国債や株をどんどん売却すればよいだろう、なにしろこれまで買いためた国債や株は国家予算をはるかに超える莫大な量なので売り物はいくらでもあるのだから、となりそうなものですが、そうは問屋が卸しません。
株も国債も市場で取引されていて、市場原理で価格が変動するということが大きな障壁として立ちはだかってくるのです。

市場取引される金融商品には市場原理が働き、買いが増えれば市場価格が上昇し、逆に売りが増えれば価格が下落するという動きをします。
日銀による売り買いもその例外ではなくて、実際に市場価格に大きな影響を与えてきました。
国債価格と株価は、日銀による大量の買い入れの影響で相当にかさ上げされているといわれていて、市場では池の中のクジラに例えられています。


ではその大量の国債や株を今度は売却するとなると何が起こるでしょうか。

確実に言えるのは市場価格が大きく下落するということです。
日銀が保有する株や国債があまりにも莫大なので、これが売りに出されると買いを圧倒してしまい、市場価格が暴落する可能性が出てきます。クジラが暴れて皆がおぼれてしまうのです。

日銀が国債や株を売却することによる影響は直接的な効果だけではなくて、心理的な影響もおそらく大きいと考えられます。
日銀による売却を察知して価格のさらなる下落を見越した機関投資家が、損切りのために売却する動きが出るでしょう。

また、個人投資家の中には日銀を全面的に信頼している人がかなりいて、日銀が買っているのだから安心だと思い込んで国債を買っています。
日銀が売りに転じると聞けば、狼狽した個人投資家がパニック売りに走る可能性も出てきます。

つまり、日銀が国債や株を実際に売却しなくても、売りに転じるといううわさが流れるだけでも市場価格に少なからず影響を与えるのです。
実際アメリカでは、FRBが緩和を縮小するかもしれないといううわさが流れて株価が急落しています。


日銀自身も壊滅的なダメージを受けることになります。国債価格や株価が急落する市況の中で日銀が売却を実際に行ったとしても、当然買い入れたときの価格とはかけ離れた激安の価格でしか売れないわけですから、大きな損失が出てしまいます。
日銀が債務超過になる可能性について言及する経済学者も出てきました。
債務超過になったからといって日銀が直ちにつぶれてしまうことはありませんが、日銀の信用、通貨の信認には当然大きな影響が出てくるでしょう。

日銀の最大の責務は一万円札の価値を維持して紙切れにしないことである、と僕は考えていますが、その責務に黄信号がともることになります。



黒田さんが物価上昇を認めたとなると日銀は対処、いわゆる「出口政策」を求められ、それが引き金になって上記のような株や国債の暴落を誘発するおそれがあります。
例えるなら黒田さんはいまや大きな爆弾の上に座っていて、物価上昇を認めることはその爆弾の導火線に火をつけることになりかねないのです。

なので黒田さんは、これから物価が上昇するでしょう、インフレ目標が達成されるでしょう、などとは口が裂けても言えないのです。



物価上昇を意地でも認めるわけにはいかない黒田さんは任期満了までの一年間、言い訳を重ねることになると予想されます。
物価など上昇していないとか、悪い物価上昇だから無視するとかいった強弁を繰り返して残りの任期をなんとか逃げ切って、爆弾の後始末は後任の誰かに押し付けてしまおうという魂胆なのでしょう。

日銀総裁としては大変無責任な態度ではないかと個人的には憤りを禁じえませんが、これ以外にやりようがないというのが黒田さんの実情です。



黒田さんをこれまで支持してきた経済積極派の評論家の皆さんは、前任の白川さんを蛇蝎のごとく嫌っていますが、僕に言わせれば、黒田さんのほうがよほど罪が重いだろうと思っています。それはこれから数年で明らかになってくるでしょう。その頃にはもう黒田さんは舞台を去っているのです。




連載バックナンバー:
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1942875057&owner_id=277042
3 32

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する

<2022年02月>
  12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
2728