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2022年02月05日15:55

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エベーヌ四重奏団「ベートーヴェン弦楽四重奏曲全集」その7

【収録曲】

Disc7
 1 弦楽四重奏曲 第3番 ニ長調 Op.18-3
 2 弦楽四重奏曲 第15番 イ短調 Op.132

エベーヌ四重奏団
 ピエール・コロンべ(Vn)
 ガブリエル・ル・マガデュール(Vn)
 マリー・シレム(Va)
 ラファエル・メルラン(Vc)

録音:2020年1月27日,フィルハーモニー・ド・パリ
ERATO 9029533981(ライブ)


ようやく,エベーヌ四重奏団によるベートーヴェン弦楽四重奏曲全集最後のディスクに到達。このディスクに収録されているのは,作品18から第3番と後期から第15番。

このCDを聴いていると,断然後期の弦楽四重奏曲の方が,前期の作品より充実していることを実感する。エベーヌQの演奏では前期と後期との差が少ないと主張するような演奏だったので,前期の作品より後期の作品が優れていると取れる演奏はある意味驚きだった。なぜそうなったのか理由を推測するのは簡単ではないが,第3番と第15番の間には解釈や表現では埋めようもないギャップがあるということなのだろう。第15番は傑作中の傑作である一方,第3番は作品18に含まれる6曲の中で最初に書かれた弦楽四重奏曲で,ベートーヴェンがこのジャンルの音楽に十分馴染んでいないことをうかがわせる。

第3番は古典派が弦楽四重奏曲を書くときの決まりを忠実に守った作品。どこかモーツァルトの音楽を彷彿とさせる曲でもある。特にソナタ形式の第1楽章の第1主題でその傾向が強い。第2楽章はどこか瞑想的なアンダンテの楽章。第1ヴァイオリンが奏でるメロディーもどこかありきたりでベートーヴェンの作品らしくない。第3楽章は明記されていないがスケルツォの形式をとる。中間部はやや独創的。第4楽章はソナタ形式。第1主題はベートーヴェンの特徴をうかがうことができる。しかし,第2主題はそれを打ち消すような傾向がある。エベーヌQの演奏にはインスピレーションが足りない,というか手の施しようがないとして白旗を掲げたようでもある。

第5番は4楽章構成であったが,ベートーヴェンの病気で中断され,作曲を再開した際にリディア旋法の第3楽章が付け加えられた。第1楽章は序奏付きのソナタ形式。ベートーヴェンが書いた動機の質の高さが際立つ。音楽的な展開の素材として優れているばかりか,その旋律が音楽的に十分魅力的だ。こういう音楽を聴きたかったと言いたくなるような楽章だ。第2楽章は3部形式。スケルツォというよりはメヌエットに近いかもしれない。特徴的なリズムの上で,短い動機が何度も繰り返される。中間部ではトリオが登場する。「リディア旋法による,病より癒えたる者の神への聖なる感謝の歌」と題された五部形式の第3楽章。教会旋法によるゆっくりとした部分と「新しい力を得た」より速めの部分で構成される。エベーヌQの演奏も素晴らしいが,なんと言ってもベートーヴェンが書いた音楽が主役だと確信させる。第4楽章は二部形式の短い間奏曲。行進曲風の前半部にレチタティーヴォ風の楽句が続き,フィナーレにつながる。この楽章の演奏では主旋律を奏でる弦楽器の響きが美しい。第5楽章はロンド形式。音楽の雰囲気は,天上の世界から地上に戻ってきたかのよう。闊達さと活力が甦り,フィナーレにふさわしい音楽が展開される。エベーヌQもベートーヴェンが記したスコアを音楽として奏でること以外のことは念頭にないのでは。


エベーヌ弦楽四重奏団によるCD7枚のベートーヴェンの弦楽四重奏曲全集をようやく聴き終わった。1枚あたり約2週間かけているので,3ヶ月以上も費やしたことになる。そこまでする意味があったかどうか,疑問が残らないわけではない。時間をかけて聴いた結果,作品18の6曲や中期の一部,「ハープ」や「セリオーソ」をより良く理解することができるようになった。

もう一つ,解釈や表現のしようによっては,音楽的に圧倒的な差があると思っていた初期と後期の作品も,そのギャップを縮めることが不可能ではなさそうだということがわかった。もちろん,初期と後期で途轍もないほどのギャップがあるのか,それを演奏で縮めることが可能かどうかなど論点はたくさんあるけれど。

そして,この全集では鉄道の相互乗り入れのような手法で,前期と後期のギャップを埋めている。つまり,前期の弦楽四重奏曲を演奏するスタイルを後期の作品でも使い,後期の演奏スタイルを前期にも適用することで,作品ごとの音楽的水準を均そうとしている。この全集を聴いていてそう思ったけれど,エベーヌQが実際にそうしているのか,はたまたそのようなことが可能なのかどうか,素人にはよく分からない。

とはいえ,弦楽四重奏曲を聴くとき,視野が広がって,頭が少し柔軟になったことは確かだ。
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