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2022年01月28日15:17

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アウシュビッツ解放70年・メルケルの誓い

2015年に発表した記事です。


 2015年1月26日、ベルリン。肌を刺す寒気の中、私はシェーネベルク区のウラニアという公会堂に向かっていた。今年1月27日は、ナチスのアウシュビッツ・ビルケナウ強制収容所をソ連軍が解放してから、ちょうど70年目にあたる。この日を前に、ナチスによる虐殺の犠牲者を追悼する式典がベルリンで行われた。

*ユダヤ人600万人を虐殺

 ナチスがポーランドに建設したアウシュビッツ・ビルケナウ強制収容所では、1940年からの5年間にユダヤ人やポーランド人、シンティ・ロマ(いわゆるジプシー)、ソ連兵捕虜、同性愛者など約150万人が殺害された。ビルケナウにはシャワー室に見せかけたガス室があり、女性や子供など肉体労働ができないと判断された被害者は、家畜輸送用の貨物列車で収容所に着くと、直ちにチクロンBという青酸ガスで殺害された。
 遺体は焼却炉で焼かれ、遺骨と灰は川に投げ捨てられた。ナチスは欧州全体で約600万人のユダヤ人を殺害したが、ほぼ4人に1人は、アウシュビッツで殺されたのだ。アウシュビッツは、ナチスが欧州に建設した約1000ヶ所の収容所の内、最大の規模を持っていた。

*生存者は語る

 式典を主催したのは、アウシュビッツ国際委員会(IAK)。1952年に虐殺を生き残った生存者たちが創設した国際機関で、2002年からはベルリンに事務局を置いている。 式典では、2人の元収容者たちが証言した。
 その内の1人は、ハンガリー在住のエヴァ・ファヒーディ女史(89才)。1944年5月当時19才だったファヒーディ氏は、家族とともにアウシュビッツに移送された。収容所のプラットホームには、ナチス親衛隊の軍医で「死の天使」として恐れられたヨーゼフ・メンゲレがいた。彼は、指を左右に動かすことによって、ユダヤ人をガス室に送るか、労働させるかを決めていた。ファヒーディ氏は、労働者のバラックに送られたが、母親と当時11才だった妹は直ちにガス室で殺された。
 「アウシュビッツでは、常に遺体を焼く匂いがたちこめ、いつ自分が殺されるかわからないという恐怖と隣り合わせでした」。「真夏のバラックで、私たちは飢えと乾きに苦しみました。飲み水がなかったのだから、糞尿を入れた大きな桶を運ばされる時に、中身がこぼれて手や足が汚れても、体を洗う水はありませんでした」。
 アウシュビッツの生存者の多くは、深い心の傷を負ったために、長い間自分の体験を他者に語ることができなかった。ファヒーディ氏も45年間にわたり沈黙し続けたが、79才になった時にアウシュビッツ収容所跡を初めて訪れ、自分の経験を本として発表し、語り部としての活動を始めた。
 白髪のファヒーディ氏は、苦しそうな表情で語った。「なぜ私だけが生き残ったのでしょう。母と妹には、墓標すらありません。2人と同じくアウシュビッツで殺された人々に代わって、当時の状況を語り伝えることが、私に与えられた役割だと思います」。聴衆は、ファヒーディ氏が語り終わると、席を立って長い間拍手を送った。

*恥の気持ちを告白したメルケル

 この後、アンゲラ・メルケル首相が演壇に立った。メルケル氏は「ナチス・ドイツは、ユダヤ人らに対する虐殺によって、人間の文明を否定しましたが、アウシュビッツはその象徴です。私たちドイツ人は、恥の気持ちでいっぱいです。なぜならば、何100万人もの人々を殺害したり、その犯罪を見て見ぬふりをしたのは、ドイツ人だったからです」と述べ、ドイツ人がナチスの時代に大きな罪を背負った点を強調した。
 そして会場の最前列に座ったファヒーディ氏をじっと見つめながら、「あなたは渾身の力を振り絞って、収容所でのつらい体験を語ってくれました。そのことに心から感謝したいと思います。なぜならば、私たちドイツ人は、過去を忘れてはならないからです。私たちは、数100万人の犠牲者のために、過去を記憶していく責任があります」と語った。
 さらにメルケル氏は、ドイツの反ユダヤ主義を厳しく糾弾した。「今日ドイツに住む10万人のユダヤ人の中には、侮辱されたり暴力を振るわれたりした経験を持つ人が増えています。これはドイツの恥です。我々は、反ユダヤ主義、そしていかなる形の差別、排外主義に毅然として対抗しなくてはなりません」。

*歴史との対決を国是とするドイツ

 さらにメルケル氏は1月にフランスで起きたテロ事件にも言及し「パリでは、イスラム過激派が、言論の自由を主張した風刺画家たちや、ユダヤ系商店を訪れたユダヤ人たちを殺害しました。これは狂信主義が生む結果を明確に示しています」と指摘した。
 そして「ナチス時代の犯罪と批判的に対決すれば、将来我々の共存や尊厳、価値観を奪おうとする勢力に対して、反対する能力を身につけることができます」と述べ、過去との対決は、今日の民主主義体制を守る上でも重要な意味を持っていると強調した。
 メルケル首相の「アウシュビッツは我々に対し、人間性を共存の物差しとするべきことを教えています。アウシュビッツは我々全員にとって、将来も重要な問題であり続けるでしょう」という言葉は、ドイツ社会の主流派が歴史との対決を国是としていることを、明確に示している。
 敗戦から70年目にあたる今年、彼女の言葉は私たち日本人にとって「対岸の火事」だろうか。

 

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