吐気を催すようになってからは、休日もどこへも行く気力を失ったが、10月末、現場離脱が決定し、今週の日曜日は母校の文化祭へ行くなど、ボチボチとリハビリを兼ねて行動するようにしている。
10/18に診断書をみせて現場離脱を申し出、10/19には上層部でそれが周知された、そこからは、現場は混乱した。11月以降の体制をどうするんだ、ナントカしろ云々と。
実は、僕のほかにもう１人10月末で抜けてしまうため、チームは誰もいなくなる。そのため、出向先の会社は、もう人も確保できずギブアップせざるをえず、恐らく請負の受注金額は破棄されただろう。違約金を取られているかもしれない。
だが、全ては僕の知ったことではない。誰がどう損しようが、あずかり知らぬこと、むしろ混乱してぶっ壊れちゃえばいい、くらい思っていた。今まで離脱していった人たちもきっとそのくらいの気持ちになっていたに違いない。
ただ、僕は急に辞めるのではなく、書類上も大変だろうから10月はいることにした。幸いにも僕と出向先の会社は、単月契約だったので、少なくとも僕サイドにとっては違約にはならない。
そういう仁義だけは守ろうとしたのが、災いした。
ラスト２週間、営業日数で10日間は、そりゃーもう地獄のように酷使された。
現場に全員集まっているわけではなく、リモート会議やら、メール、グループウェアやら、電話やらでガンガンに指示が飛んできて、しかも別々の人から飛んでくるもんだから、１人１人は、１つしか指示だしていない意識でいるが、こっちは複数人から指示を受けていることになり、とてもこなしきれない。で、出来ていないと責苦を受ける。
相も変わらず、定時のリモート会議は１日５時間も６時間もあり、作業時間は大幅に削られている。
とにかく、残り日数をカウントし、それを励みに、時間を何とか潰すのに必死になった。何をどういわれようが出来ないものは出来ない、と。
出来ないものは出来ない、というと、また難癖つけて、「それじゃあ誰がどうリカバリーするんだ？」といってまたこっちに全部押し付けようとするから、その言葉も言わずに、とにかく曖昧に返事して、フワーッとした状態でお茶を濁す。
「言い方悪いけど、これじゃ、このまま逃げ切るつもりですよね」とズバリと責められたこともあるが、内心「その通りですよ、後は勝手にやってください」としか思わない。
ちょっとでも「やります」のようなことを言って言質をとられてしまえば、11月以降もその言質を根拠に際限なくやらせてきそうだった。
全く、自分にとっても不本意極まりないことはわかっている。こんな曖昧な状態では残されたものが困るのもわかる。だが、それを飛び越えて、「そんなの知ったこっちゃない」という気持ちになってしまったのだ。
所詮、鬱病診断が出たからといって、現場にいればそんなことはお構いなしに容赦なく要求が飛んでくる。敵にとっては、11月にいなくなる＝迷惑掛けられているという思いしかないから。
とっとと現場離れるしかないのだ。
僕１人ではなく、短期間で何人も現場離脱していく状況は、やはり尋常ではない。
こんな風になってしまった原因は、ある程度わかっている。
もともと、そこのプロジェクト（念のため言っておくと、国家プロジェクトですよ）自体が常に、酷い状態なんだが、それに輪をかけたのが、コロナ禍による働き方の変化にある。
在宅勤務が推奨され、作業も会議も何もかもが、リモートが主体である。スカイプなどのリモート会議は、以前よりあったが、以前は例えば拠点が、全国に散らばっているため、物理的に集まれないから、リモートを利用していて、同じ拠点内の人は、拠点に皆集まって仕事をしていた。
それが、個人の裁量で在宅であったり自社であったり、同じ作業場に集まらない。
会議はたやすく出来るが、会議の緊張感はなく、聞きながら別のことをしていたりとか平気だし、たやすく出来る故に１日に会議が何回も発生する。その結果、作業する手が止まってしまう。
現場でしか出来ないようなタスクは、律儀に出勤している人のみがやるハメになり、真面目に来ている人ほど作業負荷が掛かっていく。僕などは律儀に出勤していたので、もろにその立場になってしまった。
こうなると、逃げたもの勝ちで、うまく逃げ回っている人ほど、得をすることになる。
また、通信手段の多さ。有償無償のグループウェアに、メール、スラック、チャットなど全て使おうとして、情報が分散しすぎている。メールだけでも４つくらいある。
それに加えて僕は携帯電話を社給のと個人の２機持っているため、全てのツールを確認するだけで何時間も取られてしまう。当然、毎日全部拾いきれるわけではなく、だんだんにキャッチできない情報は無視するようになってくる。
無視した情報は、オリのようにたまっていき、どこかのタイミングで「前からお願いしているのになんでやってないの？」と詰問される。
我々の仕事は、即時性を要することも多々あるものの、慎重に時間をとってトライ＆エラーをしながら見極めていかなければならないものも多い。むしろそっちがメインだ。
そうなると、１つのことに、過不足ない情報を収集した上で、それだけに集中する時間が必要になってくる。が、それさえも許されない状況なのである。
自社でノウノウと胡坐をかいている上司などに相談をしても、常に返ってくる答えは、「人を割り当てれば短時間で終わる」というもの。ところが、その割り当てる人員がいない上に、ただただ人を割り当てれば良いというものではなく、ある程度その業務や技術を知っている人でなければならない。そうなると、相談したところで、結局自分に戻ってくるのだ。
何も解決しないまま、時間だけが浪費されていく。
リモートや電話でしかコミュニケーションを取らない人は、指示ひとつだして、後はしらんぷり。
理論上、人と時間をこれだけとれば、出来るハズだ、という考えしかなく、そこに１人の人間には限界がある、という要素がない。いや、人的リソースがない以上、指示する側もそこが限界なのだ。
以前のように、全員で現場にいれば、一緒に悩み一緒に戦ってくれるので、まだ所詮無理な仕事だったにせよ、気が少し楽だった。その辛さ、難しさも共感してもらえる。
だが、今は一緒に悩み戦うことをせずに、通信を切ってしまえば後は何をやっているのかさえわからない。
ゴールの設定もままならぬタスクが腐るほどあり、その中で限られた時間と人でやるには、もはや不可能だということがわかり、単純な時間見積りをしたら確実に時間は果てしなくオーバーする。だが、その現実は誰も考えない。
切羽詰ってくると、人を入れるが、何をやるか、どうやるか、という引継ぎ情報が皆無のまま、とりあえずやらせていくため、人を入れては逃げられ、を繰り返す。
もはや、24時間365日働いたって、終わらない現実しかない。そして終わらせられない現実の責任を被るのは、上層部・管理者ではなく、現場の人間だ。
さて、撤退が近づいてきたラスト２日で、いよいよラスボスとの戦いになる。
ラスボスとは元請会社（大手ベンダーF社である）の、統括部長である。
その時、東大出の秀才で、ことごとく正論で配下の人たちを締め付けていくこのサイコパスが、諸悪の根源か！と気づいた。
その話は次回に。
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