8月から参入した地獄の現場なんだけど、10月末をもって撤退することになった。
結局、心身ともに健康を害してしまい、産業医に行ったらあっさりと鬱病の診断を貰った。それを免罪符に撤退を申し出て、とうとうリタイヤである。
僕の仕事人生、ひとつの自慢だった、「何あろうが逃げない」という実績が崩れた。
もはやそれを誇りにすることも売りにすることも出来ないであろう。
どちらかというと、常に躁状態な自分が、まさかの鬱病判定というのも、かなりのダメージだが、それと引換えにしても、あの現場を離れたかったのだ。
何が悪いのか、は、もう悪いところがありすぎて、どこから切り込んでいいのやら。
そもそも、僕が参入したときにすでに多くの離脱者が出ている現場だった。
そんななかで、今までタフを売りにしてきた僕は、離脱だけは絶対にないだろう、という自負はあった。
ところが、この現場、タスクが上積みされていく。やってもやっても終わりが見えず、そのタスクの目的、ゴールも見失い、さらに一度完了になったタスクが、まだ復活したりする。
もともと、その仕事内容にさほどスキルも知見もないところだったのだが、今までの経験上、ググったり周りに聞いたりしていれば、何となくわかってくるし、その業務のパターンを掴めばルーチン化してくるので、そうなったら仕事も回せる、という目算はあった。
仕事が回せるようになれば、あとは理屈をつけて、個々のタスクを完了にしていけば、そのうち終わる。
最初は、そうやって、そのタスクの着地点を明確にしようと努力していたんだが、、
折角着地点を決めても、また蒸し返して、着地点を変更されたり、いろんな人がいろんな要求をしてきて、着地点がグレーになってきたりする。
その上、1個1個の仕事が僕にとって難易度が高い上、じっくり調べてやる時間も与えられず、さらに有識者が教えてくれもせず、さらに過去の資料もグチャグチャでどこにあるかわからず。一旦、その作業を担当してしまうと、全部が全部責任を負わされる上に、誰も助けてくれない。
しかも、最優先のタスクはどれ、と整理して、最優先のものからこなしていっても、常に飛び込みの作業依頼が入り、「そっちが最優先だから」と言われ、それをやらなきゃいけないため、もともと予定されていたタスクがこなせず、どんどん累積。
それでもって、朝夕の進捗報告で「終わっていません」という報告しかできずに、「何で終わってないの！」と毎日詰問される。
さらに、自分にとっては難易度が高く知見のない作業を、誰も助けてくれない中でやることになるため、当然ミスが頻発。ミスするたびに、故障としてあげられ、その原因分析やら対処方法やらさせられ、仕事をすればするほど、仕事が増えていく・・
そんな状態であるから、毎日毎日、終電や時にはタクシーで帰宅する日が続き、翌朝は翌朝で、報告せねばならないので遅刻などできず、睡眠時間は削られる一方。
だんだん、自分が何をやらなければならないのかもわからず、何倍も時間をかけてやっても、それが正しいことをやっているのかもわからず、時間をかけても何も進んでおらず・・
大東亜戦争の日本の航空部隊は、毎日アメリカの艦隊を撃破しても、次の日は倍になって包囲され、それを撃破しても次の日はさらに倍になって包囲され、どんなに優秀なパイロットもその物量攻撃にだんだん病んでいったと言われているが、まさにそんな状況である。
そのうち、吐気を催すようになった。
朝から晩まで、ずっと吐気がしていて、食欲もなく、家に帰る頃にようやく食欲が戻ってくる。休日でさえ、夕方になると吐気がはじまる。
倦怠感は半端なく、そのうち、朝会で、予定タスクが完了していないことをなじられた上、さらに新しいタスクが上積みされて、今すぐやらなきゃいけないことがたくさん発生し、朝会後は体の震えが来るようになった。
休日は、なるべく時間が遅く過ぎて欲しいと願い、テレビや映画やプロ野球などみてしまうと、あっという間に時間が過ぎてしまうので、それらを観るのも恐怖で、ボケーっとなにもしないで過ごすことが多くなってきた。
平日は、プライベートな時間など全くないし、休日はそんな状況のため、世間にはとても疎くなってきた。
ヤクルトスワローズが優勝した瞬間は、徹夜で仕事をさせられた時で、その情報を知ったのは、翌日家に帰った時である。今年は、ほとんど野球はみていない。
まだ10月に入る頃までは、帰宅後の深夜、ユーチューブで今日の試合のハイライトを観ていたが、そのうちそれを観る気力もなくなってきた。
自分にとって、そこまでいろんなことが無気力になったのは初めてである。
それでも、12月末には撤退できる、ということであと3ヶ月・・というように自分を鼓舞させていたんだが（最初は10月末と言われていたのがいつの間にか延びていた・・）、10月中旬事件が起こった。
そこの仕事は出向先の会社より行かされているんだが、もともと、10月に同じ出向先の会社の別業務をやることを予定していた。それは年度初めから予定されていて、8月にここに来た時も、10月は1週間程度その業務があるので、あけて欲しいと再三お願いしていた。9月終わり頃にその具体的な日程が決まったので、この期間は、別業務でいなくなります、ということも伝えていたのだが、直前になっても何も調整されていない。
僕は現場に迷惑をかけてはいけないと思い、シビれを切らして、1週間前に出向先の部長に「もう私から話します！」と訴えたのだが、その部長、「他の業務で抜けるっていうのはマズいな・・長い夏休みってことにしよう」などと言い出す始末。
いや、よく考えてくれ、ただでさえ抜けることが不可能なこの状況で、「ここで1週間夏休みとります」って、認めてくれると思いますか？それ以前に、私の立場メチャクチャ悪くなります！と絶対にそんなのは認めなかった。
で、「他業務の対応のため、抜けます」と1週間前に現場の皆さんに宣言した。
そしたら案の定というか、集中砲火を浴びる。
曰く、「今全然終わっていないこのタスクをどうするんだ、ちゃんといないときのリカバリーを計画しているのか？もしできていなければ後でひどいぞ！」みたいな脅しが散々きたわけですよ。挙句に、周りの人の言動を聞いていると「他業務というのは嘘で、本当は休むんだろ？」と思っているのが丸分かり。
もうそんなのしらんがな！俺が1週間いてもいなくても、状況が劇的に変わるわけじゃねーだろ！と開き直り、もう絶望的にどうにもならないタスクの山は無視して、強行で抜け出した。
それでも、その前に出向先の責任者から電話があり、「リモートを使ってうまく平行で業務こなせないの？」という恐ろしい提案。
挙句、現場でシレっとそっちの業務を内職できるんじゃね？とか言い出す始末。
それが出来ていればこんなに悩まないわ！だいたい他業務のほうだって1週間（厳密には4日間）だっていっぱいいっぱいの状況なのに。
とにかく、全てが全て、僕の裁量で何とかしろ、なのである。完全に責任者たちは逃げに入っていて、僕の判断で勝手にやりました、という状況を作り出そうとしている。
まーそんなわけで、強行で他業務をこなしたわけなんだが、そっちも時間的にカツカツだったため、休日を1日潰した上、最後のほうは、徹夜で作業をした。
もうヘロヘロの状態で5日後に現場に戻ってきた。
そしたら、もう周囲は冷たいの何のって。「勝手に休んだんだから、どうリカバリーするんだ？」みたいなことでなじられた挙句、いきなり無理難題な仕事が振ってきた。
その難題をやろうと、有識者にやり方を聞いたんだが、「そんなのこっちに聞かれても困る」と教えてもらえず、助けてくれる人が皆無のなかでやった。その結果、もう予想していた通り、ミスをしてしまい、他会社の人たちからのバッシング。
この時、僕の中で、心がボキっと折れた。張り詰めていた糸が切れる音を聞いた。
心が折れるっていう表現は良く聞くが、真面目にその瞬間を体験したのって、初めてである。
その時、本当に、本気で、全て放り投げてトンズラしようと思ったんだ。
その衝動を必死で押さえ、自社の上司に、「もう無理なんで、産業医いきます」と報告。
その日は何とかしのいだが、産業医に予約を入れた。
で、産業医へ行き、出た診断が鬱病である。
もう、それをもって、すぐさま、その現場を離脱して、休職しようと思ったんだが、そこは最後の責任感で、「契約上の期間である10月いっぱいは引継ぎとかも含めてやります」と出向先の部長に言った。そこもギリギリの譲歩。
だが、それは困る、いなくなられると困る、なんとか2ヶ月、いや、1ヶ月でいいんだ、いてくれないか、と言われたが、「もう無理、10月いっぱいだってギリギリの妥協だ」と何が何でも突っぱねた。
だいたい、何でこんな義理も何もないとこで、毎日無理難題押し付けられ、だんだん責任を僕に転化され、最後の最後、全ての責任を負わされなきゃいけないんだ？
誰のため何のため頑張る必要があるんだ？こいつらのために、自分の心身を犠牲にするなんて、そんなの真っ平ごめんだ、とそれしか考えられなくなっていた。
で、もう禁じ手だが、産業医に診断書もらい、法的措置でもって抜ける道を選択した。
僕はまだ老獪だから、そうやって切り抜ける方法を模索できるが、これ、若くて責任感強い奴、または気が弱い奴なら、自殺コースだな、と思った。
今、診察すりゃ、全員鬱病の診断がでるであろう、毎日ウンザリした顔をしている同じチームの若い連中に、「こういう逃げ方もある、本当にヤバくなる前に逃げろよ」という前例を示したかったってのもある。
ある日突然来なくなった、過去の連中も、もうそうせざるをえなかったんだろう。だが、それだと「ただただ逃げた」と笑い者にされるだけだ。まー僕のような手順を踏んでも同じだろうが。
僕は、今までに何度となく激務は経験してきたし、月400時間を超える勤務も何度かやったのだが、それでも心は折れたことがない。物理的な忙しさなんざ、いくらでも乗りこえられる、という自負はあった。
なんだか、今回はちと事情が違う。ゴールがみえず、ただ闇雲に仕事をしなければならない。一度決めた目標がコロコロかわる。自分では全くコントロールが不能になり、何をやっているのかさえ全くわからなくなってくる。
そんな状況が毎日続いた上に、サンドバッグのごとく毎日、叩かれる。
バカにされようが蔑まされようが、そんなのはもう慣れっこだし、誰かが代わってくれるならプライドも何も捨ててしまえるんだが、自分が何をやっているかさえも迷走してしまっている状態で、完全におかしくなっていった。
それに加えて、日々送られてくる情報は、メールやらグループウェアやら含めると10個近くあり、もう情報など拾いきれない。
やってられっか！ボケ！
心底そう思うようになった。
その上、リモート会議なんてのが、1日に5時間くらいあって、それに参加しなければ大目玉である。この会議だけで、作業時間も極端に削られているが、その状況でさえ、誰もみとめてくれない。
もはや、どんな手段使ったってこんなとこ、降りてやる！と思ったわけだ。
それで、強行した結果、10/20頃に、10月いっぱいで抜けられるようにはなった。あと10日間、フラフラになりながらも何とか過ごせば、終われるんだ・・と希望の光を見出し、ラスト10日間を過ごすことになるのだが・・
そのラスト10日に地獄の試練が待ち受けていた。
そして、鬱病でリタイヤすることにより、新たな試練と戦うことになる。
元々もっていた、日本企業の病巣と、コロナ禍による職場環境の変化で、日本企業はおかしな方向に進んでいる。
そんな問題を洗い出すべく、これから、僕が進んでいく状況を、つぶさにレポートしていこうと思う。
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