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2021年06月29日22:45

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やりすぎ?ダーティーヒーロー(のパロディ)

KADOKAWAより刊行されている、月刊ドラゴンエイジにて連載が開始された漫画「異世界転生者殺し-チートスレイヤー-」(以下チートスレイヤー)が、次号を待たずに連載中止になるという騒動がありました。
本日は、それについて感じたコトについて書きつづります。

○なろう死すべし慈悲はない(未遂)
 その前に、まず「チートスレイヤー」とその連載中止騒動について簡単に説明します。
 「チートスレイヤー」は、異世界に転生してチート能力と呼称される特殊能力を得た戦士達のギルド、「神の反逆者」によって幼馴染を殺されてしまった主人公が、神の反逆者に復讐をしていく物語となるハズでした。
 ところが、その神の反逆者のキャラクタ達が様々な異世界転生作品の主人公に露骨に似せられていたコトや、その様な姿のキャラクタの一人が死者を強姦するという展開などを理由として、非難の声が上がっていました。
 それを受けてか、6月28日に月刊ドラゴンエイジは公式Twitterで謝罪し、「チートスレイヤー」の連載の中止を発表しました。

○君たちは僕たちに似すぎている
 「チートスレイヤー」の世界観は、恐らくは異世界転生ものに対しての皮肉を込めて考案されたものだと推測されます。
 異世界転生ものはウェブサイト「小説家になろう」を中心に多くの作品が発表され、その中には商業作品として出版され、メディアミックスを果たしたものも珍しくありません。
 事実として、「チートスレイヤー」に登場した神の反逆者の元ネタは、「ソードアート・オンライン」「OVERLOAD」「幼女戦記」「賢者の孫」「Re:ゼロから始める異世界生活」「転生したらスライムだった件」「異世界食堂」「乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった」「この素晴らしい世界に祝福を!」と全てアニメ化も果たした人気作品でした。
 ですが、その中の「ソードアート・オンライン」はオンラインRPGを舞台とした小説で異世界とは何の接点もない、「OVERLOAD」はオンラインRPGを通じて異世界に転移したという設定で、「異世界食堂」については異世界と現実世界が繋がるという世界観故、いずれも異世界転生ものではありませんが。

 一方、先述した様なチート能力に代表される安易な御都合主義がすぎる展開や、作品そのものの転生した主人公の振る舞いや、作者の思想面からくる設定の問題から批判を受けるコトもあります。
 その様な一面を持つ異世界転生ものに対して、批評性を持った作品として成立さえしていれば、「チートスレイヤー」はアンチ異世界転生という色物という視点以外で評価をされた可能性もあります。
 それを妨げる原因のひとつとなったのが、露骨なキャラクタのパロディだと推測されます。
 Twitterにてこの騒動を知った時の作中のシーンでは、私の解る範囲では明らかに「ソードアート・オンライン」主人公キリトのシリーズ初期のアインクラッド編での姿によく似た少年と、「OVERLOAD」主人公アインズを彷彿とさせる山羊の頭蓋骨を被った怪人が描かれていました。
 他のキャラクタ達も、個々の作品の熱烈なファンや、アニメをよくチェックしている人間であれば判別出来るものと思われますし、神の反逆者のキャラクタ達がパクリと誹(そし)りを受けるのは必至でした。
 個々の作品のキャラクタを思わせる設定程度ならまだしも、パクリと認識されてしまう様な類似したデザインにしてしまうコトは、避けるべきだとは感じました。

 コレとは違うケースではありますが、以前取り上げた毎日新聞の風刺漫画「経世済民術」の「はらぺこIOC」は、絵本「はらぺこあおむし」のパロディと明確に解るものでした。
 こちらの場合は、逆に元ネタが解りやすいコトで、風刺する対象との落差が生じて笑いが生まれたケースでありました。
 「チートスレイヤー」も、先に述べた様に異世界転生もの全般への皮肉を込めたものであったコトが推測されます。
 パロディという表現の自由は保証されるべきであると考えていますし、この様な作品は出来るならばより良い形で知って、読みたかったと思っています。
 あまりに類似したキャラクタデザインでなければ、連載中止にならなかったのではないかと考えると、残念であります。
 付け加えるなら、元ネタのひとつはドラゴンエイジでコミカライズがされていましたし、そもそもドラゴンエイジの連載作品にはファンタジー作品も多く、読者の側にこの様な批評性のある作品を受け入れる土壌が育っていたとは思えません。

○それは迂闊さが招いた表現封殺か
 では何故、ドラゴンエイジ編集部は「チートスレイヤー」の連載開始前に、キャラクタデザインを変えさせるなどの軌道修正を図ろうとしなかったのでしょうか。
 どのキャラクタの元ネタも人気の作品でしたし、本当に批評性を持たせるという意図があったとしてもやりすぎに思えました。
 キャラクタデザインを別物とするなり、元ネタを確実に特定出来る様な要素を薄めるなりしておけば、今回の様な事態は避けられたハズです。
 コレに関しては、原作者の河本ほむらと作画の山口アキ以上に、掲載されたあのままに連載を決定したドラゴンエイジ編集部に非があったものと思われます。

 しかしながら、それ以上に今回の連載中止は、パロディへの萎縮を招く恐れがありますし、そもそもがドラゴンエイジよりも強い社内の権力による言論封殺の恐れもあります。
 まず、本作のパロディ元の作品は「異世界食堂」「転生したらスライムだった件」「乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった」以外の原作小説はレーベルこそ違えども全て、ドラゴンエイジと同じKADOKAWAから出版されています。
 ドラゴンエイジがKADOKAWAにおいてどの様な位置づけにあるのかは知りません。
 とはいえ、自社の人気小説レーベルからの圧力があったとしたら、コレは表現の封殺に当たる恐れがあります。
 「チートスレイヤー」は、迂闊にキャラクタデザインを露骨にパクリと誹られる様なパロディをしてしまったせいで、KADOKAWA内部で目をつけられて潰された恐れがあります。

 風刺にしてもパロディにしても表現においては必要なコトで、「チートスレイヤー」の件はやりすぎだったにせよ、風刺や批評性を帯びた作品になれる可能性を秘めていました。
 それ故に、異世界転生ものへの一石を投じれるものになれたかも知れないと思うと、本当に残念でなりません。
 せめて連載中止という後の無い終わりではなく、作者との協議の上で、キャラクタデザイン変更などをして、連載再開を図れないものでしょうか。
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