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2021年03月26日03:33

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【軍事】潜水艦よもやま話《参》潜水艦vs駆逐艦

画期的な機動戦術である電撃戦によりヨーロッパの大半を手中に収めたヒトラーは、次の目標をイギリス本土に定めた。
イギリスは日本と同じ島国であり、その自給率は極めて低い。世界中の植民地やアメリカ合衆国からの海上輸送路が生命線であり、そのシーレーンを守る為に強力な海軍力を有していた。
その大艦隊と真っ向勝負できる水上艦隊を持たないドイツ海軍は、潜水艦で輸送路を遮断する戦略に出る。
輸送船団を攻撃するドイツのUボートと、船団を護衛するイギリスの駆逐艦。北大西洋を舞台に、両者の激しい戦いが展開された。



1942年頃 北大西洋の何処か

Uボートの潜望鏡を波間に発見した英駆逐艦は、それに向けて全速力で突進する。場合によってはそのまま体当たりも辞さない覚悟だ。
フネの舳先(へさき)は頑丈に作られており、真っ正面からぶつかれば、損傷はしても沈没までには至らない。逆に潜水艦の方は、僅かでも損傷すれば潜航能力を失い、戦闘不能となる。至近距離であれば、体当たりは手っ取り早い戦法であった。
駆逐艦の接近を察知したUボートは急速潜航するが、これは体当たりをかわす為だけではない。潜水艦は『水の中に潜る』という特殊能力を得る代わりに、他の性能を全て犠牲にしており、水上でまともに戦っては勝ち目が無いからだ。
Uボートの水上速力は僅か17ノット(約33km/h)、武装は88mm砲が1門。
対する駆逐艦の方は速力35ノット(65km/h)、127mm砲6門である。
それだけではない。数字に表れない部分も大きく違う。いや、寧ろそれらの差の方が大きいくらいだろう。
水上艦は乾舷が高く上部構造物も大きいので、見張り員の位置も高く数も多い。見渡せる距離、範囲、捜索密度、全て上だ。
速度が圧倒的なだけでなく、加速性能や旋回性能も断然優れてる。
探照灯や射撃指揮装置なども充実しているので、火器の命中精度も高い。
凌波(りょうは)性能と言って、波を掻き分ける性能も比較にならず、荒天下でも性能が落ち難い。
潜水艦の方はと言えば、サイズが小さいので敵に発見され難い利点はあるが、それくらいだ。最大の武器である魚雷は、当たり所によっては1発で戦艦をも仕留める事が可能だが、しかしこれは軸線上の敵しか撃てない(誘導魚雷の実用化は大戦末期)。艦の真っ正面(或いは真後ろ)で敵を捕捉する必要があるが、動きの鈍い潜水艦が高速の水上艦を捉えるのは極めて難しい。
つまり潜水艦の水上戦闘力は極めて貧弱であり、海中に身を潜め、忍び寄って雷撃する以外に勝ち目が無いのである。

話を戻そう。
Uボートは急速潜航し、駆逐艦の体当たりをからくもかわす。だがここからが本当の戦いだ。頭上を通り過ぎて行く駆逐艦からは次々と爆雷が投下される。
爆雷とは爆薬の詰まったドラム缶みたいな兵器で、駆逐艦の艦尾から海中に投下される。事前に調整した深度で爆発する様になっており、直撃しなくても水圧により潜水艦は大きな被害を受ける。
しかしこの時は、駆逐艦も自らのスクリュー音や炸裂する爆雷の音でソナー(音響探知器)が使えず、当てずっぽうに爆雷を落とすしかない。
Uボートがどちらに舵を切るか?或いはどの深さまで潜るか?
駆逐艦はどちらに向かうか?爆雷をどの深度に調整するか?
Uボートと駆逐艦、それぞれの艦長の駆け引きとなる。

Uボートが最初の爆雷の雨をかわす幸運に恵まれたとしても、海に静けさが戻ると同時に、駆逐艦のソナーが襲って来る。
ソナーは大きく2種類あり、じっと耳を澄まして海中の音を聴き取るのがパッシブソナー。理論も構造も単純だが、自艦が発する雑音も拾ってしまうので、ソナーをワイヤーで曳航し、自艦から離れた場所で聴音するスタイルが多い。
潜水艦の方は『無音潜航』で、音を出さずにやり過ごそうと試みる。
一方アクティブソナーは、自らが音を発し、目標にぶつかって跳ね返って来た音を拾うタイプ。潜水艦がどれだけ大人しくしていようとも、反響音を返すので発見されてしまう。
ただしアクティブソナーには2つの大きな欠点があった。自艦の至近距離と、目標の深度までは特定できないのだ。また、海流や水温の違いなどによっても反響音が影響を受け、誤差を生じる場合があった。
この辺は俺も詳しくは知らないが、要は、どんな画期的な兵器にも欠点があり、そこを突いた抜け道があると言う事だ。

再び話を戻す。
最初の一撃でUボートを撃沈できなかった駆逐艦は反転し、アクティブソナーを放ちながら付近を捜索する。その反響音が『カーン、カーン』と海中のUボート艦内に響く。
神経を逆撫でするかの様なその音を聴きながら、ジッと息を殺して耐え忍ぶ乗組員。映画などでは反響音が次第に大きくなったりその間隔が狭まって来たりして、如何にも駆逐艦が迫って来る様な演出もあるが、実際もそうなのかは俺も知らない。
やがて頭上を『シャッシャッシャッシャッ… 』とスクリューが水を掻き回す音が通り過ぎる。
Uボートの乗組員達は、見えもしない駆逐艦の影を追う様に天井を見上げる。お馴染みの手に汗握るシーンだ。
再び爆雷が落ちてきて周囲で炸裂。Uボートは木の葉の様に上下左右に激しく揺れ、艦内の電灯が破裂して真っ暗闇になったり、あちこちのパイプから水が噴き出したりする。映画だとその辺のバルブを回して水を止める、という描写が必ずと言っていい程見られるが、もしそれが本当なら、戦闘配置と同時にそれらのバルブを全部閉めておけよ、と言いたくなる。これがどれくらい事実なのか実際の潜水艦乗組員に是非訊いてみたいところだ。
因みに、戦闘中の潜水艦内を赤い照明が照らしているが、これは少ない消費電力で最低限の明かりを灯す為。ただし、この赤色灯は乗組員の精神衛生上宜しく無いらしく、特に食欲が減退するそうだ(確かに、見るからに気が滅入る色であるが)。人間は食材を目で観る事によって味を予測するのだそうだ。赤色灯によって何の食材かが判らないと、何を食べてるのか判別困難となり、それが食欲の減退に繋がるらしい。

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