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2021年03月21日23:41

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【軍事】潜水艦よもやま話《弐》シュノーケルについての小噺

潜水艦の水上航走は危険と隣り合わせ。出来る事なら長い時間水の中に潜っていたい。ところがモーターを回せば充電はすぐに切れてしまう。ならば水中でディーゼルエンジンを回せたら?
誰もが思い描いたそんな夢を、オランダが実現させた。シュノーケルの発明である。
シュノーケルとはドイツ語で『鼻』の意味で、現代のマリンスポーツでお馴染みのアレである。潜水艦本体は水の中に潜って姿を消すが、艦上に立てた筒(シュノーケル)の先端だけを海面の上に出す。これで空気を取り込んでディーゼルエンジンを回し、同時にエンジンからの排気を艦外に排出するのである。
シュノーケルを装備する事によって敵から発見され難い潜航状態を保ちながら、燃費効率の良いディーゼルエンジンで推進し、電池への充電も可能となった。艦内の澱んだ空気を排出し、新鮮な外気を取り入れる事も可能となる。
ただ、シュノーケルにも勿論欠点はある。潜水艦本体が海面の下まで潜れるとは言ってもせいぜい数m。海面の状態によっては上空から丸見えである。排気ガスの煙が尾を引くので、それで発見される場合もある。一番の問題は波浪状況だ。波が高いとシュノーケルが水を被り、空気の代わりに海水が流入して来るので、それがエンジンに入ると故障する。それを防ぐ為にシュノーケルの先端には浮きが付いていて、海水面の上昇と共に浮きが持ち上がり、それが吸入口に蓋をする構造となっている。波をやり過ごしてシュノーケルが海面から頭を出すと、浮きも下がって弁が開き、再び吸排気が可能となるのだ。

俺がアジアを旅していた時、中国の上海の安宿で一緒の部屋になった日本人が、元海上自衛官で潜水艦に乗ってた人だった。
その人の体験談として聞いた話だが、シュノーケルが波を被って弁が閉じてもディーゼルエンジンは回り続けている。しかし空気を外からは取り込めないので、代わりに艦内の空気を吸ってしまうのだそうだ。狭い潜水艦内の気圧は一気に下がり、乗組員は鼓膜が破れそうになって皆一斉に耳を押さえて呻く。しかし次の瞬間にはシュノーケルの頭が水面から飛び出して弁が開き、ドッと空気が流入して気圧が戻る。

波を被るとキーンと耳鳴りして『痛たたた…』
波から出ると気圧が戻ってホッとひと息。
また波を被って『痛たたた…』
荒天下でシュノーケル航行してる潜水艦の艦内ではその繰り返しなのだそうだ。
俺がその様子を真似すると、安宿の皆は爆笑した。『シュノーケル』と聞くと、今でもあの上海の大部屋を思い出す。

第二次大戦でオランダを制圧したドイツはシュノーケルの存在を知るが、その時は大して興味を示さなかったらしい。ところが大戦の中盤から連合国の対潜能力が飛躍的に向上すると、Uボートの被害は鰻登りとなる。慌てたドイツ海軍はシュノーケルの事を思い出し、早速Uボートに装備した。
シュノーケルを装備したUボートは大活躍する。水上航行する必要が格段に減ったので発見される危険も減ったし、水中でもディーゼル航走できるのだから航続力も伸び行動範囲も拡大した。
だが連合国はレーダーを改良し、海面上に突き出た小さなシュノーケルの先端すら探知できる様になると、Uボートは再び劣勢に立たされる。その後ドイツは、レーダー波を吸収する素材(特殊なゴム)を開発してシュノーケルを覆うなどの対抗策を編み出すが、最終的には連合国の護衛空母による対潜哨戒網やアズディック、ヘッジホッグなどの新兵器の前に敗れるのである。

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