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2021年01月19日23:05

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ガイアX

2019年11月に書いた記事です。

なぜ欧州諸国は独自のクラウド「ガイアX」を作るのか? 

 ドイツ連邦政府は10月下旬に、EU域内の企業のデータを保護するために米国や中国のクラウドに依存しない独自のクラウド「ガイアX」を構築する方針を明らかにした。この背景には、製造業のデジタル化などに伴い、機密性の高い製造ノウハウや顧客データが、米国や中国のクラウドに保存されることについて、ドイツの中小企業から強い懸念が出ているという事実がある。

 ドイツ連邦経済省は10月29日に、欧州企業が機密性の高いデータを安心して蓄積できるように、欧州独自のクラウドシステムの創設プロジェクトを開始することを明らかにした。47ページの提言書によると、ドイツはフランスなど他のEU加盟国と協力して、来年上半期にガイアXを開発する執行機関を設立し、来年下半期にはテストを始める方針。
 提言書の中でドイツ政府は、「このプロジェクトの目的は、ヨーロッパのために、競争力があり、信頼性と安全性が高いクラウドを構築することだ」と述べている。ガイアとは、ギリシャ神話に登場する女神の名前で、地球を象徴する。

*独仏企業が主導

 連邦経済省がめざしているのは、多数の企業のサーバーのキャパシティーを組み合わせることによって、「ハイパースケーラー」と呼ばれるクラウド・システムを構築することで、欧州の大手企業から中小企業、スタートアップなどあらゆる企業が利用できるようにする。
 ドイツ連邦経済省のペーター・アルトマイヤー大臣はすでにフランス政府のブリュノ・ル・メール経済大臣と協議を始めている。また準備プロジェクトには、フランスのIT企業アトス、ドイツのジーメンス、ボッシュ、ドイツ銀行、SAP、ドイツ・テレコム、フェスト(中規模メーカー)などが参加している。ドイツ政府は、このプロジェクトに数千万ユーロ(数十億円)規模の資金を投じる予定だ。

*中小企業からクラウド市場の寡占化に懸念の声

 ドイツ政府が欧州独自のクラウドを創設する理由は、ドイツ企業特にこの国の企業数の99%に相当する中規模企業(ミッテルシュタント)から、米国や中国の企業が運営するクラウドの使用について、不安の声が高まっていたからだ。
 今日、世界中の大手企業の間ではクラウドの使用が常識になりつつあるが、クラウド市場は米国と中国企業によって支配されている。
 英国のIT市場調査会社カナリスによると、今年上半期の世界のクラウド・インフラストラクチャー市場の売上高は前年同期に比べて約37%増えて260億ドル(2兆8600億円・1ドル=110円換算)となったが、その内63.7%をアマゾン、マイクロソフト、グーグル、アリババが占めている。4社の市場占有率は前年同期(59.4%)に比べて約4ポイント増えた。ちなみに米国のガートナー社は、この4社の2018年のマーケットシェアが75%だったと推計している。いずれにしても、世界のクラウド市場が米中の少数の巨大企業によって支配されていることは、間違いない。
 ドイツの経済界からは、この寡占状態について危惧する声が出始めていた。ITニューメディア連邦連合会(BITKOM)のアヒム・ベルグ会長は、「外国との相互依存は受け入れられるが、一方的な依存は絶対に避けるべきだ。ドイツ政府は29年前に東西統一によって国家主権を取り戻したが、我々はテクノロジーに関する主権を取り戻さなくてはならない」と主張する。
 この背景にあるのは、米国と中国の間の貿易摩擦である。政治的な目的を達成するために、関税の引き上げや特定のメーカーの製品の取引禁止など、これまでなかった「手法」が取られる可能性がある。ドイツの経済界では、「中国のあるメーカーは、米国政府から事実上の締め出し措置を受けた。将来EUと米国の貿易摩擦が深刻化して、米国政府がドイツ企業に米国のクラウドの使用を禁止したら、どうなるだろうか。そのような可能性は低いとはいえ、我々は万一の事態に備えておく必要がある」という声が強まっているのだ。
 多くのドイツ企業がメールシステムにクラウドを使用している中、米国のクラウドが使えなくなった場合、業務がストップする危険がある。
 さらに米国や中国政府は、安全保障上の理由がある場合には、民間企業が保有するデータにアクセスする権利を法律によって保障されている。去年米国の大統領が署名した「クラウド法」はその一例だ。この法律によると、米国のIT企業は政府に要求された場合、クラウドに保管しているデータを提供しなくてはならない。しかもデータ提供の義務は、米国にあるサーバーだけではなく、米国外にあるサーバーにも適用される。この場合、ドイツ企業がクラウドに保管している機密性の高い製造ノウハウや顧客データが、政府によって閲覧される可能性がある。

*万一の事態に備える「プランB」

 米国とドイツ、EUも自動車輸出やエネルギー問題をめぐり火種を抱えている。ドイツ工学アカデミーのカール・ハインツ・シュトライビヒ会長は、警告する。彼は「米国政府はメルケル政権に対し、ロシアからドイツへ天然ガスを輸送するパイプライン・ノルトストリーム2の建設を中止するよう圧力をかけている。もしも米国政府が、『パイプラインの建設をやめなければ、ドイツ企業が米国のクラウドを使えないようにする』と宣言したら、我々はどう対応するのか?」と危機感を露わにする。ドイツ人はリスク意識が高く、用心深い民族だ。このため彼らは「危険が現実化する可能性が低くても、プランB(万一の時に備えた代替案)を持っているべきだ」と考えたのである。
 今後ドイツではインダストリー4.0(製造業のデジタル化計画)やコネクテッド・カー、5Gの普及などによって、企業が集めるデータの量が飛躍的に増加する。メーカーは、製品の使用に関するビッグデータを人工知能を使って分析する。未来の企業は、ビッグデータの分析に基づいて、顧客が求めている新たな製品やサービスを能動的に提供することで、収益性の拡大を求められている。
 このためドイツ政府は、欧州企業が安心して機密性の高いデータを保管できるようにするためには、欧州独自のクラウドの構築が不可欠と考えたのである。
 欧州のIT業界には、「経済省の構想には具体性、実現可能性が欠けている」という批判もある。しかし欧州企業が今日のクラウド市場における寡占状態について抱く懸念は、我々日本人にとっても対岸の火事とは言い切れないのではないだろうか。



 





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